「PGV-1」を副作用の少ない抗がん剤へ導く研究
【クラウドファンディング 後の活動のご報告】
ご支援してくださいました皆様、お久しぶりです。奈良先端大の加藤順也でございます。新型コロナウイルス感染防止対策も、ようやく緊急事態宣言が解除されましたが、変異株の蔓延や、再度の感染拡大の兆候もあって大変心配しております。
昨年度以来、お亡くなりになられた方々及びご家族・関係者の皆様に謹んでお悔やみ申し上げますとともに、罹患された方々には心よりお見舞い申し上げます。また、最前線で国民の健康福祉に貢献してくださっている医療従事者、介護従事者に心より敬意を表します。
このような厳しい状況の中、2020年には貴重なご支援をいただきまして誠に有り難うございます。心より感謝申し上げます。おかげさまで、念願の研究機器(フラックスアナライザー)を購入することができました。機器の設置(10月)以来、この機器を使った実験を行い研究を進めております。その結果、重要な成果を得ることができました。本当に有り難うございます。今日はその結果も含めて、プロジェクト進行の経緯や、今後の方針などをご報告をさせていただきたいと思います。
【フラックスアナライザーが研究室に来るまで】
5月26日23:00にクラウドファンディング【副作用の少ない抗がん作用をもつ「PGV-1」を治療薬へと導く研究を】が成立致しました。その後、所定の手続きを経て、予定通り7月10日に大学に入金されました。
ここからが、フラックスアナライザー購入の手続きの開始です。国立大学法人で大型機器を購入するには入札という手続きが必要です。仕様書を作成し、仕様策定委員を任命して仕様策定委員会を開催し、7月27日に入札公告が掲示されました。受領期限の8月7日後に、技術審査を経て仕様を満たしているかの判定していただき、無事契約に至りました。
海外の製品なので輸入に少し時間と手間がかかりましたが、10月には、無事、私たちの研究室に納品されました。

これがどんな機器なのか、詳しいことは、メーカーのページをご覧になってください。
https://www.primetech.co.jp/products/tabid/90/pdid/218/language/ja-JP/Default.aspx
フラックスアナライザーを前にして、頭に浮かんで来ることが多々あります。
思い返せば、始まりは、2019年の秋頃でした。PGV-1の研究を進めていく上で、ミトコンドリアの機能を調べる必要が出てきて、どうしてもフラックスアナライザーが必要であることが明らかになりました。私たちの研究室が在籍している奈良先端科学技術大学院大学は他の大学と比べても機材が充実しているところだと思いますが、残念ながらフラックスアナライザーはありませんでした。どうしようかと思い悩んだ末、当時、大学での導入が進められていたReadyForさんに相談しクラウドファンディングを行うことに決めました。
これまでクラウドファンディングを行ったことはありませんでしたし、周りに経験した方もいらっしゃいませんでした。何もわからないことだらけの出発でした。実際初めて見たところ、「新型コロナウイルス感染拡大」という予想もしなかった状況に追い込まれて、打つ手がなくなってしまい、途方に暮れ、幾度もクラウドファンディングをやめようかと弱気になってしまいました。そのような時に、励ましになったのが、ご支援してくださっている方々からの応援のメッセージでした。何度も繰り返し読み直して、新たな思いを胸に決意を固めることができました。この思いは、今でもはっきりと覚えていて、少々の辛いことがあってもこれを思い出すだけで前に進むことができます。これからも私の宝として残っていくことでしょう。クラウドファンディングをやってよかったと思っています。繰り返しになりますが、ご支援してくださった方々に感謝の気持ちで一杯です。有り難うございました。
【フラックスアナライザー到着後】
フラックスアナライザーが研究室に到着しましたので後は実験をするのみです。
初めての機械なのでなれないことも多く、戸惑いも多かったですが、なんとか工夫して研究を進めました。その結果、PGV-1がミトコンドリアにも作用することを示す結果を得ることができました。詳しいことは論文にするまで発表することができないのですが、待ち望んでいた結果を得ることができました。
データは以下の図のように表示されます。OCRという数値を計測してミトコンドリアの活性を測ります。


PGV-1を加えるとFCCP後のOCRの値が下がっていることがわかります。フラックスアナライザーが到着してから半年でこの結果が得られました。今後は、この点に注目して研究を進めて行きます。
【PGV-1以外のがん研究】
折角、フラックスアナライザーが使えるようになりましたので、その他のがん研究でも使ってみることにしました。
脂質代謝とがん
がん細胞は正常な細胞と比べて様々な方法でエネルギーを得て増えます。私たちは白血病発症の過程で、がん細胞が脂質をエネルギーとして使うことを見つけました。フラックスアナライザーを使った実験で、その時にミトコンドリアが関係することがわかりました。
細胞周期とがん
がん細胞は正常な細胞よりも貪欲に増殖します。それは、「細胞周期」と呼ばれる増殖の仕組みに異常が生じたからです。これを利用して、細胞周期を阻害する薬剤が抗がん剤として開発されています。私たちは、細胞周期を阻害する薬剤の中でもCDK4/6という酵素を阻害する薬の仕組みを調べています。フラックスアナライザーを使った実験で、その時にミトコンドリアが関係することがわかりました。
CSN5とがん
CSN5は癌が発生するときに重要な働きをするタンパク質です。私たちは、長い間、CSN5の機能を調べていて、代謝と関係することを見つけました。これから、フラックスアナライザーを使った実験で、CSN5の役割を調べようと思います。
【一緒に研究をしてくれたみんな】
一緒にがんを研究してくれた人たちの中に次のステップへ巣立って行った人たちがいます。
横山 隆志 先生:次のキャリアへ向けて巣立って行きました。
伊藤 秀矩くん:理化学研究所で研究員となりました。
大川内 順平くん: 2020年3月卒業して就職しました。
北澤 優衣さん: 2020年3月卒業して就職しました。
後藤 保くん: 2020年3月卒業して就職しました。
北村 優奈さん: 2021年3月卒業して就職しました。
野末 杏奈さん: 2021年3月卒業して就職しました。
きっとみんな、次の職場でも活躍してくれることでしょう。
新しく加わった仲間もいます。
紙谷 直毅 先生:奈良県立医科大学の先生です。
Dhania Novitasariさん:インドネシアからの留学生です。
子安 有作くん:2020年4月大学院生として加わりました。
井上 祐志くん:2020年4月大学院生として加わりました。
これからの活躍を期待しています。
そして、もちろん、今も一緒に研究している仲間です。
加藤 規子 先生:永遠の共同研究者です。心から信頼しています。
中前 伊公子さん:加藤研の技術は全てお任せできる、信頼できるメンバーです。
Qiuting Lohさん:学位を目指して頑張っています。
露木 由実子さん:学位を目指して頑張っています。
Andrea Marie Chua Doblesさん:コロナがちょっと心配です。
松田 乾資くん:卒業を目指して頑張っています。
【収支報告】
皆様からいただきましたご寄付の収支報告です。
READYFORさんへの手数料、大学への管理費を差し引いて、フラックスアナライザーを購入しました。
残りは、2020年10月から2021年3月までの期間にフラックスアナライザーを用いる際の、フラックスアナライザー専用の試薬の購入とフラックスアナライザーを実際に動かす研究者の人件費に使わせていただきました。
READYFOR システム利用手数料 2,291,850 円
奈良先端大 管理的経費(5%) 694,500 円
フラックスアナライザー 9,152,000 円
消耗品(フラックスアナライザー用試薬) 249,048 円
人件費(6 人 x 月) 1,502,602 円
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総額 13,890,000 円
【お約束のリターンについて】
当初のお約束通り準備を進めております。進捗報告の活動報告冊子はPDFファイルもしくは冊子をお送りする予定にしております。
本学における研究成果発表会は2021年春頃を予定しておりましたが、新型コロナ禍のため現在検討中です。
【今後について】
現在、PGV-1の研究は、「どうやって、がん細胞の増殖を阻害することができるのか」を明らかにする、基礎研究の段階にあります。皆様のご支援のおかげでフラックスアナライザーを購入することができ、PGV-1のメカニズムの研究も大きく進みました。これと同時に、現在、動物実験も勢力的に進めています。PGV-1の効果を生体内(マウス)で調べるためです。これらが全てうまくいけば、さらに進んだ前臨床試験を進めることができ、また一歩、臨床試験に近くことができます。これからも、頑張って行きますので、皆様の応援をよろしくお願いいたします。
今後のステップを効率よく進めるためには、そのためのノウハウを熟知した製薬会社の力が必要になってきます。おかげさまで、有り難いことに、共同研究を進めてくださる製薬会社の目処が立ってきました。研究資金の支援のみならず、彼らの持つ知識や経験は大変役に立っています。彼らの協力を生かして、薬理試験や薬物動態学試験、毒性試験などを迅速にクリアして行きたいと願っています。
また、製薬には膨大な費用がかかると言われています。実際、基礎研究を行っていて、研究資金の重要性を身にしみて感じてしまいます。私もこれからも頑張って、国や民間の資金を獲得して行こうと思います。
全ての想いは一つで、できるだけ早く目標を達成できるように努力して行きます。最終目標は、副作用の少ない抗がん剤の開発です。
これからも、我々の情報を発信して行きたいと思います。
今後も応援をよろしくお願いいたします。