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医療という枠組みを超えて、社会が患者と共に歩める未来へ-後編-

 

NPO法人がんノート代表理事を務める、岸田徹さん。25歳で全身がん宣告、27歳で再発、29歳現在は経過観察中という岸田さんは、がん患者へのインタビューという形で情報発信を行い「がんと共に生きる」ことを世の中に広めています。

 

前回につづき、「医学生だからこそ社会と医療との架け橋になることができる」と様々な形で活動する医学生の荘子万能(そうし まの)さんとの対談を記事にしました。後編です。

 

 

小中学校で「がん教育」が本格化する。がん検診受診率向上へ

 

岸田徹(以下、岸田)ようやく文科省も小中学校での「がん教育」を今年4月から本格化するんですよ。

 

荘子万能(以下、荘子) 素晴らしいですね。

 

岸田 がん予防などについては保健体育、いのちの授業としては道徳教育に組み込まれているところもあって。だから僕たちの世代よりも、若い人たちの方が、がんについて知ってる可能性が高いんですよ。

 

荘子 なるほど。

 

岸田 『たばこダメですよ』『検査しましょうよ』だけだと具体的に理解されていかないので、推奨されてるのは学校の先生だけではなく、外部講師として患者さんや医療の先生が来てお話しするとか。

 

それで、がん教育の授業受けた子どもたちが家に帰って『こういうことやったんだよ』って話をして、それを聞いたお父さんお母さんが検査に行くこともあったり。がん教育を実施した市町村の調査結果で、がん検診受診率が上がってるっていう調査結果もあるくらいで。

 

 

岸田 ただ、今のところ基本的には各自治体に任されていて。どうしていけばいいか、まだ右往左往してるってところもあったりするんですけど。

 

がんにすごい関心ある人は、公開講座に来てくれたりとかはあるんですけど、関心のない人に対するアプローチはあんまりないんですよ。広く啓発するために「自分事」としてとらえてもらうのはすごい大切で、前回の胃がん予防の「ピ」も含め、どう情報出すか難しいと思うんですけど、すごい考えられてるなって。
 

荘子 医療情報の出し方を考える時、医療のことをタクシーに例えることがあります、乗ってきた患者さんが目的地に到達するお手伝いをするというか。そう考えると、例えば『これをやったほうがいい!』『こうする方が絶対いい』『こういうメリットがある!』って言い方だけじゃ、アクセルしかなくて、ブレーキになるようなデメリットの情報が全くないじゃないですか。

 

質の高い情報って、こういう時は効く、こういう時は効かない、とかこういうデメリットがあるってちゃんと場合分けして書いてるんです。『この治療って本当に受けて良いの?』っていう一旦立ち止まって考えられるようにブレーキがかかるに情報を出さないと単なる煽動になってしまって、結局患者さんの目的地に行き着けないと思うんです。それに、メリット・デメリット両方があると知ることがゴールじゃなくて、これからどうしていくか患者さんと医療者が一緒に考えるスタートにできればいいですよね。

 

 

岸田 すごい、確かにね。一方的な民間療法では『これを食べたら治る、こうしたほうがいい!』って言って、デメリットに対しては全く触れられない傾向があって危険だと個人的には考えているから、その表現はすごくいい。

 

それに付随して、例えば、治療を受けるときは大体、『この抗がん剤はどれくらいの確率で効きますよ』って説明されたりするんですけど、患者さんにとってはそれが0か100かじゃないですか。僕らはそれを言われても、それをやるしか方法がないんですよね。だから、さっきの話とリンクしますけど、治療とその後の社会復帰したらどうなるのか、一貫してどれだけ質の良い情報に、最初から触れられるかが重要だなってすごく思いますね。
 

荘子 岸田さんも、がん患者さんっていうコミュニティを外とつないで伝えるっていう、Readyforのプロジェクトをやられていましたよね。初めて知ったとき、とても感動しました。

 

岸田 ありがとうございます。僕は患者会をつくろうとは思わないんですよ。同じ立場の人をサポートし合う患者会ももちろん大切だと思います。ただ、患者だけのクローズドな患者会じゃなくて、患者だけではなく一般の方も一緒に「がんと共に生きる」。そういうところまで含んで、社会へ情報発信をやっていかないといけないから。こういった僕たちの活動が、自治体のがん教育や啓発などと組み合わせで進んでいくのも良いなって思います。
 

 

患者として、医学生として、社会に伝えられること

 

――お二人は、患者として、医学生として、それぞれの立場から情報発信をしたり、熱心にご活動されていますが、きっかけはなんだったんでしょうか。

 

岸田 そうですねえ。自分が死にかけたっていうか、入院中にがんじゃなくて肺に穴が空いて息ができなくなって、死ぬ!と感じた瞬間があって。その時に、色んな人に出会ってよかったなとか、親孝行したかったなとか…その最後に出てきたのが、自分が、岸田徹として生きてきた25年間の価値ってなんだったんだろうと思ったら、僕はそのとき社会に対して何もできていなかったことに本当に後悔したんですよね。
 
やっぱり自分が今生きている価値だったりとか、社会に還元できるものが、もし自分の中にあるのであれば、やっていかないとなと思って。最初に始めたのが、自分の経験談を共有して前向きに…と思ってブログを。そしたら、若い患者たちを盛り上げていこう!と思ってブログをやっていたら、いつの間にか何故かおばさまたちに人気に(笑)。

 

荘子 そうだったんですね(笑)。僕の場合、名前がきっかけですね。名前の「まの」って、万能(ばんのう)って書くんですね。京都の中高一貫校に通っていたのですが、吹奏楽部でサックス吹いてたんですよ。そこ顧問の先生がけっこう厳しい人で…ミスした時に『お前は万能(まの)じゃなくて、無能(むの)や!』って言われたんですよ。
 

岸田 つらー…。

 

 

荘子 やっぱ僕も関西人やったんで、笑いに変えなあかんかったんです。でも笑いつつ心の中で傷ついていたんですねでもある時思ったんですよね、、一人で万の能力持つ必要あるんかなって。
 

岸田 ほーー。

 

荘子 誰しもその人しか知らないことあるし、その人しかできないことが絶対あるはずなんです。だから、一つの能力を持つ一万人と、仕事したり一緒になんかやることができたら、全体で万能なんじゃないか。なら僕は、一万人と仕事できる人になろうって。
 

岸田 かっこいい!

 

荘子 僕は今は医学生なので、医師でも医療従事者でもなく、患者さん、医療をあまり知らない一般の人たちでもない「間」の存在であるってことを社会の価値に変えたいと思っています。

 

医学部で学ぶこと、例えば『この病気とこの生活習慣がこんなに関係があるんだ』とかを学んだときの「驚き」とともに社会に共有できたらいいなと思って、いろんな人たちと活動してます。もちろん、関係があるかないかだけではなく、どれくらい関係あるかなどを数字で示していくことも大事だと思います。

 

岸田 その「驚き」って絶対大切だと思いますね。自治体とか政府が『こういう理由だからこうしましょう』だけだと人は動かないと思うんです。僕自身の活動でも「笑い」を大事にしてるけど、人が行動を起こす、検査するとか治療を行うときに、やっぱり感情は伴うから。

 

荘子 一番やりやすいのは不安を煽ることで、『やらないと死んじゃうよ』『知らないあなたは損してる』とか言うこと。でもそれは煽動になりかねませんし、フェアな情報発信ではありません。これからは、悪い感情を喚起させるようなやり方じゃなくて、きちんと根拠を示した上で、できるだけ前向きに情報発信したいと思いますね。

 

岸田 確かにねえ。芸能人の方ががんになったとか亡くなってしまったとかがニュースになって、その次の週に検査に行くという、今の日本社会やからね。

 

荘子 それってどうしたらいいと思います?

 

岸田 メディアでは「がんはいかに悲惨か」を異常に流すイメージがあるけど、がんでも生きて活躍してる方もたくさんいる。だけど、そういう人たちって自分はがんだったってことを、どちらかといえば隠す人、公で語らない人がかなり多い。その背景には隠さないといけない、知られたら不利益を被るっていう風潮があるんですよ。

 

僕は今、がんになってもめちゃくちゃ活躍して輝いてる人たちをインタビューして、彼らの存在を隠さずオープンに発信することで、がんに対してネガティブなイメージばかり持つ社会を変えたいと思っています。

 

荘子 僕らのような若い世代から、ぜひ問題提起していきましょう!
 

(左:荘子万能さん / 右:岸田徹さん)

 

一回検査したから終わり、はダメ。「毎年うんち」を実行しよう

 

*プロフィール*
岸田 徹・きしだ とおる(NPO法人 がんノート代表理事)
1987年大阪府生まれ。立命館大学政策科学部卒業。社会人2年目の25歳で全身がん宣告を受け闘病。その後27歳で再発、29歳現在は経過観察中。
【現在】NPO法人がんノート代表理事、国立がん研究センター広報、若年性がん患者会STAND UP!!渉外役、ブロガー。
【メディア掲載】朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、みんなのニュース、週刊ニュース深読み、NEWS ZEROなど他多数。

 

荘子 万能・そうし まの(大阪医科大学医学部)
1992年京都府生まれ。医大に在学しながら「学びながら社会貢献」をキーワードに、医学生だからこそ社会に提供できる価値を模索し、活動中。日本医学会総会2015関西学生フォーラム実行委員。第46・47・48回日本医学教育学会医学教育学生シンポジウム担当。Choosing Wisely Japan発起人。予防医療普及協会。「学生と読むTomorrow's Doctors」主宰。医療問題を語るポッドキャスト「徳田闘魂道場にようこそ」にてMCを務める。

 

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