初めての「子ども広場」支援プロジェクトが完了しました
こんにちは、JVC事務局長の伊藤です。
いつもJVCを応援いただきありがとうございます。
昨年実施したクラウドファンディングでご寄付いただいた資金によって、3月末までにイエメンで予定していた活動を実施することができました。
思い返せば、2020年にJVCとしてイエメンでの活動に取り組むことを決定し、やっと現地調査に入れたのは2022年3月でした。初年度は、遠隔でプロジェクト実施が可能なのか、国際送金から現地での事業進捗の把握など試行錯誤しながらの事業実施でした。若いイエメン人によるパートナーNGO・Nahda Makers Organizasion(NMO)との信頼関係を作ることも大切なミッションでした。そして、2023年に本格的に取り組むことを決定して、みなさまにご協力をお願いしたのがタイズ県での子ども広場と身分証明証・出生登録書支援プロジェクトでした。
198人のみなさまからご支援頂いた資金3,061,100円は、全額、以下の活動のために使用させて頂きました。
クラウドファンディング実施後、11月から12月にはイエメン担当の今中と小林が現地を訪問しました。その後、Youtubeにて報告会も実施しました。速報はお伝えしてきましたが、ここにプロジェクトの報告をお送りいたします。
■プロジェクトの実施内容
【身分証明書・出生証明書発行】
イエメンでは国内避難民のうち多数が避難する際に身分証明書を喪失したり、避難後に子どもが産まれ出生証明書を所持していない状況が続いています。結果、支援物資などの援助を受けること、就学や進学、病院での診療、検問所を通る地域間の移動や就業が難しくなっています。生活を送る上で必要な権利を享受できていません。
・国内避難民の16歳以上の青少年少女への身分証明書発行 → 150人に受給
・15歳未満の子どもへの出生登録書発行 → 400人に受給
・国内避難民への身分証明書取得の啓発・法律相談ワークショップの実施 → 425人が参加
【子ども広場運営】
戦争の中での生活は子どもの心身に悪影響を及ぼし、特に避難民の子どもの多くが創造性、協調性、情緒の育成のために欠かせない「子どもらしい時間」を過ごせないままです。JVCは避難民サイト2箇所(ハジャブ、ハサブリ)で読み聞かせ、お絵描き、ゲームなどを行う児童館のような「子ども広場」(子どもにやさしい空間(Child Friendly Space:CFS)とも呼ばれています)を設立しました。
・国内避難民が居住する3つのキャンプを対象に3〜13歳までの子どもが通う「子ども広場」の運営支援。210人の子供が継続的に参加。
・「子ども広場」運営のための児童保護、心理社会的サポートなどの研修。ファシリテーター(先生の役割)とコミュニティ計12人が参加。
・「子ども広場」の設備として、遊具設備の設置。トランポリン、ブランコ、滑り台を設置。おもちゃ、ゲーム用具など遊び道具を供与しました。
・「子ども広場」運営ファシリテーターの日当、安全を守る警備員の日当を支給。
子ども広場のテント内
子ども広場のテント内
おもちゃで遊ぶ親子
ボードゲームも人気です。
子ども広場には、主に5歳から10歳くらいの子どもたちが通っており、中には3歳の子も親子で訪れます。学齢期の子どもたちは、午前中は小学校に行き、午後に子ども広場にやってきます。午前中はお母さんが幼児を連れてきて遊具で遊んでいる様子もみられます。
子ども広場屋外のブランコ
子ども広場屋外のトランポリン
JVCは、滑り台・ブランコ・トランポリンも子ども広場の外に設置しましたが、たくさんの子ども達が楽しんでいます。
また、広場では遊具のほかにも、子どもたちの成長を促すような活動を用意しています。
読み聞かせによる言語スキル・他者への思いやりの想像力の向上、塗り絵や人形劇などを通して芸術的な表現・創造性を育もうと活動しています。
■プロジェクトの成果と今後
見えてきた子どもと保護者たちの変化
国内避難民に出生登録書・身分証明書の重要性が認識され多くの取得希望がありました。
取得後には社会の一員になれたと安堵する声などが聞かれました。
また、「子ども広場」では子どもたちが非常に楽しんでいる様子が聞かれました。
「子どもが自分の気持ちを表現するようになった」
「娘たちが子ども広場に参加しています。以前は、どこで遊んでいるか心配でしたが、今は子ども広場で遊んでいることで安心することができます。広場に行く前はとても内気でしたが通うようになってからは、自分の気持ちを表現するようになりました。なのでファシリテーター(先生役)の方に感謝を伝えました。」(保護者のアーシアさん)
「今では子どもが楽しそう」
「息子は、自宅に帰ってご飯食べたあと「もう一回子ども広場に戻りたい」と言うくらい広場を気に入っています。紛争後に心理的な問題を抱えていましたが、今はすごく楽しそうに過ごしているのでとても嬉しいです。」(保護者のバシールさん)
「子ども広場」の施設の遊具は、国内避難民と避難民の居住を受け入れた側のホストコミュニティの子どもが使うことが可能です。子どもたちが交流する機会にも繋がりました。
また、この間に嬉しい報告がありました。国内避難民の方々が「子ども広場」の運営費用を出し続けることは難しいという現状の中、JVCでも継続支援を検討していました。が、地域で活動する他のNGOが運営支援を引き継ぎ、継続することを提案してくれたのです。紛争下の地域、行政サービスが機能していない地域においては、他のNGOが活動を引き継いで支援をしてくれることも持続的な活動につながる一つの方法です。ファシリテーターやコミュニティの代表が、研修や実地経験で身につけた知識・技能を継続することも可能になります。
「NMOとJVCが「子ども広場」の設立支援をしたおかげで運営を引き継ぐことはできる」という言葉をいただきました。
■リターンのお届けについて
3月末までに全てのリターンを皆様にお届けいたしました。
万が一届いていないという場合には、お手数ですが事務局までご一報いただけますと幸いです。
■今後のイエメンへの支援
2024年、引き続き、戦闘地域に近いタイズ県内のニーズの高い地域の国内避難民を対象に、ノンフォーマル教育と保護の場となる「子ども広場」設立・運営支援を実施することにいたしました。さらに、現地NGOと協力し、イエメンの情報を日本国内に伝え、政策提言につながる発信を行います。そして、これからも紛争の影響を受けた子どもの発達、幸福感、保護、回復力が強化されることを目指してまいります。
JVCのウェブサイト上でもイエメン事業ページを整備していく予定です。覗いてみていただけましたら幸いです。
https://www.ngo-jvc.net/activity/report#tab08
改めまして、JVCの「世界最悪の人道危機下のイエメンで「子ども広場」をつくりたい!」へのご支援を誠にありがとうございました。
イエメンに限らず、スーダン、パレスチナと2023年、私たちJVCが関わっている地域では武力衝突が勃発し、2024年に入って今なお終息の目処が立っていません。世界最悪の人道危機が広がっているようにも思えるほどです。
ただ、私たちは忘れられた紛争を増やさないように、現地の人々に寄り添い、これからも活動と発信を続けてまいりますので、引き続き見守っていただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
JVC事務局長
伊藤解子