今日山谷の宿に老婆が男に支えられながら入ってきた。いでたちが異様であるというのはこの街ではさほど問題視しないが、顔面明らかに殴られたあざの数々、膨れ上がった頬を見るかぎり、ただ事ではないのは察するに難くない。男いわくそこらでドヤ探しをしていたみたいだが、女だということで断られ道に倒れ ていた所を助けてきたという。男はNPOの炊き出しをしに山谷に来たのだと言っていた。特に名前は名乗らない。

 

男いわく一晩だけでいいからうちに泊めてほしいという。断るという判断の時間もない状況で受け入れてしまったが、どうみてもケアできそうになく山友会とも話して救急車を呼んだ。しばらくすると5名の隊員が来て、ここのドヤかと言って入ってきた。

女の部屋へ案内する。形式的な質問らしいものが終わり、病院に行こうと説得するも断固拒否の女。どうしたわけかわからないがなにか言えない理由でもあるのだろうか。山谷でこういう事は多いのだけど本人の意思がないと強制的 に病院に連れて行くことは難しいので厄介なのである。

 

「どこのドヤだって泊めてくれないよ」

「簡宿の人に迷惑だよ。」

「山谷で女一人でやっていくの大変なんだって・・・」

 

僕の中で山谷はもうない言葉のように感じていたので、リアルタイムに飛び交っていたこうした言葉の数々に隣で聞いていた僕はしばし自分がいつの時代にいるのかわからなくなった。

 

本人は転んでできた傷だから問題ないというが人目みて殴られたものであることは明白。そこになにがあったのかは分からないが池袋から来たという話(これが本当のものであるとして)からしても逃げてきたというのは間違いないであろう。

 

一旦救急車で搬送されたものの三時間して帰ってきた。あららどうしたのかと聞くと、点滴で少し体調がよくなったから返されたと弱弱しく言う。そして、することがなくヒマなのか僕の目の前にいる。人嫌いというわけでもないみたいで世間話をしている。あんまり好意的にするつもりはないのでこれは書きながら聞いて いる。

 

NPOの人も生半可かかわるくらいならはじめから何もしないで欲しいと思う。結局丸投げしていいことしたつもりなのかわからないがいい迷惑だ。

 

「死にたい」
 

さっきからこればっかし。生い立ちなんかは話すくせに怪我のことになるとそんなことは面白くないからとお茶を濁す。しかしその指の刺青からどうしてそうなったかは想像がつく。流儀というものがある街でその流れに逆らってろくなことはないのだ。

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