終了報告：「記録保存」と「カプセル保存」の完了と今後について
私たち、中銀カプセルタワービルＡ６０６プロジェクトが2021年5月〜7月末に支援の募集を行ったクラウドファンディング「解体迫る！中銀カプセルタワービル全戸調査記録＋動くカプセルで保存へ」の終了報告を致します。
今回のクラウドファンディングでみなさまとお約束していた２つの保存である「記録保存」と「カプセル保存」は、2022年９月末、無事に完了しました。
ご支援頂いた308人のみなさま、私たち中銀カプセルタワービルＡ６０６プロジェクトの活動を応援頂きまして、誠にありがとうございました。また、クラウドファンディングには間に合わなかったけれども、気にして頂いたみなさまもありがとうございました。
また、中銀カプセルタワービル最終所有企業の関係者のみなさま、解体企業の東京ビルドさまには多大なご協力を頂きました。ありがとうございました。
私たちが実際に取り組んだこと、今後についてご報告します。
◎ 私たちが実施した「記録保存」について
建物は一度解体されたら、その建物が抱えていた物質とともにあらゆる情報も消えてしまいます。そこに建物があれば見て知ることができた些細なことも、解体されると二度と調べることはできません。その情報をできる限り記録し、後世につなぐために私たちは「記録保存」に取り組み、成果物として中銀カプセルタワービル全戸図録「カプセル1972-2022」をまとめました。
中銀カプセルタワービルの解体工事開始前までに全140カプセルと地下から塔屋まで全館の実測調査を実施、および、１億5100万画素の超高解像度カメラPhaseONE「IQ4 150MP」をメイン機で写真撮影を行いました。一部、3Dスキャンと映像撮影も行っています。
実測調査では、大月敏雄先生（東京大学 教授）、志岐祐一氏（株式会社日東設計事務所）にご指導・ご参加頂き、また、一般社団法人Docomomo Japan有志、一般社団法人日本建築学会関東支部建築歴史・意匠研究委員会有志、公益社団法人日本建築家協会有志をはじめとする社会人有志の先生方・建築家のみなさま、東京大学の学生有志のみなさまとともに実測調査を行いました。
これら解体直前の2022年4月中旬までの内容をまとめたのが、今回のクラウドファンディング・リターンの中銀カプセルタワービル全戸図録「カプセル1972ｰ2022」です。
具体的には、実測野帳（実際の様子をもとに記録する手書きの寸法入り図面など）の内容をＣＡＤ化した実測図と写真で、作図も多くの社会人有志の方々にご協力頂きました。
全戸図録「カプセル1972−2022」は400ページ・オールカラー、全140カプセルの1972年当時と2022年最期のカプセル内部の姿を比較する図面やオプションリストも加え、中銀カプセルタワービルの地下から塔屋までの全館を実測した実測図面と、全140カプセルと全館の800点を超える写真とともに掲載しています。
図録をご覧になったご支援者のみなさまから、「支援して本当に良かった」、「図録を見て感動した」といったご感想をいただきました。
私たちがお声がけしたことでgluonが中心となって中銀カプセルタワービル３Ｄスキャンが行われました。私たち中銀カプセルタワービルＡ６０６プロジェクトと協同で同時進行で行っていました。「3D Digital Archive Project /
建築『中銀カプセルタワービル』を3次元スキャンで記録に残したい。」に内容は詳しく書かれています。ご興味がある方はリンク先をご覧ください。
解体が決定する前から、私たちはカプセルＡ６０６を竣工時にレストアしてきました。
円形のブラインド（竣工時はシャッターと呼ばれていたそうです）を復元したり、オリジナルの棚を直したり、ブラウン管テレビで地デジやNetflixを見ることができるようにしたり、オープンリールを使って音楽を楽しめるようにしたり、冷蔵庫も直し、電話もジリリリンと鳴って使えるようにするなど設備機器類も使えるように直していました。古いまま我慢して使うのではなく、古いものをその形をとどめながら直して現代的にも使えるようにレストアしながら、カプセルをシェアオフィスとして2021年８月まで運営をしてきました。
私たちは、中銀カプセルタワービルの竣工時のオリジナルがどういうものだったのかずっと考え、調べ続けています。中銀カプセルタワービルの竣工時の図面はあるのですが、実際につくられたものとは違います。最期の姿を実測し、それらをもとにオリジナルについて推測する必要がありました。
2021年８月の実測調査の内容をもとに、私たちは建物解体直前の2022年３月末に、中銀カプセルタワービルのカプセルＡ６０６に失われたベッド、スツール、マットレスを復元しました。これらの制作には、家具職人さんらにご協力頂きました。
◎ 私たちが実施した「カプセル保存」について
私たちはカプセルＡ６０６の外壁・軽量鉄骨といった躯体だけではなく、部屋の内壁などを打ち付けていた木の下地などを含むオリジナル内装・パーツをアスベスト対策をした上で自ら取り外して、倉庫に保管しました。カプセル本体とオリジナルパーツ類が「カプセル保存」の成果物で、最初の写真です。
私たちはカプセルＡ６０６を譲り受ける可能性がでてきた2020年年末から、どうやってカプセルの「オリジナル」を保存するか考えていました。
カプセルの壁・天井・床の裏には1970年代は合法だった吹付アスベスト（石綿）が使われているため、建物解体時に内装を全て撤去した上でアスベストの除去が行われることが予想されました。カプセルはメタボリズム建築で交換可能というイメージがありましたが、アスベストがあることや接続部分の問題から、内装がきれいな状態でカプセルをそのままの状態で外すことはできないと、解体についての連絡があった2020年末に私たちは想定していました。
何もしないで放っておくとオリジナルの内装は全て廃棄されてしまうため、アスベスト環境下から自らオリジナルパーツを丁寧に取り外すことを決め、2021年夏までにアスベスト関連資格を取得しました。
まず、2022年4月にアスベストが関係のない範囲で家具の戸などを外しました。この時、カプセルＡ６０６の二重窓も取り外しています。カプセルを取り外す際、変形などを極力防ぐためです。後に溶接して再度付ける予定でいます。
その時の様子は、イギリスのdezeenに取り上げられました↓
2022年6月にはアスベスト対策をした上で、自らカプセルＡ６０６のオリジナル内装・パーツを取り外しました。アスベスト対策の保護マスク・防護服などを着用しての作業は猛烈な暑さで過酷でした。
オリジナルがどうつくられていたのかということを考え続けているため、私たちは表に見えているパーツだけではなく、壁の木の下地なども取り外し保管しました。壁や天井・床、家具やユニットバスがどのようにカプセルに固定されていたのか、そういったことも見ながら自ら外しているため、カプセルのつくりが分かってきました。
これらは、のちにオリジナルを復元する際に大いに役立ち、多くの方と使いながら残す「シェア保存」につながっていきます。
内装を取り外した後のがらんどうのカプセルＡ６０６は、とうとう2022年8月24日に、解体業者さんによって丁寧にＡ棟タワーから取り外しが行われました。
そして、8月27日に銀座の地から離れました。大変多くの方々にカプセルＡ６０６はお見送りをしてもらいました。いままで出発したカプセルの中で最も多かったと思います。
カプセルとオリジナル内装類を保管するために、私たちは北関東に倉庫を借りました。そこへ運び込む際、トレーラーからおろしたり、カプセルを運ぶのにフォークリフトを使用していますが、この時のために副代表はフォークリフトの資格を取得しました。
■ 収支報告について
収支報告は、事前に２回に分けてして参りました。内訳の詳細は2021年12月31日「2021年末時点の収支のご報告」と2022年9月26日「2022年8月末までの収支のご報告」をご覧ください。下記の概要の通り、みなさまからのご支援金額は「記録保存」と「カプセル保存」に役立たせて頂きました。ありがとうございました。
【 ご支援金額 】4,063,000円
【支出金額〜2022年8月末】4,209,858円
（1）READYFOR手数料 ： 983,246円
（2）リターン制作費 ： 808,893円
（3）「記録保存」関連費 ：1,025,808円
（4）「カプセル保存」関連費：1,391,911円
■ 私たちの今後の活動について
私たちは当初より、「記録保存」、「カプセル保存」、「シェア保存」といった3つの保存を掲げていました。
残りの「シェア保存」は、多くの方とシェアしながら保存していくためにカプセルＡ６０６をモバイルカプセルにすることをお伝えしてきました。
◎ モバイルカプセル
モバイルカプセルにむけて準備は進めてきました。すぐに取り組みたいところですが、カプセルの大規模な修繕・部材の取替などが必要となることが分かりました。
大きく３つの問題があります。
１：オリジナルの横幅では道を走るのが困難
カプセルの車輌化を考え始めてから分かっていたことですが、カプセルの横幅が大きすぎるのです。
カプセルは壁と壁の芯の横幅が2500ミリあります。実測したところ、外形は2700ミリ程度ありました。道路交通法では2500ミリ（2.5ｍ）を超える車輌は「特殊車両」という扱いになり、移動する度に届出などが必要となります。それでは自由に動き回ることができないため、私たちはカプセルＡ６０６のリサイズを検討してきました。いわゆるキャンピングカーやトレーラーハウスといったサイズ感です。
リサイズするとなると外壁のパネルを外し、軽量鉄骨を切るなどの作業が必要です。これ自体は物理的にも法的にも可能な内容ですが、オリジナルのサイズを保たなくて良いのかということも考えなければいけません。また、重い鉄骨をリサイズするのは簡単ではありません。
また、オリジナルのサイズのまま車輌化するとなると、前例がない話しのため、そのようなことができるかどうかは関係各所と要調整事項となります。
２：カプセル内のアスベストは除去しきれなかった
残念ながら、もう１度カプセルのアスベスト除去作業が必要となりそうです。
建物を解体するにあたって、アスベスト除去業者さんがカプセル内のアスベストを丁寧に除去していました。私たちもアスベスト除去工事期間中に内装の取り外しを行っていたので、その大変な作業工程を目にしていました。
カプセルのアスベスト除去作業を進めていく中で分かったことが、カプセルの外壁と躯体の軽量鉄骨のすきまのアスベストが除去しきれないということです。カプセルを譲り受ける私たちは、解体業者さんから説明を受けました。
私たちはできる限りアスベストを除去をしてもらうために、カプセル内の下の鉄骨を切ってもらい、できる限りアスベストを除去してもらう選択をしました。
そもそも、アスベストの除去作業は、人間が手作業で行っています。カプセルに内にあるような「吹付アスベスト」は、へらや金属製のブラシなどでこそぎ落とし、それを分厚い手袋をした手で集めて専用の特別産廃用袋にいれて廃棄したり、真空掃除機で取りのぞいたりします。手作業のため、基本的に手が入らない隙間のアスベストは除去しきれないのです。
下記写真は、（１）８月末の下部鉄骨をカットしたカプセルＡ６０６内部の様子、（２）外壁とカットした鉄骨のすきまが分かる断面です。鉄骨をカットすることで手が届く範囲を広げ、できる限りアスベストを除去してもらいました。
カプセルを運ぶ際に梱包されていたのも、アスベスト飛散防止のためです。中央区から指導があり、アスベスト対策用の厚いシートが二重で梱包しなければいけなかったそうです。
今回、アスベストが完全に除去しきれていない状態ですが、上から固着液をかけることでアスベスト飛散防止となり、日本の法律上は運ぶことも使うことも問題無い扱いにはなっています。
ですが、それは現状と変わらない状態を保ち、今後もカプセルの外壁が健全に保たれた状態に限定された話しです。
３：カプセルの外壁は穴が開きやすい
今回、とても丁寧にカプセルの取り外しが行われましたが、50年もメンテナンスがほぼされなかったカプセルの外壁には傷みがひどくありました。
カプセルＡ６０６も例外ではなく、隣のカプセルとの間の外壁は非常に傷みが激しく、原形をとどめていないところもありました。少し押しただけで崩れ落ちる壁すらありました。
また、築10年程度でカプセルは雨漏りしていたという過去の記録もあるため、長い間、屋外で風雨にさらされると外壁に穴が開きます。そこから外壁と躯体の間に残っているアスベストが飛散する可能性があります。
そのため、外壁パネルについても復元を行う必要があり、今後もメンテナンスできるようにしていきたいと考えました。
写真はカプセルＡ６０６のシャフトや隣のカプセルで隠れていた外壁パネルです。ボロボロでした。
これらから、カプセルＡ６０６をモバイルカプセルにするにあたって、改めて法の整理と大規模な修繕や改造などが必要そうです。少し時間が必要ですが、私たちは実現したいと考えています。
◎ メタボリズム建築の実現へ
私たちは50年後の未来に、50年前のカプセルを残していきたいと考えています。
いくつか新着情報でご報告をしていましたが、Ａ６０６の他に複数カプセルの救出を2022年7月末から行いました。
せっかくきれいにＢ棟から取り外されるカプセルが、おろされた地上で重機でつぶされていく姿を見て「どうにかできないだろうか」と考えていました。放っておくと全て鉄くずとして捨てられてしまうため、私たちは最終所有企業に働きかけ、カプセルを追加で救出することにしました。
また、オリジナルパーツもこつこつと複数救出してきました。ここに写っていないものがたくさんあり、現在、北関東の倉庫に全て保管しています。
これらの複数のカプセルやオリジナルパーツを使用して、ミニタワーなどを建設してメタボリズム建築の実現を目指したいと考えています。
中銀カプセルタワービルの解体期間中に、シャフトとカプセルの接続部分についても分かってきました。今回、解体業者さんがかなり苦労してシャフトからカプセルを切り離していました。オリジナルの接続方法ではカプセルの交換はとても困難なつくりのようです。
メタボリズム建築の実現にあたって、接続方法を再度考える必要があるかもしれません。オリジナルのままでは、50年後にまた同じような大変な想いをする人がいるかもしれないのです。
私たちは、長いスパンでカプセルの行く末を考え、良い形でカプセルを復元し、様々なことを実現していきたいと考えています。
今後もみなさま、私たち中銀カプセルタワービルＡ６０６プロジェクトの活動の応援を何卒よろしくお願い致します。
さいごに、本日、9月30日の中銀カプセルタワービルの様子の写真を載せます。地上部分が全て撤去されました。地下部分は残したままにするそうです。
2022年9月30日
中銀カプセルタワービルＡ６０６プロジェクト
代表 いしまるあきこ
