プロの書く文学作品とは別に、私は誰でも文学作品を書くことはできると思っています。

 

文学作品とは何でしょう? 公式的な定義はいろいろありますが、私は、深いレベルで、言葉によって人と交わることだと考えています。深いレベルとは、その人の存在の核となる部分を理解し合うレベルです。

 

そのためには、自分の書く言葉が、自分にとって実感のあるものでなくてはなりません。読む人に合わせすぎて、相手に受けるようにばかり書いてしまったら、それは他人の言葉であり、他人の物語です。

 

ホームレス状態で生きる人にも、日常の生活があります。ホームレスにはホームレスなりの常識や共通認識、世界観があります。それを、自分たちに実感のある言葉で書くことができれば、言葉自体はつたなくとも、まごうかたなき文学作品となります。むろん、あまりに独りよがりな言葉で書いたら、まったく通じません。自分の言葉からスタートして、少し、相手の言葉に歩み寄るのです。

 

私は、多くの人に、そのような言葉を書けたときの充実や歓びを知ってほしいのです。それは自分を自分で認める歓びです。また読み手が、自分の常識をとりあえずおいて、自分たちに見慣れない言葉を読むことで路上の世界の感触を知るとき、純粋な驚きを感じるでしょう。それは世界が広がることの驚きです。

 

そもそもの発端は、写真家の高松英昭と私がともに携わった写真集『STREET PEOPLE』(太郎次郎社エディタス刊)の印税を、路上の人たちと一緒に楽しめる形で使いたいという思いから始まった企画です。ですから、手作りであることも、欠かせない要素です。スタッフの中には、路上の人たちを鼓舞し、原稿を取ってくる「路上編集者」もいます。すべてが、きわめて真剣な遊び心に満ちたお祭りなのです。

 

ぜひとも、書き手としてであれ、読み手としてであれ、路上編集者としてであれ、参加して楽しんでもらえればと願っています。

 

 

星野智幸(小説家) 1965年米国ロサンゼルス生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、2 年半の新聞記者勤めを経て、2年のメキシコ留学。1997年、『最後の吐息』で文藝賞を受賞してデビュー。2000年『目覚めよと人魚は歌う』で三島由紀夫賞、2003年『ファンタジスタ』で野間文芸新人賞、2011年『俺俺』で大江健三郎賞、2015年『夜は終わらない』で読売文学賞を受賞。他の作品に、『ロンリー・ハーツ・キラー』『われら猫の子』『無間道』など。

新着情報一覧へ