情報提供：心房中隔欠損症とは？ (CF40日目)

概要
心房中隔欠損症（ASD：Atrial Septal Defect）は、先天性心疾患の中でもよく見られる疾患の一つで、心臓の右心房と左心房の間にある壁（心房中隔）に穴が開いている状態です。この穴により、左右の心房の血液が混ざってしまい、心臓や肺に負担がかかります。ASDは軽度の場合、症状がほとんどなく、成人になるまで見つからないことも少なくありません。

頻度
ASDは、すべての先天性心疾患の中で約10〜15%を占め、発生頻度としては2番目に多い疾患です。先天性心疾患全体の発生率は、おおよそ100人に1人程度と言われており、その中でASDは約1,000人に1〜2人の割合で発生します。また、無症状のまま成人期に診断されることが多く、成人の先天性心疾患患者の中では、約30%がASD患者とされています。

病態と症状
ASDでは、通常は左心房から右心房に血液が流れ込み、肺に送られる血液量が増えるため、右心系に負担がかかります。この状態が長く続くと、以下のような症状や問題が発生することがあります。

　息切れ：運動した際に、普通よりも息切れしやすくなります。
　不整脈：心房中隔の穴により心臓に負担がかかり、不整脈（心房細動など）が発生しやすくなります。
　肺高血圧：右心房から右心室、肺への血流が増加することで、肺の血管に負担がかかり、肺高血圧が進行することがあります。

診断方法
ASDの診断には、心エコー検査が一般的に用いられます。心エコー検査は、心房中隔の穴の大きさや血液の流れを確認できます。また、心電図や胸部X線検査も補助的に行われ、成人の場合、健康診断や職場の定期検診で偶然発見されるケースが多いのも特徴です。

治療方法
ASDの治療は、穴の大きさや患者さんの症状、合併症の有無により異なります。軽度の場合、経過観察のみで治療が不要なこともありますが、大きな穴がある場合や症状が出ている場合には、治療が必要です。

〇カテーテル治療
　カテーテル治療は、足の付け根から細い管（カテーテル）を挿入し、心房中隔の穴を特殊な傘のようなデバイスで塞ぐ方法です。傷が小さく、回復が早いため、患者さんの負担が少ない治療法です。

〇外科手術
　カテーテル治療が難しい場合や、ASDが複雑な形状をしている場合には、外科手術が行われます。心臓を開いて穴を縫合したり、人工のパッチで覆ったりする方法です。これにより、確実に穴を閉じることができます。

島根県での現状

現在、島根県ではASDに対するカテーテル治療を行うことができる医療機関がありません。そのため、ASDが診断された患者さんには、正確な診断を行った上で、岡山大学病院をはじめとする高度な治療が可能な施設へご紹介させていただいております。岡山大学病院は、カテーテル治療における豊富な実績を持ち、信頼できる治療環境を提供しています。

　島根県内の循環器専門医が増え、ASDを含む先天性心疾患の診療経験が蓄積されることで、地域内でのカテーテル治療の導入が可能になると考えています。地域医療の充実を図るためには、専門医の育成や治療体制の強化が重要です。将来的には、島根県内でASDを含む先天性心疾患のカテーテル治療が実現し、より多くの患者さんが地元で治療を受けられるようにすることを目指しています。

現時点では治療が県外で行われる場合がありますが、医療連携を通じて、最適な治療を受けられる環境を整えています。また、地域医療の発展に向けた取り組みも進めています。心臓の症状や診断に不安を感じた際は、ぜひ地域の循環器専門医にご相談ください。

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引用

日本循環器学会「2021年改訂版 先天性心疾患および構造的心疾患に対するカテーテル治療のガイドライン」
日本成人先天性心疾患学会「成人先天性心疾患診療ガイドライン（2017年改訂版）」​