『或るところに、』小説紹介：古性のち さん

 

皆様こんばんは。

 

NODクラウドファンディングプロジェクトチームです。

 

『GROWND -nihonbashi- 』では、お店の価値を拡張するという意味を込めて、リアルな店舗と、デジタル上のWebサイトを行き来しながらお店を楽しんでもらいたいという思いを持っています。

 

そこで、クラウドファンディングの期間に連動して、Webと店舗の二面性を行き来しながら物語を楽しんでもらう、特別コンテンツがスタートしました。

 

プロジェクト名は、『或るところに、』。

「GRWOND nihonbashi」のビルや日本橋の街を舞台に、多方面で活躍される7人の作家が執筆した小説を順次公開していきます。

 

本日は、古性のちさんの小説をご紹介いたします。

 

 

 

誰にだってふたつみっつ、秘密があるものだ。

足下に咲いていた花の奥様が、やれ最近は花弁の艶がよくないだとか、蜜が甘くなる水があるだとか、とりとめのない世間話をはじめても、彼はやって来なかった。
 

これで何度目か、見上げた空には透明なびいどろ満月。月自身は輪郭だけを残し、他はカメレオンのように空へすっと溶けこんでいる。そのせいか否か、空はまるで魔法にかかったかのような、美しいラベンダー色をしていた。

 

昨夜、彼と喧嘩した。キッカケは相当に些細な事で、子供の言い合いのようだった。
 

「いじっぱりなんだからさ」
 

誰に宛てたわけでもない独り言が空気に溶けてかえっていく。
            
今日は一年で一度だけ、硝子のような月が空に張り付く、びいどろ満月の日。彼と一緒に、この不思議な紫色の空を散歩する日。になるはずだった。まあ、実際はわたしひとり待ちぼうけの日になったけれど。
 

肩の上で切りそろえた金色の髪をひる返し、来た道を引き返そうとしたその瞬間。道を挟んで斜向かいにある、静寂の湖が、風もないのにゆうるりと揺らいだ気がした。

 

＊

 

少し考えたのち、恐るおそる、湖面を覗きこんでみる。....>>続きはこちら