寄付総額
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- 2020年7月31日
あと2日!VOICE vol.9鈴木励滋さん(生活介護事業所カプカプ所長)
全国小劇場ネットワークでは、5/20から開始した劇場再開に向けたクラウドファンディングと並行して、オンラインマガジン「VOICE」の活動を行っていきます。
劇場の再開や、芸術活動の再開が段階的に進むなかで、劇場に関わりが深い方(アーティストや舞台芸術に関わるスタッフ)、地域で活動している方、地域社会について考えている方に、それぞれの目線から、その時に考えていることを語っていただきます。
CFに対する応援という意味をこえて、互いの異なる視点から、withコロナ、afterコロナの社会に向けた眼差しを共有し、各にとってのヒントに変えていければと思っています。
▶VOICE | まえがき https://note.com/shogekijojp/n/n37de080c678f
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第9回は、鈴木励滋さん(生活介護事業所カプカプ所長)です。
「地域と共に歩む文化拠点」とは
障害福祉とアートの親和性についてはこれまでも書いてきた。
それはパラリンピックと連動するような「障害×アート」のことではなくて、わたしが目指している障害福祉とわたしが好んで観ているアートが通底しているという話。
わたしが「障害」という言葉を用いる際には、「社会的不利益」のことを意識している。機能や構造やもっといえば姿かたちに違いがあることとか、何かができなかったり苦手だったりすることそのものを「障害」と見なして治療したり訓練で克服させたりということよりも、それら諸々の「差異」のある人々が不利益を被ってしまう環境や社会のことを問うていきたいと思っている。だから、「障害」は個人にではなく「関係」に、そう人と人との関わりの中にあって、それゆえに誰もが他人事ではなく当事者なんだと考えている。まるで前提のように思われている既存の価値観を揺さぶることで「障害/健常」の垣根を無化しうるのは、まさに当事者であるわたしたちしかいないと思っている。この二十年ほど、年に100~200回と劇場に足を運んできたのは、そのような価値観を揺さぶりうる表現と出会いたいからだと言ってもよいのだ。
※「障害」についてさらに深く掘りたい方には、かつて書いたものを。https://note.com/suzukireiji/n/n86e977def572
「障害✕アート」やパラリンピックのような、マジョリティが引いたラインを越えられた一部の「エリート」のみを評価する方法では、この社会の価値観は全く拡張しない。それどころか、努力が足りないと「自己責任論」で多くの人々は否定されさえする。あらゆる差異が肯定されるような方に進むには、既存の価値観を揺さぶりうるアートの可能性は計り知れないと思っている。
それなのに、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、両者はまったく逆の状況となった。劇場での公演は「不要不急」なものとされ、ことごとく中止となった。わたしたち障害福祉事業所にはむしろ行政から「継続要請」の通達があり、世間では「エッセンシャルワーカー」と名付けられて賞賛された。拍手を送られながらとても居心地が悪かったのだが、それは、わたしにとってほとんど同じ意味合いの「場」に対して、いずれも社会は勘違いをしていて、だからこそ正反対の印象を持たれてしまっていることが、露骨に可視化されたからである。
舞台表現が軽視された理不尽さに対して異議をお持ちなのは当然だろう。一方、障害福祉の現場で、賞賛されながらにして違和感を覚えているというのは判りにくいのかもしれない。患者を治療する医療機関とはまた違う意味合いで、家に居られると労働の効率が落ちてしまう人たちを預かるという社会に不可欠の(エッセンシャル!)役割において継続を要請され、応じるとわたしたちは称賛されたわけだ。
ここでもまた「生産性」が透けて見える。芸術は生産性につながらないし、子どもや障害者や高齢者をまとめて預かれる場所があると生産効率は下がらない。
経済が「経世済民」ではなく、金儲けくらいしか意味しなくなり「経済を回す」などと唱和される国だから、規範とされる生き方の幅が狭すぎて/質が乏しすぎて、生きづらい人は増えていくばかりだ。だからこそ、差異が生きづらさとならないように、価値観を拡張しうるような芸術こそが不可欠なのだ。それは「生産性がない」と殺されかねない人たちにとってはもちろん、自らも含む誰かを「生産性がない」と殺しかねない人たちにとっても。
こんな状況の中にいて、生きていくうえで何が不可欠であるのかという価値観の転換を図っていけないものだろうかと、より強く思っていた。
だからこそ、全国小劇場ネットワークの人々が再開を目指す際に「地域とともに歩む文化拠点」を標榜されたと聞いて、なんだか心強く思えたのだ。
わたしが勤めている「カプカプ」では喫茶を営んでいて、さまざまな差異がある人たちの存分に表現してもらえるように心がけている。できてから50年になる「ひかりが丘団地」は高齢化率が五割に迫るような地域で、そのちいさな商店街に場を開いて23年目になるが、障害があるメンバーたちと地域の常連さんたちとの毎日をカプカプという舞台で上演しているような感覚がある。横浜でも最も感染者が多い旭区にあるために、緊急事態宣言下に区内で店舗を営むほとんどの障害福祉事業所が営業を止めた。わたしたちが一日も閉めることなく店をつづけられたのは、ありがたいことにメンバーや常連さんたちが、場が開くのを心待ちにしてくれたからである。「みんなにうつすようなことがあると大変だと思って家に籠っていたけど、テレビを見てると不安になっちゃうだけで」と言うマダムもいた。同じグループホームにいる方が施設から「待機要請」されて不穏になっていく中、颯爽と玄関から出てきてくれるメンバーもいた。カプカプという場所を頼って集まる人たちがいる大切さを理解して、出勤しつづけてくれるスタッフたちがいた。だから、これはもう丸ごと全員をみんなで護りあうしかないと腹を括れたのかもしれない。
席数を半分以下に減らし、店外にも席をつくり、メンバーもスタッフも公共交通機関を使わなくてよいように手分けして複数の車両で送迎した。おばさんたちは最初のころは飛沫防止のアクリルボードを「刑務所みたいね」と言っていたけれど次第に慣れたし、おじさんたちは手指消毒用のアルコールに「大丈夫だよ」と強がって見せたけれど「自分を護って」とお願いしたら照れながら応じてくれるようになった。手の洗い方の図を印刷して配布し、院内感染が広がりつつある病院にかかっている人には電話で処方箋をもらう方法を伝えた。
これはコロナ禍の中で急に始めたというよりも、お互いに名前で呼び合えるような関わりを積み重ねてきたからこそ、コロナ禍に見舞われながらも互いのことを案じてやれたことだと思っている。
こんなわたしたちにも、なかなか地域に溶け込めない数年間があった。そのころは地域に店を開きつつも、利用しているメンバーたちのことだけが自分たちの職分だとどこかで思っていたのかもしれない。ところが、お節介なおばさんたちのパワーに圧されて巻き込まれていく中で、「障害者」「お客さん」という一般名詞での関わりではなくて、固有名を持った者同士の関わりに転じていった。おかげでようやく本当の意味で開くことができた場には、地域で一人暮らしをしている精神障害がある人たちやなかなか学校に馴染めない小中生たちもやって来てくれている。そしてそのような場は、わたしの中の生きづらさも緩めてくれている。
十数年前の中田宏市長のときに助成金が減額されて、わたしたちは横浜市庁舎に抗議に行った。市内からたくさんの人たちが駆けつけて、車いすや杖をついた人たちで溢れかえったのだけれど、街の人たちは一瞥もしない人がほとんどだった。あの時からわたしは、いつかカプカプが「お取りつぶし」になるようなことがあったら、それを聞いたじいさまばあさまをはじめとするひかりが丘の“出演者”たちが、「あそこがなくなったら困るぞ!!」とわたしたちとともに猛抗議をしてくれるような場となるのを目標に掲げている。
全国津々浦々の小劇場にも、そういう地域の拠り所になるべく開かれて、誰かの生きづらさを緩めうるような場となることを期待している。そしてあなたも価値観を変えていくべく、そんな場の登場人物として名前を連ねてもらえるならば、望外の喜びである。
※舞台表現と障害福祉の関わりについてさらに考えたいという方は、木村覚さんにしてもらったインタビュー記事をどうぞ。http://www.bonus.dance/interviews/07/
(記事内の写真 撮影:阿部太一)
鈴木励滋(すずきれいじ)
生活介護事業所カプカプ所長・演劇ライター
1973年3月群馬県高崎市生まれ。97年から現職を務め、演劇に関しては『埼玉アーツシアター通信』『げきぴあ』劇団ハイバイのツアーパンフレットなどに書いている。『生きるための試行 エイブル ・アートの実験』(フィルムアート社、2010年)にも寄稿。師匠の栗原彬(政治社会学)との対談が『ソーシャルアート 障害のある人とアートで社会を変える』(学芸出版社、2016年)に掲載された。
https://www.facebook.com/kapuhikari/
左端が鈴木励滋さん
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