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1か月の療養を経てケガが完治したすずちゃんですが、あとはリリースの日を待つだけとなりました。

 

この当時のすずちゃんは相変わらず人馴れしてくれず、保護に積極的な私でも一刻も早く元の場所へ戻してあげることがすずちゃんのためだと考えるようになっていたのです。

 

そしてリリースの日がやってきました。

 

その日は朝から大雨で5月下旬ながら肌寒さがありました。

 

予定通りにすずちゃんをリリースしたいのはやまやまですが、さすがにこの天候で外に戻すのは可哀想です。

 

仕方なくすずちゃんのリリースは延期することになりました。

 

こうして1週間後に迎えた2度目のリリース予定日は、無事に天気にも恵まれてリリースには絶好の日取りでした。

 

すずちゃんが家で食べる最後の夜ご飯にはたっぷりと美味しい物を食べさせ、その後すずちゃんをキャリーケースに入れて深夜の山中へ向かいました。

 

そして、すずちゃんを捕獲した場所でキャリーケースを開けようとした瞬間、私に迷いが生じてしまいました。

 

「もし、すずちゃんが再びケガや病気をした時、また捕獲機に入ってくれるだろうか？」

 

猫は学習能力が高く、特に嫌な経験はいつまでも覚えています。

 

すずちゃんにとって捕獲機は恐怖の対象として記憶されているでしょうから、再度の捕獲は困難を極めるでしょう。

 

それに、すずちゃんは人馴れしておらず全く触れないので、もしもの時に外猫のまま治療することはできません。

 

つまり、すずちゃんにとって再びのケガや病気は文字通り致命的になってしまいます。

 

私は誰もいない深夜の山中でひとり考え込みました。

 

すずちゃんをリリースして後悔することにならないか、自分へ問いかけてみたのです。

 

もしすずちゃんを保護すれば、きっと後悔はしないでしょう。

 

人馴れしていなくても、このまま家で過ごす方がすずちゃんにとっては安全ですし、私にとっても心配の種は無くなるからです。

 

しかし、すでにリリースのタイムリミットである1か月を過ぎており、もしリリースを見送ってしまったらこの先のリリースは難しくなってしまいます。

 

そのため、すずちゃんのリリースを中止するなら、一生保護する覚悟が必要です。

 

私はすずちゃんが入ったキャリーケースを見つめながら、30分ほど考え込みました。

 

そして出した結論は、すずちゃんを保護することでした。

 

もしリリースした後にすずちゃんが姿を消してしまったら、私は一生後悔すると思ったからです。

 

それに、すずちゃんが姿を消した場合には、きっと私は深夜の山中を毎日探しに来ることになるでしょう。

 

車で30分以上かかる場所へ、しかも深夜に猫を探しに来るのは相当な負担です。

 

すずちゃんを保護して一生お世話する負担も軽くはありませんが、すずちゃんをリリースした後に不安を抱え続けることと比べれば些細なものです。

 

こういった先のことも考えてみると、すずちゃんを保護する方が私にとっても良い選択肢だと思いました。

 

アリスくんとの約束は守れなくなりますが、いずれはアリスくんも保護してすずちゃんと再会できるようにすれば、違う形で約束を果たすことができます。

 

私は迷いを振り切るようにしてすずちゃんが入ったキャリーケースを車へ戻し、再びすずちゃんと一緒に家へ帰りました。

 

家に着いた私はすずちゃんに謝りながら、ケージへ戻してあげました。

 

ケージに入ったすずちゃんはいつも通りに寝床で丸まると、居心地良さそうに眠り始めました。

 

ほんの1か月の療養期間でしたが、すずちゃんにとっては私の家のケージの中が自分の新しい寝床になっていたようです。

 

こうしてすずちゃんは、我が家の3匹目の保護猫として新たな暮らしを始めることになったのです。
（続く）
 

★この話を最初から読む⇒TNRした猫を2年後に保護した話（その1）