ブータンより堀内です。ブータンに戻ってからだいぶお待たせしてしまいましたが、日本遠征についてご報告させていただきたいと思います。2週間の出来事を日記形式で簡潔に書くつもりが、結果として約1万字くらいになってしまいましたので、前編と後編に分けてお届けします。写真だけでも60点以上ありますので、お楽しみいただけたらと思います。

 

【3月2日】ブータン出発~タイ・バンコクの空港へ

ブータンでは毎朝校庭で朝礼があり、国歌斉唱やお経、生徒代表のスピーチがある。この朝礼で遠征メンバーを紹介し、キャプテンがスピーチをした後、スクールバスで1時間半かけてブータン唯一の国際空港であるパロ空港に向かった。

 

朝礼のスピーチ

出発前の集合写真

スクールバスの中で

 

バンコクのスワンナプーム空港到着後、乗継の時間は6時間以上あったが、ブータン国籍の場合、タイに入国するにはビザが必要なので空港内で過ごす。バンコクの空港は搭乗口がひとつだけのパロ空港とは比べものにならないほど広くてお店がたくさんあり、明るくきれいなので、生徒たちはそこをぶらぶらするだけでも楽しそうであった。「いずれ自分たちだけで外国に行かなきゃいけないこともあるだろうから」とチェックインの仕方や、搭乗口の探し方などを教えたが、わかっていない様子。この広い世界は彼らの目にはどのように映っているのだろうか。柔道に出会わなければ、彼らはおそらく一生ブータンから出ることはなかったはず。夜11時頃に日本行きの便に搭乗。

 

羽田空港到着

 

【3月3日】羽田到着、通勤ラッシュ、講道館へ

早朝に羽田空港に到着。ブータンからの移動は時間が長いので、その間はジャージを着ていたが、入国審査後に預け荷物を受け取り民族衣装「ゴ」(男性)と「キラ」(女性)に着替える。以後、日本滞在中はできるだけ正装して外出することを徹底した。この遠征は「日・ブ外交関係樹立30周年記念事業」の認定を受けており、両国の友好親善や自国の文化の紹介といった意味も兼ねていると考え、そのようにした。空港から東京滞在中の宿泊先である講道館までの移動は通勤ラッシュの時間帯に当たっていたが、講道館国際部の先生方が空港まで迎えに来てくださり、大きな荷物を車で運んでいただけたので、スムーズに移動することができた。

それにしても、ギュウギュウ詰め車内で沈黙を守らなければならない日本の電車は、ブータン人にとってはもちろんだろうが、しばらく日本を離れていた私にも不思議な空間だった。ブータンは小さな国なので、バスに乗ったり街を歩いたりすれば、必ず知り合いと顔を合わせてそこからおしゃべりが始まる。

講道館到着後、嘉納治五郎先生の像の前で手を合わせて記念撮影。講道館館長室と国際部への挨拶を済ませると、みんな死んだように眠った。やはり緊張による疲れがあったのだろう。少し休んでお昼は、今回の「講道館ユース教育柔道キャンプ」の歓迎ランチを後楽園ラクーアのビュッフェレストランで開いていいただいた。その後、館長の計らいでラクーアのジェットコースターを体験。生徒たちは「ざいー(日本語の「やばい」「すごい」などに相当するブータンのことば)」を連発。日本に着いて早々、生涯忘れられない体験をすることとなった。

 

講道館名誉館長、講道館館長、講道館監事の先生方と

 

 

午後は講道館図書部資料室の村田直樹先生による講義「柔道の歴史」を受講。夕方からは講道館少年部(小学生と中学生)の練習に参加した。講道館少年部の指導を担当するのは向井幹博先生。その向井先生に、「おまえはどこにでも現れるな」と声をかけていただいた。以前、ネパールに旅行で行った時、たまたまJUA(アジア柔道連盟)の形セミナーの指導にいらしていた向井先生に武道館で挨拶をしたのが、最初の出会いだったのだ。講道館少年部は、全国大会などで活躍している強豪チーム。早速、日本人の少年柔道家たちから多くの刺激を受けたようだ。

 

村田先生の講義

 

第2回講道館ユース柔道教育キャンプが行われています(講道館ウェブサイト)

 

 

 

【3月4日】書道体験、講道館館長の特別指導

午前中は嘉納行光先生(柔道の祖、嘉納治五郎先生の孫にあたり、講道館館長や全日本柔道連盟会長として長くお務めされた。現在は講道館名誉館長、全日本柔道連盟名誉会長)による書道体験があった。ほとんどのメンバーが書道は初体験であったが、お手本を見ながら「一本」と「柔道」という字を何度も書いて楽しんでいた。嘉納先生には「自他共栄」「龍」という字を書いていただいた。(ブータンは国旗にも龍が描かれているように、「龍の国」と言われている)これらはブータンに戻ってから額装し、道場に飾っている。右上の落款印は、実際に嘉納治五郎先生が使われていたものだという。

 

 

 

 

午後は講道館長、上村春樹先生(モントリオール五輪金メダリスト)の特別指導を受け、夕方からは講道館の自由稽古に参加した。講道館ではブータンのユース柔道教育キャンプと並行して、「講道館国際柔道セミナー2016及び平成28年度青年海外協力隊技術補完研修」が行なわれており、その参加者である協力隊研修生5人と外国人指導者8人と共に汗を流した。その参加者の中には、私の後任として秋に赴任予定の女性もおり、今回の講道館滞在中、ブータンの柔道について話す機会を持てたことは、とても幸運であった。

 

 

上村先生の特別指導

 

嘉納行光名誉館長を講師に迎えた書道体験、上村春樹館長による特別指導が行われました(講道館ウェブサイト)

講道館国際柔道セミナー2016及び平成28年度青年海外協力隊技術補完研修(講道館ウェブサイト)

 

【3月5日】上野動物園、合同稽古

この日は午前中の予定が空いていたので、最寄りの駅からバスに乗り、上野動物園に向かった。初めて見るライオンやゾウ、キリン、パンダなどに生徒たちは興奮していたが、日本人にとっては動物と同じくらいブータン人も珍しいかもしれない。世界に約75万人しかおらず、そのほとんどは山の中にいるのだ。

 

 

キリンと一緒に

 

午後は講道館の合同稽古があり、土曜日のため春日部工業高校など、外部からの参加者もあった。昨年夏に全日本柔道連盟のプロジェクト「Judo For Tomorrow」による派遣でブータンに来てくれた東海大学の学生や、JICA短期ボランティアとしてこれから約一ヶ月間ブータンに滞在する予定の東京学芸大学の学生も合流し、稽古はもちろん、それ以外にも意義のある時間を過ごすことができた。ちなみに今回の旅では、ブータン柔道協会の初代コーチ、二代目コーチ、全柔連派遣の学生コーチ2名と再会し、これからブータンに来る予定の学生コーチ(JICA短期ボランティア)、私の後任となる新コーチと初対面した。

 

 

 

講道館合同練習会に参加しました(講道館ウェブサイト)

 

【3月6日】東京都柔道選手権大会、弓道体験

日曜日は足立区綾瀬にある東京武道館に平成28年東京都柔道選手権大会(兼、全日本柔道選手権大会東京都予選会)を観戦に行った。ここまで本格的で大きな柔道大会を見るのは初めてであり、生徒たちはその規模や雰囲気に圧倒されていた。神戸で参加する大会も試合場が6面もある大きな大会なので、このような大会を事前に観戦できたことはよかったと思う。また、所属先の選手を応援に来ていた西山将士先生(ロンドン五輪銅メダリスト)や今夏のリオ五輪の日本代表選手である海老沼匡選手、高藤直寿選手と一緒に写真を撮ってもらい、生徒たちも大満足だった。柔道の世界選手権のダイジェスト動画などをダウンロードし、道場で再生できるようにしているので、こういった日本人の柔道選手は、彼らにとってもスーパースターなのだ。

 

西山先生と

海老沼選手と

高藤選手と

 

その後、茗荷谷の文京区スポーツセンターに移動し、文京区弓道連盟の皆さんの手ほどきで弓道を体験した。ブータンではアーチェリーが国技と言われているが、的が100m以上先にあるので、日本の弓道とは少し(だいぶ)異なる。しかし、弓道連盟の皆さんのあたたかいおもてなしもあり、生徒たちは日本の伝統的な武道をとても楽しんでいる様子だった。

 

 

 

弓道体験を行いました(講道館ウェブサイト)
 

【3月7日】午前休養、平岡先生と福見先生の柔道教室

少しずつ疲れも見え始めたので、週の前半は、午前中に用事を入れず休養に当てた。午後は平岡拓晃先生(ロンドン五輪銀メダリスト)と福見友子先生(ロンドンオリンピック日本代表、世界王者)に指導していただいた。お二方ともクラウドファンディングに協力してくださり、その縁で今回の講義も実現した。(お二人は筑波大柔道部の先輩後輩の間柄)現役選手に近い若い指導者から直接手ほどきを受け、より実践的なテクニックを学ぶことができた。私は日本で二十年以上柔道をやってきたがこんな機会は今までに一度もなかったので、ブータンの生徒たちはとても幸せだと思う。夕方からは講道館少年部の稽古に参加し、この日、17歳の誕生日だったキンレイ・ツェリンは練習後、講道館少年部の皆さんにサプライズで誕生日を祝っていただいた。このキンレイがその後、奇跡を起こすことになろうとは、その時はまだ誰も知る由がなかった。

 

平岡先生

福見先生

 

いちごのショートケーキをいただいたキンレイ

 

平岡拓晃五段・福見友子女子五段による特別講義、講道館少年部練習(講道館ウェブサイト)

 

ブータン中高生に柔道指導 講道館で平岡氏ら(産経)

 

【ひとやすみ】

ここまで、公式行事の内容をご報告してきましたが、ここでオフショットを。講道館滞在中は、男子+コーチ、事務局長は和室大部屋に宿泊させていただきました。生徒たちはものすごく寝相が悪いです。そして口うるさく言っているのですが、片付けもできません。生活態度も少しずつ成長していってほしいと願っています。

 

 

そして、今回の遠征で最も苦労したのは、食事です。以下、食事に関する記述を日記より。

 

生徒たちは財布を持ったことがなく、外食の経験もないメンバーがほとんどなので、東京滞在中の昼と夜は必ず全員を連れて食事に行った。日本には英語のメニューを置いてあるところは少ない。ブータンとネパール以外の料理に馴染みのない彼らのために、まずはどんなメニューがあるのか説明し、注文を取り、食事の進み方やマナーなども注意深く見ていなくてはならなかった。一番大変だったのは、メンバーの中にベジタリアンが2名いることで、野菜だけの食事がありそうな店や、肉を抜いて調理してくれる店を探すのには苦労した。実際のところ、具は野菜だけだとしても、スープや味付けに豚骨エキスや魚介の出汁、フライの衣に卵を使っている場合がほとんどで、日本で完全菜食主義を通すことはほとんど無理に近いのではないかと思う。近くにあるネパール、インドでは、ブータンで食べている物に近いものを選ぶことができたが、日本となると全く状況は異なる。結果、ベジタリアン2名(女子1名と事務局長)の他、コーチともう1人の女子も食にかなり保守的で、自分の気に入ったもの以外はあまり口にしなかった。ベジタリアンと言うと日本では健康志向のようなイメージがあるが、ブータン人の場合、それには当てはまらない。野菜が好きかと言うとそうではなく、「肉・卵は食べない。さらに自分の普段食べていないもの(生の野菜やあまり馴染みのない野菜)も食べない」のである。神戸では朝食がビュッフェ形式だったので、何を食べているのか観察してみたが、食べていたのはライスやじゃがいもなどの炭水化物類、甘いデザート(フルーツはあまりとらない)だった。今後、国際大会に出場する機会が増えていくことを考えると、こういった知らない食(文化)への適応能力や普段どんなものを食べているか(偏食がないか)も、選手選考の際に考慮しなくてはならないと思う。試合前にコンディションをよい状況に保たなくてはならないアスリートなら尚更である。若い男子たちは比較的いろいろなものを試し、よく食べていた。(日本食とは言えないかもしれないが)一番人気はカレーにトンカツや唐揚げなどの揚げ物をトッピングしたプレートで、これは日本の中高生男子と同じかもしれない。ブータン人はよく水を飲むので、水や氷が自動で出てくる機械をとても気に入っていた。

 

よく食べる男子たち

 

吉野家初体験


日本遠征(後編)に続く

新着情報一覧へ