「初春の夜明けを待ちて」― 白いフクロウに託した想い、技と生きた証を未来へ

2002年　「タペストリーの祭典　布の芸術展」への出展依頼を受け、立体刺繍のタペストリー「初春の夜明けを待ちて」を制作しました。制作期間6か月

最初にイメージしたのは、「白いフクロウを作りたい」という強い想いで制作しました。

独自の両面立体刺繍技法で、綿の刺繍糸1本を使い、羽を一枚ずつ丁寧に刺しています。

白い羽には3種類の白に、ベージュやグレーなど計7種類の糸を重ね、“汚し”の表現を加えることで、リアルな立体感を追求しました。尾羽や翼など、大きさも形も異なる羽もすべて刺繍で。

胸元はふんわりとした質感に仕上げ、目には文章では伝えきれない“隠し技術”を施し、命を宿したかのような表情に。

背景の木や枝には6色の糸を使って濃淡をつけ、冬の寒さに耐える大木の幹や、繊細な枝の立体感も表現しました。

初春の夜明けを待つように、羽などのそれぞれのパーツを組みたてながら縫い止め、白いフクロウが完成しました。

しかしこの作品の完成には、もう一つのドラマがありました。

リウマチの痛みに耐えながら制作を続けていた中、完成間近に薬の副作用で足に発疹が出て、何かあったときのため、点滴を打ちながら、新しい痛み止めを試した際に、アナフィラキシーショックを起こし狭心症に。血圧低下により再び発作を起こし、そのまま緊急入院となりました。

「自宅で服用していたら命は助からなかった」と言われ、すべての痛み止め・風邪薬・貼り薬も禁止に。

この先どうやってリウマチの痛みを乗り越えるのか…その不安とともに退院しました。

それでも、このフクロウだけは仕上げたかった。

現実を受け入れ、痛みを抱えながらも、最後まで針を持ち続け、完成にこぎつけました。

この作品をはじめ、これまで発表の機会が限られていた立体刺繍作品の数々を、一冊の作品集としてまとめるプロジェクトを立ち上げました。

病とともに歩みながら、独自に生み出した技術で、命を吹き込むように刺し続けた時間。

その記録を、未来につなげるかたちで残したい。

そして、今つらい状況にある方にも「続けることで、いつか花が咲くかもしれない」と、そっと伝われば――。そんな願いを込めています。

よろしければ、作品集制作のためのこのクラウドファンディングに、ご支援・ご協力を賜れますと幸いです。