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「普段の事業では届かない層、
特に若い世代に知ってもらう良いツールでした」

医療用ウィッグ写真集に集まった共感と支援

02.

岩岡ひとみ(NPO法人「全国福祉理美容師養成協会(ふくりび)」事務局長)

これは、NPO法人「全国福祉理美容師養成協会(ふくりび)」で事務局長を務める岩岡ひとみさんが実行者として立ち上げたプロジェクトです。2014年6月から2ヵ月半にわたり、共感の輪を広げ、目標金額を超える370万円以上の支援を集めることに成功しました。 NPO法人のなかでも美容分野は珍しく、美容業界のなかでも福祉分野という活動領域はユニークなポジションです。それでも、なぜReadyforでのプロジェクトを達成することができたのでしょうか。どのようにプロジェクトをつくっていったのか、どのような人が支援者になったのか、クラウドファンディングを通じてなにか団体・組織に変化があったのか、そしてプロジェクトの現在などについて、岩岡さんに聞きました。

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NPO法人「全国福祉理美容師養成協会(ふくりび)」事務局長・岩岡ひとみさん

Story 1.

福祉理美容や訪問理美容という言葉が
ないときから活動を続けてきた

―ふくりびでは、訪問理美容事業や訪問理美容師養成を中心にさまざまな事業を手がけられています。

岩岡ひとみ(以下、岩岡): まず老人ホームや高齢者の自宅に訪問して理美容サービスを提供する訪問理美容に関しては、理事長の赤木(赤木勝幸さん)が20年ほど事業をおこなってきたものです。8年前にNPO法人化したのですが、事業を開始した当時はまだ、福祉理美容や訪問理美容という言葉は聞かれませんでした。この事業に関連して、訪問理美容師の養成にも注力していますが、そのほかにも今回のクラウドファンディングでプロジェクトをおこなった医療用ウィッグの製作・販売などいくつか事業を展開しています。 私が福祉理美容に関わりはじめた10年前は福祉理美容という言葉を知らない人がほとんどでしたが、いまでは言葉を知っている人は増えています。少子高齢化の波もある日本では、ますます必要なサービスだという流れがきているので、私たちが目指している福祉理美容の「一般化」がどんどん進んでいくのではないでしょうか。特に今年は訪問理美容への関心が高まっていて、5月30日には訪問理美容をテーマにした『鏡の中の笑顔たち』という映画が全国公開されるなど、訪問理美容が社会に広く認知されることになりそうです。

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岩岡ひとみさん

岩岡: 認知を拡大していくという意味では、昨年Readyforを利用したことは本当に良かったと思います。私たちの団体はNPO業界では比較的知られるようになってきたんですが、美容業界内では知名度が低かったんです。そこでプロジェクトでは、ヘアサロンやライターなど美容業界のキーパーソンを巻き込んだことで、美容業界内でものすごく拡散され、支援につながりました。

Story 2.

リアルでは繋がっていない人からの
支援が多く集まった

―クラウドファンディングを利用するのは、今回がはじめてだと聞きました。

岩岡: そうです。私たちは事業型のNPO法人として8年活動してきましたが、これまでほとんど寄附を集めてきませんでした。あくまでイメージとしてですが、寄附型がサステナブルではないと思っていて、寄附集めに労力を割くよりも、きちんと事業を通じて対価を得たほうがいいと考えているからです。それでも今回クラウドファンディングを利用したのは、拡散や認知に重点を置き、(拠点が名古屋のためリーチできていなかった)関東に住む人や、美容・医療業界内に対して幅広くリーチしたいという思いからでした。

―多くのクラウドファンディングサービスがあるなかで、Readyforを選んだ理由を教えてください。

岩岡: Readyforを選んだ大きな理由としては、NPOの友人・仲間たちがたくさんチャレンジし、その成功を見てきたことがあります。たとえば、フリーランス保育士の小竹めぐみちゃん(「対話の場から、自分らしく生きるオトナのセナカを増やしたい!」の実行者)と話をしているなかで、Readyforをすすめられたこともきっかけのひとつです。 ただ、プロジェクトページをつくり、公開してみると、最初は思いのほか支援が集まりませんでしたが、なぜか達成できないというイメージはありませんでした。初期は美容師さんをはじめとする美容業界から支援が集まり、最後はNPO業界や医療関係者が支援してくれました。支援者の内訳としては、友人の支援は全体の2割ほどで、高額(10万円)の支援者を見てもリアルにはつながりのない人が多かったです。

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NPO法人「全国福祉理美容師養成協会(ふくりび)」事務局長・岩岡ひとみさん

8割ほどが知らない人からの支援とのことですが、支援者とはどんな関係性が生まれましたか?

岩岡: 支援者のひとりに九州の美容室のオーナーさんがいました。SNSでも応援してくださり、プロジェクト達成後に本を送ったところ、「うちもパートナーサロンになりたい」と言って、研修も受けてくれました。ほかにも、お医者さんや看護師さんの支援者も多くいたので、それぞれの病院で置いていただいています。

Story 3.

直接会って、自分たちの言葉で伝えることが
いちばん効果的だった

―プロジェクトづくりについて、キュレーターとはどのようなパートナーシップのもとで動きましたか?

岩岡: 本当にはじめてのことだらけだったので、担当キュレーターの納谷春菜さんにいろいろとご相談させていただきました。たとえば、5,000円以下のリターンを用意しなかったのですが(注.ほかのプロジェクトは3,000円を用意するプロジェクトが多い)、それが若い美容師さんにとってはハードルが高いという意見がありました。これについても話し合い、それでもチャレンジする額が350万円と高額だったので、そのまま5,000円で通しました。 プロジェクトをすすめていくなかで意外だったのは、地方の方々はインターネットでの寄附手続きに抵抗が強いということ。ちゃんと理解してもらうためにも、リアルの場でのプロジェクト告知としては、Readyfor用の名刺やパンフレットを制作しました。

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プロジェクトを告知するための名刺やパンフレット

―共感の広げ方としては、オンライン/オフラインどちらもやっているようですが、どちらが効果的でしたか?

岩岡: やっぱり、直接会って、自分たちの言葉で伝えることがいちばん効果的だったと思います。もちろん、普段の業務があるので、一人ひとり面と向かって伝えていくことには限界があります。プロジェクト支援してくださった方々が、それぞれの場でさらに発信や拡散に協力してくださいました。SNSを通じて共感の輪が広がり、支援が集まったという感覚があるので、これはクラウドファンディングならではのことだと思います。

―今回のプロジェクトでは、いわゆるカタログなどではなく、「写真集」にしています。どのような背景があったのでしょうか?

岩岡: 医療用ウィッグ事業をおこなっているなかで、パンフレットや冊子をつくることもありました。しかし、病院に送っても捨てられ、訪問してもすでにありますと言われるなど、さまざまな理由から病院に置くことがむずかしい状況でした。それでも、患者さんは病院に置いてあるパンフレットを見てウィッグを選ぶので、病院に対してもなにかアクションをおこさないといけないと思いました。

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?まさにインターネットならではの広がりですね

岩岡: 今回制作したのは、「写真集」と打ち出していますが、サポートブックという側面もあります。インタビューや写真、Q&Aも入れながら、髪の毛だけでなく、まつ毛や爪、肌などへの影響をも考慮した情報を1冊にきれいにまとめました。これまでの「かつら=ネガティブ=ダサい」というイメージを払拭して、「ウィッグにしても大丈夫なんだ」ということを伝えたいと思いました。 出版して最も嬉しかったことは、患者さんはもちろん、家族や看護師さんなどサポートする側も喜んでくれたということです。特に情報が少ない地方病院に務める方々から、手紙やメールなど「便利です」といった反響も届いています。また、出版社さんのご厚意により、印税分で書籍を買い戻して病院以外にも看護学校や図書館に寄贈していく予定です。

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Story 4.

活動に対する反応や評価を目にし、
社会に必要とされている実感が生まれた

―改めて、クラウドファンディングを利用してみて、どんな実感や課題を持ちましたか?

岩岡: ふくりびは寄附型のNPOではなく、事業型のプロフェッショナル型NPOとして、効率良く持続可能性のある活動を続けていきたいです。クラウドファンディングは事業型NPOにとって、特定の分野の活動を知ってもらうためのプロモーションの一環として活用できると感じました。そして、普段の事業では届かない層や、特に若い世代に知ってもらうという意味で、良いツールだと思います。 今回の結果は純粋にすごく満足しています。達成したことはもちろん、こんなに支援者がいることを知る機会になりました。ふくりびはNPOのなかでも美容、美容のなかでも福祉ということで、どちらの世界でも少数派にいます。正直、これまで知名度がなかったので、社会に必要にされているのか不安になることさえありました。ただ、プロジェクトを通じて、NPOや美容業界の方々のつながりを改めて感じることができ、活動に対する反応や評価を目にすることで必要とされている実感が生まれました。

―最後にメッセージをお願いします。

岩岡: 将来的には、福祉理美容が特別なことではなく、どの美容院でも当たり前のサービスとして提供され、お客さまと一生涯向き合えるようになればと思います。だからこそ、ふくりびでは、マニュアルを公開したり、今回のように本を出すことで、福祉理美容のスタンダード化の実現を目指しています。

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岩岡: Readyforを利用してみて、これまでに情報を届けることができなかった地方や業界の方々にリーチできました。NPOが課題解決を目指すとき、共感と支援を集めるツールとして有効な使い方ができると思います。


文:佐藤慶一/写真:山本宏樹

※文中の記述はインタビュー当時の内容です。

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