地方の殖産産業を通じて日本の少子化対策慈業

日本で一番平均年齢が若い街は、表題の愛知県長久手市です。

 

平均年齢は40.2歳と日本全国の46.4歳に比べて5.5歳若くなっております。

また、年少人口（0～14歳）は日本全国が11.4％なのに対して、長久手市は25.2％と圧倒的に高くなっており、長久手市の4人に1人以上が年少人口となっております。

 

 

ここで、長久手市の概略を紹介します。

 

●小牧・長久手の戦い

安土・桃山時代、羽柴秀吉と徳川家康（総大将は織田信雄）が唯一直接武力衝突した戦いの主戦場が長久手です。この戦いは徳川側の勝利で終わりました。

 

●地理と市町村内総生産と地価

日本第3の都市である名古屋市と、世界最大の自動車メーカートヨタ自動車の本社がある、豊田市に挟まれた、交通に至便な立地にあります。

また、愛知県内の一人当たりの市町村内総生産は名古屋市・豊田市に次ぐ3位（384万円）で、地価の高さも愛知県内3位となっております。首都圏でいえば吉祥寺・三鷹、関西圏でいえば芦屋のような高級ベッドタウンです。

 

●愛・地球博

来年、大阪・関西万博が開催されますが、さかのぼること20年前、長久手を主会場として愛・地球博という世界博覧会が開催されました。

21世紀最初の世界博覧会の地が長久手だったのですが、以下のような趣旨で開催されました。

 

20世紀には、新しい地球社会が生まれた。

信じられないほどの科学・技術の進歩・発展、高速移動手段の発達と情報･通信技術の進化が、人・モノ・情報の交流を地球規模で活性化させ、世界を一変させたのだ。

その結果、巨大化した人類の活動は、地球自然の許容量を超え、さまざまな危機を知らせるシグナルが点滅し始めている。

地球上の総ての「いのち」の持続可能な共生を、全地球的視野で追求することが、21世紀における地球社会の構成員総ての課題となった。

この課題を解決するために、私たちは愛･地球博のテーマである“自然の叡智”を縦糸に、豊かな交流を横糸にして、地球社会を包む、柔らかく、豊かさと美しさにあふれる織物を織り上げようと思う。それは地球社会の新しく、美しい装いになるだろう。
「自然のもつすばらしい仕組みと、いのちの力」に感動し、世界各地での自然とのさまざまなつき合い方、知恵に学びながら、多彩な文化・文明の共存する地球社会を創ろうではないか。

国家・地域・企業・自立した市民・NPO／NGO、ボランティアなどの地球社会を支える人々の多様な営みと多彩な参加が、美しい織物を織り上げるだろう。

多様な交流が様々な摩擦を生むこともある。だからこそ、私たちは人類の持つ理性と愛と美しいものへの憧憬を、大切に育てたい。

人間らしい交流の原点とは、何だろう。

それは人が人と出会い、語り合い、理解し合い、尊敬し合い、愛し合うことにあるのではないか。

そのための交流の舞台“EXPO 2005 AICHI,JAPAN”をつくろうと思う。

私たちは世界の人々に呼びかける。

AICHIに集まろう。互いに見つめ合い、微笑み交わし、抱き合い、多彩な知恵の交流する世界を、全身で体験し、全感覚で楽しもう。

地球の総ての“いのちと未来”のために！！

 

こうした趣旨のもと、20世紀までの万博は、新技術や国威発揚などを目的にしておりましたが、愛・地球博は「人類共通の課題の解決策を提示する理念提唱型」の万博に焦点を当てた博覧会となりました。

185日間の開催期間で1500万人の来場者を見込んでおりましたが、結果来場者は2205万人となり、愛・地球博は、成功裏に幕を閉じました。

 

現在では、愛・地球博記念公園として整備されています。

 

●学園都市

長久手市には、県立長久手高校と私立栄徳高校のほか、

大学では、愛知県立大学、愛知県立芸術大学、愛知医科大学、愛知淑徳大学長久手キャンパスが所在する日本有数の学園都市です。高校・大学だけで1万3千人を超える生徒・学生がおり、人口がおよそ6万人の街に、市の内外から生徒・学生が集まってきます。

特に大学の学生数により、平均年齢を押し下げる要因ともなっております。

 

また、特に大学生が昼間多いことから、ベッドタウンとしては珍しく、昼夜人口比率で昼間の方が人口が多い状態となっております。（昼間が夜に対して105.5％）

 

●共働き率

長久手市の共働き率は59.3％です。一方で子供のいる世帯の共働き率56.0％で、一般的な自治体とは逆の構図となっております。一般的な自治体では、子どものいる世帯の共働き率の方が高い傾向にあります。

 

以上、長久手市の紹介でした。

 

ここからが本論です。

 

長久手市、残念なことに昨年の合計特殊出生率は1.20と全国平均の1.20と同じく低い状態となっております。

 

つまり、2万4千人の園児・児童・生徒のほとんどが一人っ子、ということになります。

 

では、長久手市は少子化対策としてどのようなことをしているのでしょうか。

 

1.出産祝い事業：
長久手市は、新生児の家族に木曽の木材で作られたおもちゃをプレゼントする「出産祝い事業」を行っています。対象となる子供には、積み木セットやお椀セット、椅子（おもちゃ箱）などが贈られます​。

 

2.子ども医療費助成制度：
中学校卒業までの子どもを持つ家庭に対して、通院や入院時の医療費自己負担分を全額助成する制度があります。これにより、医療費の負担を気にすることなく、子供の健康管理を行うことができます​​。

 

3.保育施設の充実：
市内には18か所の保育施設があり、親が子どもを近くで預けられるようにサポートしています。これにより、育児と仕事の両立がしやすくなっています。​

 

一方で、平均年齢が4番目に若い福岡県粕屋町の場合、合計特殊出生率は1.90となっており、福岡県では1位、全国でも29位と非常に高いです。長久手市と粕屋町の平均年齢は、粕屋町が40.8歳と、長久手市と0.6歳しか変わりません。また、長久手市は名古屋市のベッドタウン、粕屋町は福岡市のベッドタウン、位置づけとしては全く同じです。では、どうしてここまで合計特殊出生率に差が開いてしまったのでしょうか。

 

結論から言うと、粕屋町の高い一人当たりの所得、低い生活コスト、そして通勤時間にあります。

 

 

粕屋町の一人当たりの町内総生産は、338万円と長久手市に比べ46万円少ないものの、粕屋町はいわゆる高級ベッドタウンではなく、中流階級のベッドタウンといった色彩の濃い街です。

 

その理由は地価で分かります。

まず、長久手市ですが、長久手市の地価は23万円程度なのに対して、粕屋町は9万円と半額以下です。不動産はその場でしか消費できないので「物価」となりますが、所得は長久手市より13％程度少ないですが、生活コストが半分以下であることから、老若男女誰にでも生活しやすい環境にあります。

 

あわせて最も影響を与えているのが、通勤時間です。長久手市の通勤時間は37.5分、日本の中位が28.1分なので、日本の中位より長いです。一方粕屋町の通勤時間は26.9分と長久手市に比べて10.6分短くなっております。

 

どんなに住環境が良くても、周りに子どもがたくさんいるという絶好の環境だとしても、やはり少子化に一番影響を与えているのは安い生活コストと通勤時間だった、ということです。

 

根本的に街づくりを一からやり直さないと少子化のトレンドを反転させることはできません。