『科学の時間』【Lesson2:体内で薬を運ぶ郵便屋さん“DDS”】

 

『科学の時間』の第一弾 『ミトコンドリアの紹介』、いかがだったでしょうか？私たちは、『ミトコンドリアに薬を届けるナノカプセル』の開発を進めていますが、DDS技術の活用が必要不可欠です。

 

「DDSって何？」と思われている方が大多数であると思います。今回のLessonでは、『DDS』を説明させていただきたいと思います。

 

 

体の中で薬を運ぶ郵便屋さん “Drug Delivery System (DDS)”

DDSとは、Drug (薬)、Delivery (配達)、System (装置)の略称で、『薬を配達する装置』のことです。もう少し詳しくいいますと、DDSとは薬を「必要な場所」に、「必要な量」を、「必要な時間」だけ働かせる考え方、それを実現する技術のことです。

 

この言葉は、第1回ノーベル生理医学賞を受賞したPaul Ehrlich博士が提唱したMagic Bullet （魔法の弾丸）に端を発します。

 

 

ここからは、「抗癌剤にDDS技術を活用した例」についてお話させて頂きます。抗癌剤の多くは細胞にダメージを与える働きを持っています。ですので、癌細胞に働く（作用する）と癌を小さくします（期待する治療効果を『主作用』ともいいます）。

 

一方で、正常な細胞、例えば毛母細胞（毛を作るもとになる細胞）に作用してしまうと、脱毛という形で『副作用』があらわれます。脱毛以外にも、心臓、消化器などに大きな副作用を示すこともあり、癌は小さくなっているのにもかかわらず、副作用による体への影響が大きすぎて、治療を断念しなければならないケースもあります。

 

 

DDS技術を活用して、抗癌剤を癌に集積させることができれば、主作用である癌を小さくする効果を最大限に高め、副作用を最小限に抑えることができます。

 

人類は、体の中で薬をいつ、どこで、どのように効かせるかをコントロールする（体内動態制御といいます）DDS技術を、20世紀中に成功させています。

 

一方で、そうした薬は、対象となる癌の種類が限定されていたり、癌の薬剤耐性（抗癌剤を使い続けると効果が減弱すること）があったり、大量調製にコストがかかるなど、解決すべき課題は多く残っています。

 

 

これらを打開するため、細胞の中の薬の動きを操る（細胞内動態制御といいます）、次世代DDSの技術の開発が求められています。このような未来医療を実現するためには、『ナノ』カプセルを活用した新しいDDS技術の開発が必要となります。

 

この話題については、次のLessonで紹介をさせて頂く予定です。本日のLessonはここまで。DDSについて興味をお持ちの方で、より深く勉強したい方は以下の書籍をご覧ください。

 

 

★『科学の時間』では、ミトコンドリアとDDSを中心に話題提供をさせて頂く予定です。興味のあるトピックがありましたら、是非こちらまでご連絡ください （ri-mitoporter@pharm.hokudai.ac.jp）。