体験談から語る木版画のデープな世界(その5:最終回)

私が次に目指す木版画は、次のようにしたいと考えていました。

・私の決めた画題で作品作りをしたい

・メッセージ性があるものにしたい

・木版画でしかできない作品にしたい

そんな中、昨年の3月11日、「奇跡の一本松の素材で作った万年筆が本日発売!」とのニュースがありました。奇跡の一本松は、枯れてしまったけど巨費をかけてレプリカを作ったはずなのに、これはどういうことなのでしょう?

更に記事では、奇跡の一本松の素材でかつてバイオリンを作ったこともあり、そのDNAを引き継いだ種から再生を試みることも続けられているそうです。

そこには、レプリカでは満足できない無念さが、いまだ歴然と存在していることが伝わってきます。

また、ネットからそのレプリカの様子を見てみると、確かに一本松の現物としては変わらないものにはなっているのですが、周辺などは綺麗に整備されていて昔の面影はありません。震災直後の写真をネットで探してみますと、実際には一本松の周辺はがれきが散乱しており、その中で奇跡的に生き残った一本松があったのです。

そんな写真を散策していて、一枚、ずば抜けてその勇姿をよくとらえた写真に出くわしました。

 

(奇跡の一本松の素材による万年筆)  (奇跡の一本松のリアルな写真)

 

「この写真は木版画になる!」と、私はひらめきました。この写真は木版画と見事に共振するデザインと成りえるものであったのです。

そして、木版画はノストラジックなものを描く能力に秀でています。ですから、この写真が木版画となれば、喪失した無念さを払拭すべく、奇跡の一本松の本当の勇姿を再現できるに違いない!と思えたのです。

更に木版画は量産化ができるので、多くの人たちとその感動を共感することもできます。

私は、是非この写真を次の作品として木版画にしたい、と思い、まずは早速この写真の持ち主を探しました。

いろいろ手を尽くして、一般社団法人みちのく巡礼の理事長、櫻井史朗さんが震災後20数日後に撮影されたものであることが分かりました。

 

この写真の使用権を撮影者から得なければいけませんので、「みちのく巡礼」に問い合わせをすることにしました。

みちのく巡礼というのは、災害犠牲者追悼と伝承の場を創設し、震災の記憶、教訓を後世に伝えることを目的とする団体です。

その目玉となる活動は、災害犠牲者追悼と伝承の場として、四国八十八ヶ所お遍路巡礼の東北版を構築するという壮大なプロジェクトが進行中です。

http://michinoku-junrei.info/

 

 

メールで写真の使用権の問合わせをしたところ、数日後櫻井さんご本人から直接お返事を頂きました。

ありがたいことに、活動の主要目的の一つが「震災を後世に伝える」ことですので、喜んで提供しますとのことでした。

また、ネットで見える写真は解像度が低いものでしたので、解像度が高い写真も頂けないか、とも問い合わせたところ、びっくり仰天なお返事がありました。なんと、櫻井さんは脳梗塞で倒れたばかりの入院状態で、ようやく腕が動くようになり、病院からパッドでメール送信をしているそうなのです。

写真は自宅PCに保管されているはずだけど、しばらく入院が続くから、帰宅できるようになるまで待ってもらえないか?とのお返事でした。

もちろん、私としてはそんな話であれば、帰宅できるまで待つことはやぶさかではなく、その後櫻井さんのメール友達として闘病生活にお付き合いすることになりました。その間に何度となくメールのやりとりをして櫻井さんの超人性?を知ることになりました。

過去においては、何度となく四国八十八ヶ所巡礼を経験されていて、いわばエクスパートでもあり、本まで執筆されています。

http://michinoku-junrei.info/custom1.html

 

櫻井史朗さんと執筆された本

 

震災当日、櫻井さんは宮城 金華山にみえて津波に襲われ逃げ惑う中、三回も命拾いをされたそうで、今回が四回目とのことです。半身不随もやむなしとも思われた絶望的な状況から、医者がびっくりするほどの急速な回復をとげて、半年ほどでなんとか歩行できるレベルにまで回復してきたのです。やはり、大きな志を持ってる者には、こんなことも起きるものなんだなぁと感心しました。

昨年の秋頃、自宅への一時帰宅が許されたので、さっそく自宅PCの確認をして頂きましたが、高解像版は消去されていたことが発見されてしまいました。

作品化に向けては難しい状況となりましたが、しかし奇跡の一本松の勇姿を伝える素材としては、やはりこの写真の右に出るものはありません。

その点、岡本辰春さんにこの写真を見せたところ、彼もこの写真のすばらしさには共感していただけたので、非常に難しい作業にはなるのですが、この解像度の低い写真を元に、他の写真も参考にしながらこの写真を忠実に拡大し、木版画に合うデザインを作って頂くことにしました。

作業としては難しくなりましたが、これで大きな写真というものもできなくなったわけですから、やはり木版画しかなくなりますので、よりやりがいが出てきます。

 

櫻井さんと何度もメールをやり取りすることによって、何でも相談できるとても親しい間柄となりました。

今回のプロジェクトにおいては、重要な同意者でもあり、みちのく巡礼が作られた震災関連のDVDをリターンのひとつとして採用もさせて頂きました。

考えてみますと、ふたりにはどこか共通点があるようにも思われます。

櫻井さんは、東北版巡礼で震災の記憶、教訓を後世に伝えようとしています。私は、木版画で失われた一本松の記憶を後世に残そうとしています。

被災地支援というのは、今まで物質的な支援が主流でした。しかし、ふたりが目指そうとしているのは、精神的な支援のように思います。

今後もふたりとも、なんらかの形で協力しながら、被災地に向けて精神的な支援を進めてゆきたいと思います。

 

リターンのひとつとなっている、みちのく巡礼制作のDVD

 

 

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