支援総額
目標金額 3,000,000円
- 支援者
- 171人
- 募集終了日
- 2024年10月31日
【海岸線の旅行記】木村周平/文化人類学者・筑波大教授
雄勝町現地に訪れていただいた、筑波大で文化人類学を研究されている木村周平さんから見た海岸線の美術館の旅行記。文化人類学の観点から非常に面白い読み物となっていますので、ぜひご覧ください。
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【海岸線の旅行記】木村周平
東日本大震災のあと東北沿岸に造られた防潮堤は、とても大きく、果てしない。
海岸に沿って車を走らせれば、行けども行けども、道に覆いかぶさるようにそびえ立つ灰色の壁に海側の視線を遮られることになる。もちろんリアス海岸は起伏が激しいし、「壁」も実は高さがまちまちなので、時々は海が見えるかもしれない。しかし、この巨大な人工物に、海と陸、自然と人とが有無を言わせず分断されていることから感じるのは、正直に言えば、守られているという安心感よりも、閉塞感と圧迫感の方が強い。
海岸線の美術館の壁画たちは、そうした分断に風穴を開ける。
外部から来たとき、最初に目にするのは、きれいに整地された広々とした土地の奥にある壁に描かれた、3つの絵だろう。松の茂る岬のパノラマ、花やモノたち、そして海に対峙する漁師。これらは、海とともに生きるこの地の生について垣間見せてくれる。だが、決してそれにとどまるのではない。美しくも力強いこれらの壁画は、それぞれのなかに描かれた海を通して、描かれた海と壁の向こうの本当の海をつなげ、あの「そびえ立つ壁」に隠されてしまっている海の豊かさを、見るものに示してくれるのだ。
さらに壁画をじっと見ていると、それらが、調和とテンションのなかにあるように思えてくる。それぞれ、壁の向こうに景観に溶け込んでいるようでいて、アーティストによって自立した存在感を与えられているのだ。近づいていけば、しだいに物質としての防潮堤の存在が浮かび上がってくる。そして絵としてのまとまりよりもタッチや絵の具の質感のほうが強く感じられるようになり、それとともにあらためて壁画、そして防潮堤の巨大さを意識させられることになる。モノとしての壁画に沿って歩けば、それがあくまでも壁であることを感じるが、と同時に、壁画の脇にある防潮堤の通行口から見える風景がもうひとつの壁画のように(そして防潮堤を額縁のように)思えたりもする。
壁画が帯びるテンションは、このような、リアルとフィクション、図と地の反転可能性によるのではないか。「図」としての壁画は防潮堤に風穴を開けるが、同時にまた逆説的に、「地」としての防潮堤が紛れもなくそこにあることにも気づかせる。
このことは実はとても重要だ。防潮堤は、造られた当初、あるいは初めて見た時、うるさいぐらいに存在感を主張する。壊れた時もそうだ。だからこそ震災直後には、再建をめぐって賛否両論、大きな議論が起きた。しかし、この非日常のための建造物は、完成してしまえば日常の中でだんだん意識されなくなり、見えなくなっていく。そしてそのことが、無意識の安心(慢心)にもつながってしまう。震災でも起きてしまったように。だから「防潮堤が見える」と「海が見えない」は実はイコールではなく、「海が見えない」だけでなく「防潮堤も見えていない(当たり前になってしまっている)」ということは起きうるのだ。その意味で、防潮堤は見え続けている必要がある――ただし、不快でない形で。
海岸線の美術館は、その図/地の反転可能性によって、それをまさに実現している。
反転。壁画に近づき、触れ、振り返ってみる。目の前に広がるのは壁ではなく、防潮堤自体の背景としての、整地された広々とした空間だ。その光景にあらためて衝撃を受ける。この巨大な防潮堤は何を守っているのか? ここは何だったのか? 津波前の写真には、現在では想像もつかない姿が映っている。津波の前まではここには集落があり、賑わいがあり、暮らしと文化があったのだ。被災した人々は、外部からの支援も受けつつ、何とか暮らしを立て直そうとしてきた。行政は安全な暮らしのために防潮堤をつくり、同時に住まいを高台に移転させた。そこでは様々な苦労があり、様々な思いが交錯しただろう。しかし今や、見えるのはきれいになった道路や土地、そして防潮堤だけ…。壁画は、立ち止まり、考える時間を生み出す。その時間は、見えなくなってしまったもののことに思いを馳せることを可能にする。
このように壁画は、反転を支えるだけでなく、目に見える現在と、見えなくなってしまった過去とをつなぐものでもある。それは名振の壁画にもよく表れている。名振は雄勝湾から山道を進み、新たにできた高台移転地を通り過ぎた先にある、より外洋に近い隣の湾だ。壁画は、こうした「奥まった」場所にあり、さらに防潮堤の海側の壁面にある。その意味でこの壁画は、より地元に向けられた存在だと言えるかもしれない。描かれているのは、いまや行われなくなってしまった祭の様子だ。神輿を担ぐ人々は、それぞれが誰なのか地元の人であれば分かるぐらい生き生きとしている。しかし、その絵の全体を見通そうとすると、ちょっと苦戦することになる。岸までの距離が短いし、さらに絵の前には堂々とした3本の松が生えている。だからこの絵をもっともよく見られるのは、海に出たもの、海から帰ってくるものたちなのだ。人々は海から、集落の目印として3本松を見てきた。いま同じように松を見ると、その奥に、かつてあった祭が見える。それは過去を幻視しているかのような印象を人々に与えるだろう。
壁画は、リアルとフィクション、現在と過去とを交錯させる。そして、祭を知るものたちの間に、また知るものとそうでないものとの間に、言葉を生み出す。それによって、過去を現在に、現在を未来につなぐ「奇跡の桜」を描いた、雄勝小中学校の壁画もそうだ。桜は震災を生き延びたが、枯れてしまった。だからこの桜を描いた巨大な絵は、紛れもなく震災の記録(アーカイブ)である。加えて、桜の周りには、その時に小中学校で学んでいた、雄勝の生徒たち一人一人が描かれている。この小中学校自体、新しく建設されたものではあるが、閉校になったかつての小学校たちに関わる様々なものが展示され、それらの、ひいては地域のアーカイブとしての役割を果たしている。壁画はそのアーカイブに子どもたちを巻き込み、アーカイブに生を与える。後者と道路の間の、奥まった、しかし「へそ」のような場所にある地上絵も、その渦巻き状の形態によって、「巻き込み」をより可視化する。
アーティストによって洞窟の壁画になぞらえられたこの「地上絵」には、個々の生徒たちのスペースがあり、かれらが思い思いに描いたものが残る。こうしてこの二つの絵は、生徒たちを巻き込み、そこにつなぎ続ける。桜は枯れてしまったが、生徒たちは成長し、これから多様な場所で、多様な生き方をしていくだろう。だが生徒たちは壁画を係留点として、またここに戻ってくるだろう。そして同級生たちや家族と出会い、語り合うかもしれないし、新たな友人をここに連れてくるかもしれない。
海岸線の美術館は、次々と生み出されていく壁画とともに、動きの中にある。そしてそれは人々を巻き込み、奥まった場所に人々を導く。そして人々の交わりや語らいを生み出す。それは、アーティストが地域にやって来て、人と語らい、防潮堤に近づいて筆を執り、遠ざかってそれを眺め、また筆を執るような、行きつ戻りつの動きだ。そうして壁画たちは、人工物が作り出す、意味を失った空間を、人と人が出会う場所に変えてゆく。そこは、その場に見えなくなってしまっているものも、自分たちとともにあることを思い出させ、それを未来につなぐことを可能にする。海岸線の美術館は、危険と安全、災害と日常、内と外の間に引かれた境界を、人々が自ら意味を生み出していきうる場所として、再生してゆくのだ。
リターン
5,000円+システム利用料

【2024年制作!壁画原画ポストカード】
安井鷹之介作の2024年に制作する雄勝法印神楽をモチーフにした壁画の原画を印刷したポストカードを5種類を1枚ずつ5枚セットでお届けします。
◇館長からの感謝のメッセージ
◇2024年制作壁画の原画ポストカード 5種類/5枚セット
- 申込数
- 17
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2025年4月
5,000円+システム利用料

【館長が描いた!ほやのオリジナルキャラ"ほーや"エコバッグ】
"石巻・雄勝といえば、ほや!!ということで、館長が考案したほやのオリジナルキャラ「ほーや」をデザインしたエコバッグです。
◇館長からの感謝のメッセージ
◇ほーやエコバッグ1枚
カラー:白
サイズ:A4が入るサイズ(サイズは変更の可能性がございます。)
- 申込数
- 10
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2025年2月
5,000円+システム利用料

【2024年制作!壁画原画ポストカード】
安井鷹之介作の2024年に制作する雄勝法印神楽をモチーフにした壁画の原画を印刷したポストカードを5種類を1枚ずつ5枚セットでお届けします。
◇館長からの感謝のメッセージ
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- 申込数
- 17
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2025年4月
5,000円+システム利用料

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◇館長からの感謝のメッセージ
◇ほーやエコバッグ1枚
カラー:白
サイズ:A4が入るサイズ(サイズは変更の可能性がございます。)
- 申込数
- 10
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2025年2月
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- 18,160,000円
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