福島環境放射線研修実施報告書
【浜通り環境放射線研修実施報告】
皆さまにご支援を頂き、8月21日から26日にかけて、福島県飯舘村、大熊町および三春町で環境放射線研修を実施することができました。クラウドファンディング枠で参加した学生は9名で、通常枠の参加学生79名と合わせて総勢88名の大所帯でした。新型コロナ感染拡大で開催が危ぶまれましたが、厳重な感染対策を施し、内容も大幅に修正することで実施にこぎ着けることができました。厳しい制限がある中、満足のいく内容にできるか当初は心配しましたが、各自治体のご協力と参加学生の情熱に助けられ、結果的にはとても素晴らしい研修になったと思います。
研修では、被災から10年を迎えた飯舘村や大熊町の環境放射線の現状と復興の様子、自然科学的な視点だけでは推し量れない地元の方々の苦悩などを自らの肌で感じることができました。飯舘村の畑でブルーベリーを収穫し、摂取しても安全であることを自分たちで確認した上でジャムに加工し、大阪の皆さんに食べて頂くこともできました。
【コロナ対策】
研修を行った時期はコロナウィルスの新規陽性者数が増加を続けている時期で、今振り返って見ると第5波のなかでも最も陽性者数が多い時期にあたっていました。そんななか、万が一にも福島にウィルスを持ち込むことがあってはならないのはもちろんですが、それと同時に、教育という大学に課せられた大変重要な使命を果たさなくてはならないという二つの責任の狭間に教員一同頭を悩ませました。大阪大学のなかで新型コロナ対策を担当している安全衛生管理部とも慎重に議論をした結果、マスク着用、手指消毒などの基本的な感染対策に加え、出発前に全員がPCR検査を行うこと、研修前後1週間程度の健康状態を記録すること、研修中も毎朝体温測定をすること、宿泊は個室とすること、食事は原則として弁当を用意し、個食黙食とすること、現地での移動は貸し切りバスで隣り合う席は使用しないこと、会議室ではサーキュレータなどで十分な換気をし、二酸化炭素濃度計でそのことを確認すること、また、地元の方との接触を極力減らすように研修内容を再考すること(地元の方との交流はこれまで学生から最も反響が強かった企画なので、それを減らすというのはとても残念でした)、など、できうる対策を徹底することでリスクを大きく軽減できると判断し、実施することに決めました。
学生にも、少しでも不安がある場合や社会的情勢を見て自分は行くべきでないと感じる人は参加を取り消してもよいという条件で最終意思確認をし、希望者のみが参加しました。
飯舘村、大熊町、三春町の各自治体の方々にも大変なご協力を頂きました。研修を実現する上で例年以上に自治体の協力は不可欠で、大変感謝しております。
【研修内容】
研修内容を以下に極簡単に説明いたしますが、それとは別に、10分ほどにまとめた動画も作成しました。以下のURLですので、ぜひご視聴下さい。
https://www.youtube.com/watch?v=d_kgBmLMF1E
(最後に参加学生から皆さんへのメッセージがありますので、どうぞ最後までご覧下さい。)
研修は8/21〜26の日程で実施しました。初日に福島駅付近のホテルでオリエンテーションを行った後、2日目から4日目までの3日間をかけて、飯舘村や大熊町で試料採取や津波被害跡の視察を行いました。試料は整理、処理をした後にNaIシンチレータという検出器で放射能測定を行います。帰還困難区域内の除染が行われていない場所の土壌はまだ高い放射線量を示す一方で、除染後の土壌の放射能は十分低いということを学びました。
5日目には三春町を訪れ、坂本町長と芥川賞作家で福聚寺の住職の玄侑宗久さんに発災直後の話をしていただき、シイタケ農家にはご自身が苦しめられた風評被害について伺いました。
その後、双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館を訪問し、地震被害、津波被害、原子力被害の実態を学びました。伝承館自体が津波被害の跡地に建てられています。青々とした新しい芝で覆われた不自然なまでに広大な平地に津波の威力を見せつけられた思いがしました。
【ブルーベリーの収穫】
今回のクラウドファンディングでは、飯舘村にある畑で育てられたブルーベリーを収穫させて頂き、ジャムにして大阪の人に食べてもらいたい、という企画がありました。収穫の最盛期は過ぎていましたが、遅摘みのブルーベリーを1.5kgほど収穫させて頂きました(冒頭の写真)。ブルーベリーを栽培した市澤さん、どうもありがとうございました!
収穫したブルーベリーはゲルマニウム半導体検出器という高感度の検出器で放射能測定をし、検出限界値が国の定めた基準値である100 Bq/kgの50分の1にあたる2 Bq/kgとなるような測定においても原発事故由来の放射線を検出することはなく、人が摂取しても十分安全であることを確認しました。
安全が確認できたブルーベリーはジャムに加工しました。はじめて作るジャムでしたがおいしくできました!!このジャムは、測定結果の説明と共に、11月7日に実施したシンポジウムにいらした方々に試食して頂きました。
新しい経験をし、新しいものを見る毎日でしたが、そこで感じたこと、考えたことは毎晩学生間で話し合いました。今年は「今回の研修を踏まえて私たちにできること」というテーマを設定しました。被災地に行くと、何か少しでも復興に貢献できないかという気持ちになります。各自が、それぞれの環境で復興に貢献するには何ができるかを考えました。議論のまとめは11月7日に実施したシンポジウムでポスター発表しました。そのときのポスターは以下にあります。
https://sites.google.com/rcnp.osaka-u.ac.jp/hamadohri2021/ポスター発表
【事後活動】
研修では沢山の試料を採取しましたが、これらは、飯舘村や大熊町の特定の場所での放射線量を定点観測するという研究のための研究試料でもあります。現地で放射能測定をしたのはそのほんの一部で、その他の大量の試料が残っていますが、それらの測定は研修参加者のなかから希望者をつのり、秋から冬にかけて行います。測定結果を解析しまとめる過程で、環境放射線が人体に(あるいは人に)与える影響を改めて考えることになります。結果は春に飯舘村や大熊町で実施する報告会で報告しますが、測定や解析を特に頑張った学生に行ってもらいます。だんだん専門性が高くなっていきますが、研究のプロセスを一通り経験することで、学生達は確実に理解を深めて行きます。
【収支報告】
支援額 1,104,495円
支出 725,492円
旅費9名分(交通費、宿泊費)
残額 379,003円
来年度の研修で使用予定
皆さまからご支援頂いた資金は参加者9名分が研修に参加するための旅費に使用させて頂きました。もともと11名が参加を希望しておりましたが、新型コロナ感染症拡大の影響で2名が参加を取りやめざるを得なかったこともあり残額がでましたが、この残額は来年度の研修に使用させて頂きたいと思います。
【最後に】
福島での環境放射能研修は今年で6年目になりました。若い世代に「現状を正しく見て、正しくこわがる判断力を培ってもらう」という目的を掲げ、手探りで、毎年試行錯誤を繰り返した結果、研修としてのひとつの形はある程度固まってきました。
今回、始めてクラウドファンディングの試みを実施し、皆様より多くのご支援を頂きましたが、そのご支援は、9名の学生が研修に参加することができたという以上の大きな意味を持つと考えております。これまで、大阪大学と我々の小さな研究者グループに結びつくつてで広がってきた研修が、今回のクラウドファンディングにより、その枠を超えて発展する道を開いて頂いたと考えています。教育の多様化が叫ばれますが、実際、学生や教員の多様性は教育効果を大きく高めます。様々なバックグラウンドを持った学生達が互いに刺激し合い高めていく姿は、見ていて感動すら覚えるものです。今回培ったノウハウをひな形に、来年度以降もより多様な学生に参加してもらえるよう努力してまいります。
東日本大震災から10年という区切りの年ではありますが、震災から見事に復興を果たした地域もある一方で、まだこれからの地域もあります。そうした地域の復興に向けて、地元だけでなく、日本全体で、そして国際的にも努力が継続されてゆかねばならないことをあらためて感じております。この研修も、時と共に求められる姿は変化していきます。この度の皆様からの応援は、本事業のさらなる充実化、長期的な継続、発展に向け、力強い後押しとなりました。一同心より感謝申し上げます。