夢を羽ばたかせて──桂由美先生と紡いだ、刺繍の命が舞うランウェイ

2017年、日本橋コレド・ちばぎんひまわりギャラリーで開催した《北井小夜子展》に、桂由美先生がご来場くださり、立体刺繍の蝶や鳥をご覧になって「いつかコラボレーションができたら素敵ですね」と温かいお言葉を頂戴いたしました。

2018年秋、先生ご本人よりお電話をいただき、「パリ、東京コレクションのドレスに立体刺繍を。

もし個展をなさるなら、ぜひこのドレスもご使用ください」とのお申し出をいただきました。

あまりにも想像を超える展開に、私はただ「はい、わかりました」とお返事するのが精一杯でした。

やがてパリコレ担当のデザイナーの方がアトリエにお越しくださり、以下の3点の衣装制作をご依頼いただきました。

① 白い鷹5羽と蝶7匹のウェディングドレス

② 桜色の蝶3匹をあしらったピンクドレス

③ 黒い蝶の紳士用チョーカー

デザイン画はなく、言葉のやりとりだけで進めた挑戦。

後日、リアルな鷹の写真が届き、それをもとに白い鷹の制作を開始しました。

当時、病気を抱えていた私は、「本当にできるだろうか」という不安もありました。

けれども、迷う間もなくお話が進み、最終的には「できるかどうか」ではなく、「どうしてもやってみたい」という作家としての強い想いに突き動かされ、挑戦を決意しました。

白い羽には10種類の糸を重ね、陰影や“汚し”の表現でリアルな立体感を追求。

極細の糸一本で、外側だけでなく、羽ばたく鳥の内側まで刺し上げていきました。

2羽を仕上げてお見せしたところ、「想像以上のクオリティ」と感動していただき、続けて3羽の制作へ。

出発10日前に、白い鳥5羽、白い蝶7匹、桜色の蝶3匹を完成させて納品しました。

ドレスは出発直前にようやく完成し、デザイン画も見ることなく創り上げた仮留めされた鳥たちがドレスにその一羽一羽が、まるで最初からそこにあるべき存在だったかのように、ドレスと美しく調和しており、胸が震えるような感動に包まれました。

桂先生の目の前で、一日かけて鳥たちを一針ずつ縫い留め、ドレスを完成。

パリではフィッティングの際にピンクドレスに蝶3匹を取り付けました。

そして、コレクション当日。

自らの手で命を吹き込んだ鳥や蝶たちが、ランウェイで舞う姿をこの目で見届けた瞬間は、何にも代えがたい、作家としての最高の歓びでした。

作品集でしかご覧いただけない、特別な作品の数々。

ぜひ、お手に取ってご覧いただけましたら幸いです。