予兆なく命を奪う腹部大動脈瘤。臨床研究から治療法への光を見出したい

皆様こんにちは。

皆さまの温かいご支援により、目標の５０％を達成いたしました！！

開始7日目でここまで来ることができたのは、ご支援を下さった皆様はもちろん、公式クラウドファンディングを許可して下さった阪大病院の皆様、コラボで大変にご尽力下さっている近畿大学の皆様、拡散をお手伝いして下さった私の友人の皆様、応援メッセージを下さった方々を含め、これまでにプロジェクトへ関わって下さった皆様全員に改めて深く御礼を申し上げます！引き続きどうぞ応援を宜しくお願い申し上げます。

ところで、F-HAAAT試験に参加を希望されて僕の外来に来て下さる方々に最もよく聞かれる質問があります。

「トリカプリンって一体何ですか？」

です。

全く余談ですが、臨床試験のために来ていただいた患者さんから、「先生にこのトリカブトを処方して頂いて本当によかったです！！」と外来で大きな声で言われ肝を冷やしたことがあります。

関東森林管理局HPより引用

既にお二人から言われたので本当に他にも誤解されている方がいないか心配です。トリカブトはダメですよ。

トリカプリンは、トリ（3つの）＋カプリン（カプリン酸という脂肪酸）が語源で、中性脂肪という栄養成分の一種です。僕は医者のくせに受験で化学を選択していないため、化学的なことは皆さんの方がよっぽどわかっていらっしゃいますので、ここはあまり深入りしないでおきます。

しかし、中性脂肪って健康診断で数値が高いと言われる代表格のような存在で、高いと言われたらまずダイエットをしないといけないしお酒も控えなければいけないし…という、何となく嫌なイメージがあるのではないかと思います。

↑これがトリカプリンです。

中性脂肪は実は体の中でエネルギーの貯蔵を担うとても大切な物質です。ヒトはごはんを食べたら、それが全てエネルギーになるわけではありません。大事なときにエネルギー切れにならないように、エネルギーの元としてためておく必要があります。この中性脂肪はエネルギーを蓄えるための形で、この一部を「加水分解」という作業を行ってチョキチョキ切り取ることでエネルギーが生まれるようです。特に脳や心臓、肝臓は常に大量のエネルギーが必要ですし、もしエネルギー切れで臓器不全になるととんでもないことになります。なので、エネルギーが十分体に残っている時でも、エネルギー貯金を蓄えるために中性脂肪があるのですね。

中性脂肪が大事なのはわかったけど、トリカプリンはなぜ大事なのでしょうか？

トリカプリンは中性脂肪の中でも、炭素が10個のタイプのものであり、これが一般的なごはんの中に入っている中性脂肪（長鎖脂肪酸といいます）よりも非常に高いエネルギー効率を持っているようです。すぐにエネルギーとして使われるため、トリカプリンを食べても（？）肥満の原因になったり、血糖値や中性脂肪の数値が悪化しづらいことがわかっています。

筋トレが好きな人、特にボディビルダーはよく中鎖脂肪酸（MCT）を摂っています。これは余分な脂肪として蓄積しづらく、素早くエネルギーになり、かつタンパク質と一緒に摂取することでゆっくり長く吸収し血中アミノ酸濃度を維持するのに役立ったりと、体の機能を維持するのに最低限必要である油を、少しでも良質なものから摂取しようという意識が高いためと考えられます。話が逸れましたが、この中鎖脂肪酸の中にわずかに含まれているのがトリカプリンです。

新聞で私の研究を取り上げていただいたときに、トリカプリンは「母乳に含まれる！」「ココナッツミルクにも！」と注目して頂いたため、よく「ココナッツミルクたくさん飲めば動脈瘤治りますか？！」と聞かれます。ココナッツミルクには確かに中鎖脂肪酸が含まれますが、この中のトリカプリンはごくごくごくごくわずかです。ココナッツオイルでは、ほとんどがトリカプリン以外の中鎖脂肪酸（ラウリン酸とか）から出来ていて、トリカプリン以外の中鎖脂肪酸（のトリグリセリド体）はラットの実験でも効果がありませんでした。ので、ココナッツミルクもオリーブオイルも、病気を治せると信じてぐびぐび飲むのはお薦めできません。腹部大動脈瘤が治る前に、他の病気になってしまいますよ。

ちょっと踏み込んだお話でしたが、良く聞かれるので僕の理解の範囲でお答えしました。

ではまた次回。