「義経は死せず、」と唱える人と反論する人

《　休憩　》

◎「義経は死せず」と義経一行の北行を唱える人々と反論する人たち。

 

「文献に記載があることを史実とする」、それは基本であり、正しいことが前提で

もあります。

吾妻鏡に記載がある『衣川での義経やその家臣たちの死』は事実ではないとこれま

でも多くの知識人たちが唱えております。

江戸時代中期には、林羅山、新井白石が「義経は衣川で死せず、脱出して蝦夷へ渡った」と、徳川光圀が「義経の首は偽物であり、蝦夷に渡り神として崇められている」など当時のインテリの方々は「義経は死せず、蝦夷に渡った」と記しています。
また探検家の間宮林蔵は樺太から大陸へ渡り、満州人の声を聞き、「漢土の天子は日本人の末なりということが伝承されている」と記しています。

 

日本で最初に義経が成吉思汗になったという説を唱えたのは、幕末のドイツ人医師のシーボルトの著書｢日本｣であると云われています。

明治時代中期にロンドンに赴任し、ケンブリッジ大学で学んだ外交官・末松謙澄は卒業論文に「義経＝成吉思汗説」をまとめて発表しています。

大正時代には末松謙澄の影響を受けた秋田県出身、エール大学卒業の牧師・小谷部全一郎が北海道に渡り、アイヌ人の学校を作るなどアイヌ問題に取組む中で、義経北行説に興味を持ったとのことです。小谷部全一郎は５０才頃日本軍の通訳官としての試験に合格し、満州・モンゴルに赴任し、「成吉思汗＝義経」の痕跡を調べるため満蒙の現地を精力的に調査しております。そして帰国後、陸軍大学教官の道をも断り、１９２４年（大正１３年）に著書「成吉思汗ハ源義経也」を出版しています。

ベストセラーとなり、一大センセーションが起こりました。

しかし、当時の知識人たち、アイヌ言語学者の金田一京助や東洋史の歴史学者の中

島利一郎など国史学、東洋史学、考古学、民俗学、国文学、国語学・言語学など第

一級の研究者たちがこぞってこの説に対し、雑誌「中央史壇」において大々的に反

対の論戦を展開しました。

この反論に対し小谷部全一郎は「成吉思汗ハ源義経也・著述の動機と再論」を再出

版していますが、それについては史学側からの反論はなかったとのことであります。

そもそも、『「中央史壇」にて反論した方々はしっかりと調査・研究されたのか、

小谷部説を批判できる資格を持っていたかどうか疑問であり、主観的、感情的にな

って自分たちの想定外の説に戸惑いとあり得るはずがないと日本人的に横並びに

同調されたのではないだろうか』という後世の意見もあります。

 

昭和時代には岩手県の郷土史家、佐々木勝三が３０年以上にわたり高校教諭をしな

がら、岩手・青森・北海道等を訪ね回り、古文書や伝承、遺跡などを通じて、裏付

け調査・研究を行ない、戦後、大町北造や横田正二共著「義経伝説の謎＝成吉思汗

は義経か」を出版しています。

さらに、高木彬光著書、推理小説「成吉思汗の秘密」は今でもベストセラーであり

ます。

また最近では、大阪府出身の中国語・音韻学のエキスパート、エッセイシストの丘

秀夫著書「義経はジンギスカンになった！その６つの根拠」や静岡県出身の京都大

学教授で日本におけるモンゴル研究の第一人者である杉山正明著書「モンゴルが世

界史を覆す」など調査・研究が一段と進んでいます。

　　　　　　　　　　　　　　　　　９月７日　田中良一記