【ご報告】第82回公衆衛生学会総会記念特別演奏会の様子
クラウドファンディングにご支援いただいた皆様、また合唱団として参加してくださった皆様、聴きに来てくださった皆様、本当にありがとうございました!
第82回日本公衆衛生学会総会は10月31日から開会し、数千人の公衆衛生関係者が参加して数多くの研究発表、実践報告、それに伴う活発な討論が行われ、昨日の11月2日までで全日程を終了しました。
わたしたちの「第九」もこれに伴って11月1日に演奏を行い、満場の聴衆の皆様ととても良い時間を共にすることができました。筆者は当日は主にステージ周辺についてのいわゆるステージマネージャー的な立場としてあちこちで仕事をしており、ここからの文章に、報告という場ではあるのですが、個人的な感傷がかなり含まれるのをお許しいただきたいと思います。
11月1日の17時前というのは、エントランスホールの一面のガラス張りから会場を突き刺していた、立冬間近の鮮やかな夕日がようやくつくばの街の建物の陰に沈んでいく頃でした。学会会場のど真ん中に準備されていく音響機材、照明機材、そしてそれらに囲まれたステージが概ね整い、文字通り幾重にも聴衆が取り巻く中で、80人余りの合唱団員と東京ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団の皆様がステージに整列していく様子は、それ自体、多くの人が集まる学会らしくどこか非常に祝祭的でした。
合唱団員のなかに知人・同僚を見つけたのであろう方が手を振ったりする様子もあり、通常のコンサートホールではそういうことはなかなか大っぴらにはやりにくいのですが、この会場は普通のコンサートよりもいくぶん開放的で和やかな雰囲気となり、開演前から客席と舞台の一体感がすでに生まれ始めていたように思います。
とはいえ学会の中に大編成のオーケストラと合唱団が参加して演奏が行われることは異例中の異例です。演奏者が集まっていく様子は、そしてそれをあまりにも多くの人が取り巻いている様子は、自分だって予め想像はしていたし、そもそも直前までステージの準備のためあらゆる場所を飛び回っていたというのに、ちょっと信じがたいものを見るような気持でもあり、一方でこれまで重ねてきた準備がようやく形になったという感慨もありました。
今、少し時間がたって改めて思うに、「公衆衛生関係者と市民がお互いに感謝し合い、労わり合い、次の健康危機に向けて一緒に取り組むことを呼びかける」という趣旨の下でこれほどまでに多くの人が動いてくださったことに圧倒されていた部分もあったかもしれません。
田宮会長の挨拶を経て(終演後にはソリストの方に大変良い挨拶でしたと言って頂いていたようです)第三楽章の演奏がはじまり、ベートーヴェンがかつて器楽編成で書いたなかで最も穏やかな感情に満ちているともいわれる音楽が流れ、皆様思い思いに耳を傾けていました。第四楽章に入って歓喜のテーマが器楽によって演奏されはじめると明らかに会場の期待は増しました。やがて「恐怖のファンファーレ」の最強奏の残響がやんで一瞬、完全な静寂が訪れた中でバリトン独唱が歌いだした時の聴衆全体の集中力は非常に高く、続いて合唱が入り、女声のソリが入り、そうした音楽の展開にあわせて引き込まれてゆくのが見て取れました。
また、合唱団も経験者が多かったこともあり、全員そろったのが直前のゲネプロだけとはとても思えない水準の演奏をみせてくださいました。最後の最後まで息切れすることなく、大音量とハーモニーを維持していたのはアマチュアの演奏としては流石の一言に尽きると思います。
終演後はアンコール的に、会場の人にも一緒に歌うことを呼びかけながら、合唱による歓喜のテーマの再現部の演奏が2回行われ、また最後には合唱団に一人一本ずつ花を贈呈するサプライズもあり、非常に温かい雰囲気のなか演奏会を終えることができました。
非常にお忙しい中ご招待に応じてくださったつくば市の五十嵐市長も「会場の使い方のイノベーションですね」と仰り、良い演奏会でしたねというご感想をいただくことができました。
会場についても少しコメントを残しておくと、実は筆者はもう少し長い残響を想像していたのですが、聴衆の数が多かったこととスペースが横に広かったことの影響からか思ったより長くはなりませんでした。ちょうどNHKホールや、東京文化会館などにも似た響きとなり、バランスがよく取れていた印象がありました。
この会場についてなんといっても特筆すべきは演奏者と聴衆の一体感でしょう。もちろん聴衆と演奏者に知人、同僚、家族どうしの人がいたためという部分はある程度ありますが、それよりも構造がもたらした一体感がとても大きかったように思います。
ステージ上手側から正面までは、ほぼ、小さめのオペラハウスのバルコニー席。下手側から裏までは、ほとんどワインヤード型ホールに似ているのですが、この非対称さと、客席とステージとの水平距離の近さが聴衆の集中を増すのに非常に独特な効果があったように感じます。一応想像はしていたのですが、想像していたよりももっと密度が高い空間となりました。
演奏が終わると聴衆は各々自由集会や懇親会に散ってゆき、オーケストラも慣れた様子であっという間に撤収し、一時間もしないうちにエントランスホールはすっかりがらんとしてしまいました。つい先ほどまで演奏会が行われていたとは思えないような様子になり、寂寥を禁じ得ませんでした。
ただ、つい先ほどまで確かにあった、オーケストラ、ソリスト、合唱、指揮者、聴衆、会場、そして何よりベートーヴェンの音楽がすべてひとつに収斂した一体感は、私たちが呼びかけたかったメッセージ―公衆衛生従事者と市民への感謝、連帯、今後への協働しての備え―とともに、参加した方の多くに多少なりとも残ったのではないか、と信じるには十分な演奏会だったと思います。
あらためて、
〇クラウドファンディングを通じてご支援くださった皆様
〇合唱団としてご参加くださった皆様
〇当日、聴衆としてあの場に参加していただいた皆様
〇オーケストラとしてご参加くださった東京ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団の皆様
〇快く指揮者を引き受けてくださった佐藤宏之先生
〇辛抱強く合唱指導してくださった佐藤あけみ先生、堀部一寿先生
〇演奏会が付随することで生まれた、学会の進行としては非常に多くの異例なことにご協力くださった佐藤元彦様はじめコンベンションプラスの皆様、つくば国際会議場の中原様(エントランスホールを会場として最初にご提案くださった方でもあります)。
〇照明・録音・録画の皆様
およびこの「第九」に関わってくださったすべての皆様に心からの感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。
皆様の誰一人欠けても、このようなステージを実現するには至りませんでした。
本当にありがとうございました。
会計報告について、実は最終決算が確定していないのですが、確定次第できるだけ詳細な数字をお示しできるようにいたします。使途としましては、オーケストラ、指揮者、ソリストの招聘費用および録音等に係る費用、リターン(楽譜)発送等に係る諸経費として大切に使わせていただきました。
筆者個人の心残りとしてこの「活動報告」でのベートーヴェンの「第九」解説、演奏史の紹介などが完成していないところがあるのですが、それは研究の合間にいずれ少しずつ追加できていけたらとも、一応思ってはいます。
それではひとまずこの辺りで失礼します。
皆様のご多幸と、公衆衛生の発展を心よりお祈りしています。
中野 寛也
「住民とともに公衆衛生学会で第九を歌う会」副事務局長
結びに、写真をいくつか掲載しておきます。どうぞご覧ください。