この四式中戦車チトの探査で、素人の私が最も心を惹かれ、最も注意したのは、大平技術少尉の様々な思いでした。

終戦まもなく軍本部からの密命を受け、チトと共に合計３台の車輛を浜名湖瀬戸に入れたのでした。 私が注目したのは、その後の大平さんの人生です。私が考えるに、終戦となれば軍人は生まれ故郷や変えるべき場所に行くのが普通だと思います。戦が終われば用が無いわけで、その駐屯していた土地に残って生きる理由がありません。では、大平さんはどうだったのだろうと・・・。

結論は、大平さんは三ヶ日、この地に残りました。

みなさんも、三ヶ日に残りますか？私は、町の年寄りたちに大平さんのことを聞きましたが、なかなか大平さんのお墓さえどこにあるのか判りませんでした。町の中では、大平さんは気難しい将校あがりで・・・くらいにしか皆に認識されていなかったようです。有名人ではなかったのですね。ですから、大平さんのお墓の場所は誰にも注目されることなくごく普通のお墓のひとつとして建てられました。　スマッペの中で調査にあたっては、大平さんのお墓に一度お参りに行こうとなっておりましたが、なかなかお墓の場所が判りません。調査段階で知っておりましたが、一向にお墓の場所がわかりません。

　 ある日、スマッペの会員の一人から「どうやらウチのオヤジが誰かから聞いてお墓の場所を知っているらしい」と情報が入りました。行ってみると、それは、三ヶ日の町の北に位置する三ヶ日東名ジャンクションに近い小高い丘の上の墓地でした。教えられたようにその墓地に行って、墓石の墓碑家名を一つ一つ探しました。比較的新しい墓地でしたが、なかなか大平家を見つけられませんでした。「中村さん、ないですね」「健二さん、本当にここですか？」本当に見つかりません

でした。

　とうとう見つけて、私自身、本当に驚きました。その後もお墓に連れていった誰もが、同じ体験をしました。それは、大平さんのお墓は、その墓地でも、一番端の端で、普通ならここにお墓は買わないという場所でした。しかもお墓は、直線で３ｋｍ向こうに、何一つ遮るもののない、あの戦車を沈めたとされる瀬戸の橋がしっかり見える場所にあったのです。　亡くなってもまだ戦車を見守る「男の生き様」を見たような気がしました。視線のずっと先、湖面に光る太陽の煌めきの中に、ひっそりと誰の目にも触れず６９年の年月を超えて、湖底に眠る戦車のイメージが私の中にはっきりと見えた瞬間でもありました。

　横井さん、小野田さん、戦争の犠牲者として自らの人生を「戦闘は継続中なり」として戦地に残った一兵士として、結果、日本に戻ってきたお二人の言葉には、「恥ずかしながら日本に戻ってまいりました・・・・」など彼らの心の内側を
想い察するものはあります。それと同じような「男子、本懐を遂げる」といった、決して戦争賛美ではなく、生きたかとして私は思いめぐらせる「何か」を感じずにはおられません。　隠し続けることを選んだ大平さんの思いとは裏腹に、私は
その暗闇に眠る「幻の戦車」の存在を明らかにすることを続けようと思っています。

　気難しく眉間に皺を寄せて煙草を吹かす大平さんの表情の中にある何かを調査を通じて感じるたびに、諦めることなくこの調査を続けようと、一生かかっても続けようと思う今日この頃です。

（戦車が沈んだとされる場所を指差す大平さん）

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

中村健二