『或るところに、』小説紹介：赤澤えるさん

 

皆様こんばんは。

 

NODクラウドファンディングプロジェクトチームです。

 

『GROWND -nihonbashi- 』では、お店の価値を拡張するという意味を込めて、リアルな店舗と、デジタル上のWebサイトを行き来しながらお店を楽しんでもらいたいという思いを持っています。

 

そこで、クラウドファンディングの期間に連動して、Webと店舗の二面性を行き来しながら物語を楽しんでもらう、特別コンテンツがスタートしました。

 

プロジェクト名は、『或るところに、』。

「GRWOND nihonbashi」のビルや日本橋の街を舞台に、多方面で活躍される7人の作家が執筆した小説を順次公開していきます。

 

本日は、赤澤えるさんの小説をご紹介いたします。

 

 

生魚が食べられない。どうしても口に入れることができない。新鮮だろうが高級だろうが関係ない。あの冷たい生臭さを喜べない。鮨屋の孫に生まれたというのに、こんな不幸があるだろうか。――

私の家は小さな鮨屋である。古びた木造家屋の一階が店だ。共に暮らす祖父母は、この小さな店を毎日開いた。休まないことに使命を感じているようだが、それと同じくらい、幼い私を孤独にしないことも背負っているようだった。生真面目で慎ましいこの老夫婦を中心に、私の質素な世界はあった。

どうして私が祖父母と暮らしているのか。そして両親はどうしているのか。それは未だによくわかっていない。でも知っていることが少しだけある。それは幼い頃の記憶に残る、ある日の夕食時でのことだ。

「スミ、無理しなくて良いからね」
皿に残る生魚を見つめる私に祖母が言う。せめて火を通してくれたら食べられそうなのに、とぼんやりする。他の鮨屋にはそういうメニューもあるらしい。煮穴子なんてものをテレビで見たことがある。どうしてうちには無いのだろう、いつもそう思うがなんとなく口に出せず、冷たく皿に横たわる海の幸を見つめている。.....>>続きはこちら