インクルーシブなキャンパスへの大きな一歩
筑波大学ダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンター(DACセンター)です。
この度は、私達の初めてのチャレンジである「障害学生支援クラウドファンディング」に、延べ120名の方から、1,381,000円のご支援をいただき、誠にありがとうございました。
クラウドファンディングの終了から、私たちもその歩みを止めることなく、障害のある学生が学びやすい環境を作るための活動を進めてきましたので、ご報告と今後の展望をお伝えしたいと思います。
私たちは、このクラウドファンディングを通じて、「障害のある学生にとって役立つ支援機器の購入経費」「障害のある大学院生の研究活動支援費」「学生が外部研修に参加するための経費」を確保することができました。
1つ1つ、私たちの活動を各スタッフより、報告させていただきます。
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【視覚障害のある学生が手軽に読んだり、書いたりするための点字ディスプレイ】
点字ディスプレイは、通常のディスプレイ(画面)の代わりに、点字でデータの内容を示してくれるものです。平面からピンが数ミリ出てくることで、点字が表現され、テキストデータの内容を点字として読むことができます。さらに、授業中に点字ディスプレイの端末でノートを取り、後で復習することもできます。点字ディスプレイはこのように学習環境を整えるうえで有効なものですが、1つにつき約43万円ほどの高額な支援機器になります。
これまで学生が使っていた点字ディスプレイが購入から8年以上経っていることもあり、バッテリーにも機能にも不具合が多々見られるようになっていました。このような支援機器がないと修学や研究に大きな支障が出てしまうため、クラウドファンディングを通じて最新の支援機器を購入し、学生に貸出することができました。
実際に学生が使用してみると、従来使用していたものと比較した場合、なんといっても小型になっているため持ち運びを気軽に行うことができる他、重量も軽くなったそうです。そのため、授業以外でメモを取りたい場合わざわざ大きな機器を運ぶ必要がなく、視覚障害者にとって、メモをするという作業が手軽に行えるようになったようです。
【運動障害のある大学院生が実施した調査研究の解析をサポート】
運動障害のある大学院生が実施したインタビューの音声データを文字起こしするために、クラウドファンディングの支援金を使わせていただきました。脳性まひ等により上肢と下肢(手と足)が不自由な学生では、手指による文字入力の困難さがあったり、音声認識ソフトを利用しても音声を上手く認識しないという課題がありました。
そこで、合計36時間の文字起こし支援に充てさせていただきました。
大学院生の研究活動支援は、個人によって必要な費用が異なることもあり、大学では大きな検討課題の1つとなっております。このクラウドファンディングをきっかけとして、DACセンターでは「障害のある大学院生の研究活動支援」を新たに申請できる手続きの策定も併せて進めました。
今回のクラウドファンディングが実績となり、大学全体としても障害のある大学院生の研究活動支援の必要性に目を向けるきっかけとなりました。
そして、何よりも学生本人が前向きに研究を進められるようになったことが、嬉しく感じています。
大学としてこの支援を安定してできるようになれば、学生はよりチャレンジングな研究に挑戦することができ、それはやがて社会イノベーションに繋がると感じています。
私たちは今後も大学院生の研究活動支援を継続して実施できるように努力していきたいと考えています。
【意欲のある学生がヘルパー研修を受講してスキルアップ】
クラウドファンディングを通じて、本学の2名の学生がヘルパー研修を受講することができました。今後は、実習を経て、資格取得の予定になっております。
大学には、今後も新たな障害学生が入学することが予想される一方で、学生の生活を支える地域の資源が足りていない現状もあります。
2018年度から「重度訪問介護利用者の大学修学支援事業」という国庫補助も始まりましたが、実際に関与するヘルパーの確保が本当にできるか、懸念されています。
重度の障害のある学生が大学で学ぶためには、学習環境を整えるだけでなく、学生の生活基盤を整えるための「人」を育てることが必要不可欠です。
クラウドファンディングを足がかりとして、より多くの意欲のある学生が外部の研修を受けてスキルアップできるような枠組みを構築していきたいと考えています。
【支援者が離れていても、障害のある学生の学びを支援する遠隔情報支援システム】
聴覚障害のある学生を支援するチームでは、今回のクラウドファンディングで頂いた支援金で非隣席型の遠隔情報支援(パソコン要約筆記)を行うためのウェブカメラとモバイルルーターを購入させていただきました。
現在、筑波大学の聴覚障害のある学生支援の主流となっているのはパソコンによる要約筆記です。これは、利用する聴覚障害のある学生の隣に支援学生が着席して、パソコンの画面を見せながらタイピングを行う、臨席型情報支援が基本となっています。そのため、支援学生が現場に向かう必要があるのですが、筑波キャンパスは南北に長く伸びており、移動にとても時間がかかります。
今回購入したウェブカメラとモバイルルーターを使用して、iPadとPCをつなげ、支援学生に遠隔で映像情報を配信できるような支援ができればと考えています。
今後、学内で活用方法を検討して、活用していきたいと思います。
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今回のクラウドファンディングを通じて、障害のある学生にとってのサポート範囲が広がったことは間違いありません。現在のバリアをテクノロジーにより取り除くこと、また、障害があっても研究活動を諦めず、専門的な知識を有する人材に育っていけるのではと期待しています。
私たちは、障害に関する専門性から「支援者」と一般的に呼ばれることが多くあります。
でも、学生にとっての本当の支援者は、周囲の1人1人だと感じています。
クラウドファンディングを実施している間、支援をしてくださる1人1人の思いや考えが私たちに伝わり、本当の意味での「支援者の輪」が見えたような気がします。
私たちは、個人に障害があるのではなく、周りの環境に「障害」があると考えています。
その「障害」を取り除くためのヒントが、このチャレンジの中で私たちスタッフも新たな学びを得られたと感じています。
障害のある学生の学びの保障は、まだ始まったばかりです。
筑波大学は、他の大学でも起きているであろう障害のある学生を取り巻く様々な課題に対して、これからもチャレンジを続けていきます!
私たちの活動状況については、4月末までに予定しているリターン発送とともに、ウェブサイトやSNS等で今後も発信していきたいと思います。
これからも私たちの活動を応援していただければ、嬉しく思います。
ありがとうございました!!
筑波大学ダイバーシティ・アクセシビリティ・キャリアセンター(DACセンター)
アクセシビリティ担当 教職員一同