開催にかける想いVol.13 柳澤隆昭先生

～Hope for Future – 未来への希望のよりどころ～

 

私は固形腫瘍の専門家となること志して小児科医となりました。今から25年も前に英国のがんセンターでの勤務時に、恩師（mentor）との出会いもあり、固形腫瘍の中でも最も治療の難しかった脳腫瘍の専門家になりたいと願い、やがて願いかなって生きて参りました。

 

　小児の脳腫瘍は、小児がんの中では白血病についで多い腫瘍です。他の腫瘍と同様に治療は進歩を認めていますが、当時も現在も、小児がんの中では脳腫瘍でなくなる子が最も多く、また小児がんの中で最も合併症・後遺症の多い腫瘍となっています。

　

　私が専門家になりたいと願いはじめた頃は、化学療法が多くの腫瘍に導入され成果が認められるようになったころでした。その後、治癒を目的にすらできなかったのが、治癒可能になった病気があります。一方、命を救うことで精一杯であったのが、治療による傷害を減らす様にと治療できるようになった病気もあります。しかし、今日もなお、世界的な努力にかかわらず治癒のための方法が全く見いだせない腫瘍、命を救うため大きな障害をさけられない腫瘍がたくさんあります。これまでとは違った新しい治療の開発が求められます。

 

　

　大きな困難に直面し、解決の糸口が見えず、時に絶望し真っ暗な気持ちになってしまうとき、そのような中でなお希望をもつことの支えは何か、どこに単なる楽観主義と異なる希望を持つことができるか、と考えます。　

 

現在よりはるかに診断・治療方法が限られ、治癒の道が全く見いだせない時代にも、なおそれ変えようと、基礎的な研究を続ける人たち、治療法を開発し新しい治療を見いだそうとする人たちがいました。小児脳腫瘍はその頻度からは、世界的に見ても、成人がんに比較して注目を集めにくい状況でしたから、何よりも治療そのものを支えるため、さらに研究・治療の開発を支えるため、篤志家が声をあげ、時にはご家族自身が主体になって、支援団体が各国で作られました。また子ども達や家族の療養を支える様々な支援団体がつくられ、制度の整備が行われてきました。その長い苦しいような歩みの土台の上に、今日があります。

 

これらの時代のこれらの人々のことを振り返ると、私たちよりも遙かに困難な、制限の大きな状況の中で、やがて変化の日がくると信じて進んでこられた勇気あるその歩みが、何よりも私たちに大きな勇気を与えてくるように思われ、私にはこれが最も大きな希望の拠（よりどころ）に思われます。どんなに困難な状況にもやがて光のさして来る日がくることが信じられるように思われ、そのために自分ができることを始める気持ちになることができます。

 

 

ISPNOは、依然として様々な困難に直面する、小児脳腫瘍の治療開発のための基礎研究・臨床研究のための世界最大の学会であるだけではなく、治療・治療後のこどもたちと家族を支えていく最良の方法を見いだそうとする世界最大の学会でもあります。さらに私たちが、当事者であったり、医療者であったり支援者であったりという様々な違った立場から、希望を見いだすための営みをどう支え発展させていくかを見いだす貴重な機会でもあります。

 

Family Dayでは、国内外の様々な患児・家族、支援団体、専門家との交流を通して、われわれの「悲願」の達成のため、文化も政治体制も大きく異なる世界中それぞれの国で、時には大きな困難な状況の中でもどのような歩みが続けられているのかを実感し、そこから多くの学びと勇気を得ることができる貴重な機会になると思います。希望がどこにあるかを実感し、希望をもって生きていくことを支える多くのヒントが得られることと考えます。日本でのISPNOのFamily Dayが実り多い貴重な機会となりますよう、どうぞ皆様、ご支援をお願い申し上げます。