
支援総額
目標金額 10,000,000円
- 支援者
- 1,453人
- 募集終了日
- 2020年10月16日
ふたつの決定、比較しての雑感|水野 智幸氏(元裁判官)
現在、袴田巖さんに対する裁判所の決定は、実質的に無罪の決定と有罪の決定とに分かれています。2014年に静岡地裁が再審(裁判のやり直し)開始決定を出しました。加えて、死刑と拘置の停止を決定、袴田巖さんは解放されました。この決定のことは、裁判長(村山浩明氏)の名前から「村山決定」と言われています。
村山決定に対して検察が東京高裁へ不服を申し立て(即時抗告)、高裁は再審開始決定を棄却、しかし死刑と拘置の停止決定は維持する、という決定を出したのです。この決定のことは、裁判長(大島隆明氏)の名前から「大島決定」と言われています。
元裁判官で現在弁護団の一員、水野先生にごく簡単な分析をお願いしました。
この正反対の決定について、元裁判官の水野智幸氏に簡潔に語っていただきました。
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ふたつの決定、比較しての雑感
水野 智幸
(法政大学法科大学院教授・弁護士)
1 有罪判決を支える証拠構造の脆弱性
袴田事件の最大の特徴は、犯人と被告人の結び付きを示す客観的証拠が極めて薄いというところにある。自白はあるが、有罪を認定した確定判決でさえ、その任意性・信用性に多くの疑問点を呈しており、到底、心証の主たる根拠とすることはできず、客観的証拠の有無・評価が、有罪・無罪を分ける最大のポイントとなる。
客観的証拠として、通常の事件で見られるような、被告人の痕跡が現場で発見されたとか、凶器や奪ったお金が被告人の周囲で発見されたということもない。被告人が犯行に及ぶ動機・経緯などの状況も不明である。
そこで唯一のものが犯行着衣であるが、それは、当初はパジャマとされ、途中から5点の衣類ということになった。その経緯自体が不可解であるし、内容的にも種々の疑問が存するものである。
このように、確定判決が有罪と認定した証拠の構造は極めて脆弱である、という点が、まずもって前提とされなければならない。確定判決後の控訴審・上告審判決や、第一次再審の各決定も、この点に正面から答えるものはない。
2 村山決定について
村山決定は、5点の衣類の疑問点の解明に正面から取り組んだ。DNA型鑑定については、細胞選択的抽出法という新たな手法について相当に慎重に検討を重ねた上で、結論的に本田鑑定の信用性を認めた。色に関する証拠についても説得的な評価を行った。その他の証拠についても検討を加えた上、さらに自白獲得に向けた捜査官の姿勢をも評価した上で、5点の衣類は警察によるねつ造であるという、論理的な推論を行っており、そこに飛躍や破綻は見られない。
3 大島決定について
これに対し、大島決定は、本田鑑定の手法、特に本田の裁判所に対する対応という本筋ではない点にのみ焦点を当てたもので、1の前提を踏まえた全体的な評価という姿勢に乏しいものである。検察官の苦し紛れの「紛れを誘う手」に引っ掛かったという印象を拭えない。色に関する証拠についての評価など、ずさんとしか言い得ないものであり、村山決定に対する反論になり得ていない。自白獲得過程の違法性にも目をつぶっている。全体として、警察や検察の捜査・訴訟活動に対する姿勢は極めて甘く、被告人・弁護人側には極めて厳しい姿勢で臨んでいる。
4 村山決定と大島決定を分けたもの
この違いはどこからきたのか。まずもって、1の証拠構造の脆弱性に対する自覚が、異なっていると思われる。
また、裁判官は、日頃の仕事の中で、どうしても、捜査側に甘く、被告人側に厳しい見方が生じてくる。当たり前のことだが、日本の捜査機関が、日常的に違法捜査を行っていることはないであろう。多くの事件では、被告人側が苦しい弁解を行うことが多い。このような事件を多く見る中で、裁判官は、そのような見方に馴染み、そうした姿勢が自然と身についてきてしまう。
しかし、警察が違法捜査、しかも証拠のねつ造などの挙に出ることがあることは、歴史が証明している。現に、戦後の静岡県警では数件の事例があるのである。
大島決定は、警察が証拠のねつ造をするということがあり得ないという前提から出発しているが、それは余りに甘い見方である。もしかしたら、ねつ造の可能性を考えながら、そこまで踏み込むことへの躊躇があったのかもしれない。裁判官として、警察や検察と全面的に対立することへの恐怖があったのかもしれない。キャリアシステムを採る日本の裁判官には、どうしてもそのような官僚的な側面がある。意識的に、それを自覚しないと、そのような判断に至ってしまう。
村山決定は、証拠だけを虚心坦懐に見て、それを評価したところ、常識的に考えれば、警察がねつ造したとしか考えられないと結論付けたものである。そこに、大島決定のような、証拠以外の考慮は窺えない。
どちらに説得力があるかは、熟読すれば一目両全である。
5 大島決定が被告人を拘置する決定をしなかった点について
なお、大島決定は、村山決定のうち再審開始決定を認めた部分を取り消しながら、死刑及び拘置の執行を停止した部分の取消しはしなかった。
大島決定は、被告人の生活状況等に照らすと逃走等のおそれが高まるとはいえず、取消しが相当であるとまでは言い難いと説明しているが、再審開始を取り消すのであれば拘置等の執行停止も取り消すのが論理的帰結であるにもかかわらず、「再審開始は取り消すが、身柄の収監はしない」という、ある種の和解的な判断を持ち込んだもので、論理的明快さに欠ける。
リターン
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- 911
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- 申込数
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