引退電車を守る意味 〜都市の記憶を、次の時代に運ぶ存在に〜

「井の頭線の電車を残す」と聞くと、多くの方は「鉄道ファンの世界」の話だと思われるかもしれません。
ですが、私たちがいま進めている3701号車（8811号）の保存プロジェクトは、それだけにとどまりません。

「都市の記憶を、どうやって未来に手渡すのか」

それは、いま再開発が加速する東京・首都圏の避けては通れないテーマでもあると考えます。

この電車はかつて、渋谷と吉祥寺を結んでいました。
朝の通勤ラッシュ、放課後の帰り道、友人との待ち合わせ、恋人とのデート、家族とのレジャー。
楽しい日も、悲しい日も。
晴れの日も、雨の日も。
30年以上の間、井の頭線を走り、人々のかけがえのない日常を、ひたむきに運んできました。

そして井の頭線を引退した後も、金沢の街で同じように。
たくさんの方々のかけがえのない足として、北鉄金沢と内灘を結ぶ浅野川線を走りました。

金沢という街の再開発の中でも、30年間「都市を支えてきた電車」だと思います。

いま、8801編成は、60年以上の時を経て、金沢の地で静かに解体を待っています。
3000系(8000系)に限らず、貴重な電車であっても、様々な制約から引退電車は次々と解体されていきます。

電車に限らず、街もそうです。
大都会・東京を筆頭に、都市の風景も、音も、においも、気づかないうちに再開発で塗り替えられていく。もちろん便利な街になっていくことは時代の流れであり、歓迎すべきことです。

ですが、気付けば「思い出の場所」「お気に入りの場所」が消えている。

きっと誰しも、一度や二度は、そんな経験があるのではないでしょうか。

もしこの電車を「保存」できたら？

昭和・平成・令和の都市の移り変わりを伝える「生きた教材」となり、
限りある資源を長く使い続けた「サステナビリティ・SDGsの象徴」となり、
図鑑の中でしかない昔の電車に、未来の子どもたちが実際に乗れる「タイムマシン」になるのではないでしょうか。

そして、戦後の高度経済成長期の日本で、先人たちがどのような工夫をし、何を大切にして、この車両を、東京という都市をつくってきたのか。
この車両に向き合ってきた鉄道に携わる人々は、何を見つめ、どんな日々を歩んできたのか。
そして──この電車に乗った人々の心に、どんな風景や想い出が残っているのか。

保存とは、ただ「残す」ことではありません。
新たな視点を与え、新たな物語を紡ぎ直すこと。

そこから、次の時代にひらかれる可能性が生まれると、私たちは信じています。

変わりゆく都市の中で、その記憶とどう向き合い、次の世代に何を託せるのか──

今回のプロジェクトは、3701号車(8811号)を守ると共に、新たな挑戦の始まりでもあります。

3701号車(8811号)は、鉄道車両として人々を運ぶ63年の長い役目を終えました。
けれどこのプロジェクトが実現すれば、
「都市の記憶」を、皆さまと共に未来へ運ぶ電車として、もう一度、走り出せるかもしれません。

ご支援を通して、私たちと一緒に、「未来への実験」「未来への挑戦」に参加していただき、
その目撃者として見届けていただけたら嬉しいです。



「引退電車を後世に残す」ということは、
あなたの記憶を、未来につなぐことかもしれません。

どうか、この挑戦に皆様のお力を貸してください。
ご支援・ご協力、心よりお待ちしております。