盛り場の空地に町の活性化を牽引する語り場=隠れ酒場を建てる

盛り場の空地に町の活性化を牽引する語り場=隠れ酒場を建てる

支援総額

1,003,000

目標金額 650,000円

支援者
73人
募集終了日
2015年12月17日

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2015年12月16日 17:19

17風の物語7___古今亭 八朝 師匠と女将さん(前編)。

 

かの古今亭志ん生さんのご子息にして、現代の名人と謳われた古今亭志ん朝さん。その最後の子飼いの弟子である古今亭八朝師匠には、東京の広告屋時代に、イベントの司会などでさんざんお世話になったのです。
 

1992年夏に私が北海道に移住してしまったために疎遠になってしまっていたのを落語協会を通じて探し出し、2005年春、実に15年以上ぶりに東京での再会を果たしたのをきっかけに、師匠及び師匠の人脈をお借りしながら、日本の古典芸能をなんとか様々な形で北海道に紹介できないかと、以来あちこちにご提案を続けてきた。

 

2006年9月3日、それが初めて実った。
落語会ではなかったけれど、「寄席」の楽しみを広めたいと画策してきた身としては、新富良野プリンスホテルのディナーショー形式で、八朝師匠をホストに、今や海外での評価が圧倒的に高いボイスイリュージョンのいっこく堂さんと、これも中国での長期公演などでめきめきと頭角を現している、サイキックマジックのルーフ広宣(ひろのぶ)さんをプロデュースできたのは至上の喜びだった。

参入したい取引業者がひしめき、がっちりと固まっているホテルの印刷関係なのに、このイベントに関してだけはチラシ、チケット等の印刷物も制作させてもらった。

その晩の打ち上げはかの富良野の名店「くまげら」だったのだけど、なんと八朝師匠もいっこく堂さんもルーフさんも三人の主役が全員下戸だったのだ!

彼らはくまげらの至高の料理に舌鼓を打ち、仕掛け人の僕と師匠の女将さん、そして店主の森本さんはくまげらオリジナルの日本酒で呑んだくれていたけれど。

八朝師匠には重い持病があり、地方の仕事には付き人代わりに必ず女将さんが連れ添っていた。件のくまげらで、新富良野プリンスホテルのラウンジで、僕が上京した際には、横濱にぎわい座の高座の後に怪しいOKAMAバーで、上野の渋い酒場から赤羽のカラオケ屋をめぐって浅草の宿まで…都内ではいつも大真打ちの八朝師匠の運転ではしごさせてもらったものだ。師匠はジュースで僕と女将さんがワインやら日本酒やら何でもござれ。

そんな風に師匠と女将さんはいつも一緒だった。

 

2010年の七月、僕は当時狸小路にあった風の色に加えて、札幌の専門学校とアートスペースの三箇所で八朝師匠に高座をお願いしていた。

その仕事の一ヶ月前に僕がたまたま東京にいた時、師匠から電話がかかってきた。

「七月の北海道の件でご相談なんだけどさ。あのね、驚かないでね」

なんだか僕は息をのんだ。


「昨日の午前零時四十分に、女将さん亡くなっちゃったんだ。突然倒れてさ、救急車で運ばれてさ…」

 

あまりの衝撃にそこから先はほとんど覚えていない。
師匠はたんたんと、もちろん女将さんも同行するはずだった北海道の仕事について、女将さんの代わりに身の回りのことを手伝ってもらう前座さんを連れて行こうと思うのだけど、と事務的に話していた。

 

師匠の話を聞く代わりに、僕の頭の中では、つい先日師匠が言っていた「いくつかの仕事の合間に、時間が作れるようだったら、カミさんが旭山動物園に行きたいって言ってるんだ。カミさんは北海道が大好きだからさ、すんごく楽しみにしてるんだ」という言葉がグルグルしていた。

 

僕は話の終わりにようやく通夜の日時と場所を聞き出した。
何か言わなくちゃ、言わなくちゃ、と思いながら言葉が見当たらず、口をついて出るのは、ただ「すみません、すみません」だけで、意味が分からない。
 

師匠、すみません。
こんなときの大人の挨拶も出来ず。
本当に情けななかった。
 

その時僕は吉田類さんの句会で上京していたのだけど、日程を延ばして葬儀に参列することにした。

 

古今亭八朝師匠の奥様、乃理子さんの通夜は荒川の土手にある斎場で営まれた。僕は昨春に浅草橋の酒場で知り合い、落語が大好きというので八朝夫妻に引き合わせたハギワラケイと共に通夜に出向いた。僕は急きょ購入したユニクロの黒のジャケットとパンツを身にまとい、セブンイレブンで購入した黒のタイと香典袋を斎場へのタクシーの中で準備した。
 

通夜では読経と焼香以外の一切の式次第はなく、焼香を終えた順に、二階に用意された酒席でそれぞれが追悼する形だった。八朝師匠と「同期」で、自ら“落語も出来る小説家”と名乗り、本当に近いうちに直木賞を取るとの下馬評の高い立川談四楼師匠が夫人を伴い、後から僕らの隣に座った。

談四楼師匠には随分何度もお目にかかっていて、次々現れる芸人さんや関係者に「あ、こちらわざわざ北海道から参列しに来てくださったホシノさんといって…」なんてご紹介してくださる。
 

また、ビールだ酒肴だと忙しく立ち働いている女性の一人は、古今亭一門の唯一の女性にして、古今亭志ん朝師匠の死に水をとったという、マジックの大御所 松旭斎(しょうきょくさい)美智ねえさんだった。

2004年から3回足を運んだ「大江戸小粋組」でも中心的役割りを果たしていた方であり、当時美智ねえさんが経営していた神楽坂の「今夜」にも何度か八朝師匠に連れて行っていただいたことがある。
 

女将さんが亡くなる前年の2009年8月にハギワラケイと八朝夫妻にお目にかかった時は、浅草千束の僕の定宿に集合で、師匠が車で迎えに来てくださり、そのまま上野のもつ焼き屋で一杯。芸人さんがよく集まる店ということで、そこでは桂才賀師匠に紹介された。

しばらくすると「ホシノさん、ちょっといいカラオケ屋があるんだ」ということで、再び師匠の運転で赤羽に向かったのはまだ陽の残る時間だった。ひとしきり四人で歌うと「浅草まで送るよ」。
 

その晩はそのまま散会とはならず、浅草の中華料理屋で三たび飲み始める。八朝師匠が呼び出したのか、上野から仕事に出かけた才賀師匠が再び登場。さらには弟弟子にあたる古今亭志ん馬師匠も現れる。その女将さん連なども加わった頃には僕はすっかりいい気分になっており…


斎場の二階は、遅れて来た芸人さんたちで席が足りなくなったので、僕とハギワラケイは早々に退席する。階下では先ほどの斎場の棺の前に八朝師匠がいた。いつの間にか談四楼師匠もそこにいて、僕を手招きする。特別ご夫妻に関係が近しい人が女将さんのお顔を拝んでいるようなので、僕は引こうとしたけれど、会ってやってとどなたかがおっしゃった。
 

眠るように、という表現があるけれど、女将さんの顔はむしろ微笑んでいた。いつもの眼鏡をかけていないそのお顔を、どなたかが、女将さんてこんなに奇麗だったっけ、とため息をついた。親しみやすさを出すために、眼鏡で美しさを抑えていたんじゃないか、と推測する人さえいた。
 

師匠と目が合った。

「ま、ともかく、来月札幌行くから」


この晩会った誰もが、師匠からの一報が淡々と事務的だったことを話していた。この言葉もそんな感じだった。僕は思わず、

「女将さんも一緒に来て欲しかったですねえ」と言ってしまった。
師匠は言った。

「そうだよな。でもさ、乃理子は誰からも愛されて幸せだったよ」。それを受けて僕は「女将さんみたいな人を嫌いな人がいる訳ないじゃないですか」と言いかけたのだけれど、おしまいの方は声がかすれて言葉にならなかった。
 

その瞬間、目の前の師匠の眼から大粒の涙がぽたぽたと流れ出した。いや、ザーザーと言った方が正確かもしれない。凄く口惜しそうに顔をゆがめて、遺影の方を振り返りながら何かつぶやいた。それもほとんど言葉になっておらず、嗚咽がひとしきり続いた。その晩師匠の涙を見たのはそれが初めてだった。僕は師匠を泣かせてしまった。

(続く)

 



 

リターン

3,000


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お手軽支援コース

・サンクスレター

支援者
11人
在庫数
制限なし
発送完了予定月
2016年2月

10,000


<自宅で風の色コース>

<自宅で風の色コース>

・サンクスレター
・お店に支援者のお名前を記載させていただきます。
・オリジナル吟醸酒 風の色の贈呈(※ 富良野の名店「くまげら」の森本店主との三十年のご縁で生まれた、店主の醸造プロデュースによる、弊店のみで賞味いただける稀少な吟醸酒です)

支援者
29人
在庫数
制限なし
発送完了予定月
2016年2月

10,000


<風の色満喫コース>

<風の色満喫コース>

・サンクスレター
・お店に支援者のお名前を記載させていただきます。
・お店でのご飲食券4,000円分

支援者
19人
在庫数
制限なし
発送完了予定月
2016年2月

30,000


・サンクスレター
・お店に支援者のお名前を記載させていただきます。
・オリジナル吟醸酒 風の色の2本贈呈(※ 富良野の名店「くまげら」の森本店主との三十年のご縁で生まれた、店主の醸造プロデュースによる、弊店のみで賞味いただける稀少な吟醸酒です)

支援者
15人
在庫数
制限なし
発送完了予定月
2016年2月

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