世界的に評価の高い浮世絵ですが、その高度な木版画は江戸時代のみならず明治、大正、昭和の中頃まで作られてきたようです。

しかし、世界屈指のボストン美術館においてもそれ以降のものが見受けられないのは何故なのか?という疑問は、その後も私の趣味レベルの研究テーマとなりました。

海外赴任から帰任し、インターネットが普及するにつれ、木版画についての様々な知識も習得できるようになり、徐々にその疑問が解けてきました。

浮世絵レベルの高度な木版画は、先に説明したように分業制でなければうまく作れません。デザインを描く絵師、版木を彫る彫師、版木から和紙に摺る摺師、そしてそれをビジネスとして企画、販売を行う版元、その四者よる分業制が必要です。組織的には版元の下に職人として絵師、彫師、摺師が雇われるという関係でした。

当初私は、彫師、摺師といった高度な職人がいなくなったから作れなくなったと思っていましたが、そうではありませんでした。現在においても数は激減しましたが、東京や京都にはそれら職人は、しっかりと存在しているのです。江戸時代からの伝統を引き継いて、昔と同等或いはそれ以上の技術を有した職人がまだいるのです。

 

 

一方で、浮世絵を筆で描いたものだと思い違いをしていた私ですから、木版画に関する用語を学び直しました。主な用語としては、

・浮世絵:江戸時代に作画。絵師、彫師、摺師の分業制で作られた多色摺りの

               木版画。

・新版画:明治末期から昭和中期迄に作画。浮世絵同様の制作工程であるが、

               摺りの技法がより高度化している。

・伝統木版:絵師、彫師、摺師の分業制で作られた多色摺りの木版画の総称。

・江戸木版画:江戸、東京(現代も含む)で作られた伝統木版の総称。

              (川崎造語「江戸伝統木版」と同意語)

・京版画:京都(現代も含む)で作られた伝統木版の総称。

              (川崎造語「京都伝統木版」と同意語)

・創作版画:分業制では行わず、デザイン、彫り、摺り、を個人ひとりにて

               行う木版画。

・木版画:上記の総称

・版画:木版画に加え、銅版画やシルク印刷等々も加えた総称

これら用語を集合的に図式化すると下のようになります。

 

 

現代において、新しい伝統木版ができないのは、職人に問題があるのではなく、むしろ、絵師や版元の方に問題があることが見えてきました。

北斎、広重、歌麿、巴水、といった木版専門の絵師は、今ではいなくなってしまいました。しかし、私が趣味においてやってきたように、世の中には無数のデザインがあるわけで、木版画に合うデザインを見つけ出してくれば、できない話ではないはずです。一番の問題は、現代のデザインで木版画を起こし、ビジネスをやろうとする版元がなくなってきたことにあるのです。

そんな版元は、限りなくゼロに近い状況にまで枯渇してしまいました。新たに版元を志す人たちが出てこないことも一因です。

浮世絵、新版画では常にその時代の絵を木版画にしてきました。それが世界から高く評価されているのです。現世を木版画にすることを失ってしまえば、日本人の誇るべき伝統木版が世界から忘れ去られてしまう恐れすらあるのです。

2013年3月末、私は30年間勤めた会社を退職をして、この版元をビジネスにすべく起業を始めました。そこには「誰もやらないなら私がやる」との決意がありました。もちろん、退職・起業というのは様々な因子が絡み合っての結果であります。しかし、それを貫くための「志」は一つに集約できると思います。

まだ自営業ではありますが、屋号は「浮世木版」としました。浮世とは、現世・現代という意味ですから、現代の職人、デザインによる木版画を作る、という想いが込められています。

また、従来の上下関係のある版元ではなく、デザイン、彫り、摺り、の共振を最大限に引き出す為の版元をめざしています。(下図参照)

 

浮世木版 https://www.ukiyomokuhan.com

 

作品は、私の趣味としていた年賀状サイズよりずっと大きな、A3(やや小)サイズ程の大きなものが主体となります。

最大限の共振を引き出す為には、年賀状とは別次元の高度なデザインが必要となりますが、そんな木版画の合うデザインを描く画家がどこにいるのでしょう?やはり、その捜索にはネットが大助かりでした。ネットを使って「岡本辰春」という画家を見つけました。http://www.tatuharu.com/

岡本辰春氏は1997年に、デジカメ・パソコン・プリンタを駆使しつつも、手描きの要領で丹念に制作して和紙に表現する独自手法のデジタルアートを考案。歌川広重の名所絵には大きな影響を受け、現代の風景を描写しながらも、暖かくてどこか懐かしいノスタルジックな作風が持ち味であり、まさに私にはうってつけの画家でした。

早々、氏の所在地である京都に出向き、現在の職人さんによる伝統木版にすることをお願いしたところ、彼の既存の作品を木版画化することを快諾して頂けました。

そうして、彼の既存作3作品の木版画化を完成し、浮世木版のWebサイトにて販売中であり、また4作品めも現在制作中にあります。

 

 

これらの作品は、辰春氏の既存の作品を木版画化したものですが、芸術的にはレベルの高い木版画になったと自負しています。

そして次の5作品めでは、新たなステップとして、版元である私がテーマを持った絵や写真を選定し、それを木版画化するというプロセスで作品作りを始めました。

 

※ 次回(最終回)に続く

 

 

 

 

 

 

 

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