エッセイ『添牛内駅とのご縁ふたたび』

 

“自分に一番満足出来るのは目の輝きです。自信をもってがんばります。見守ってください”
 
廃止を秋に控えた平成7年5月、添牛内地区に住む1人の老人から私がいただいた葉書の文章は、こう締めくくられていた。この年の２月に深名線車内で撮影した写真をお送りしたお礼の返信だった。
 
その方の名前は、加藤孝一さん。
 
当時70代後半だった加藤さんは、添牛内地区に一人住み続け、町の中心地である幌加内の職場まで深名線で通う、添牛内駅を利用する最後の通勤客だった。
 

 

深名線が廃線になるまでの数年間、私は深名線で一つの作品をまとめるべく、沿線に通い写真を撮り続けていた。加藤さんとは添牛内駅や深名線車内にて何度も偶然にお会いし、その落ち着いた佇まいに惹かれ何度も写真を撮らせていただいた。
次第に言葉を交わすようになり、加藤さんとの交流が始まった。
 
「いつか深名線の写真集を出したいと思って撮影続けているんです」というと、「あなたが撮ってくれた写真を私はとても気に入っている。いつか形にしてください」と何度も激励のお言葉をいただいた。

 

 

深名線が廃止となった後も添牛内でお会いし、写真を撮らせていただく機会ににも恵まれ、その後も写真を送ってはお返事をいただく付き合いが続いていた。

 

その後、加藤さんが亡くなったという便りを息子さんよりいただいた。添牛内に一人住み続け、 80代半ばまで元気に暮らし、彼は天寿を全うされた。

 

 

ある時、加藤さんからいただいた葉書の文面には、こう記されていた。

 

“私も健康には以前より確実に自信を付けております。
私には良いことが續くと思って居ります。
これがご縁で末長く付合いたく念じております。“

 

今回、添牛内駅保存会に関わることになったこと、加藤孝一さんの写真を25年以上の時を経て、『〜懐想〜 深名線添牛内駅』として世に出すことになったことに不思議なご縁を感じている。

 

地域の歴史の生き証人とも言うべき駅を、何としても守っていこうとする保存会代表・山本昭仁さんの活動を陰ながらサポートしてゆければと思っている。

 

工藤裕之