「若者に被爆体験を語り継ぐプロジェクト」が無事終了しました。
このたび「なぜ、ヒバクシャを語り継ぐのか~ノーベル平和賞ICANを支えたキャサリン・サリバンさんとの対話~」の関連イベントがすべて無事、終了いたしました。みなさまから、クラウド・ファンディングに多大なご支援をいただいたおかげです。改めて御礼を申し上げます。
一連のイベントは、2017年度ノーベル平和賞を受賞した国際NGO「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の「被爆者担当」として、世界に被ばく体験を広めてきたアメリカ人平和活動家キャサリン・サリバン氏を招へいし実施いたしました。関西と関東での講演会とワークショップ、4つのイベントすべてで被爆者に実体験を証言していただき、延べ600人以上の方々が「被爆体験を語り継ぐ意味」を見つめ直しました。
被爆者を米国に招待し、アメリカの高校生ら3万人以上に被爆体験を伝える活動を展開してきたサリバンさんは一連のイベントで「核廃絶に向け、核問題を自分ごととして受け止めよう」と訴えました。北朝鮮とアメリカの核・ミサイル開発をめぐる緊張の下、昨年7月国連で採択された「核兵器禁止条約」の署名・批准に向けた水面下の駆け引きが進む今、「タイムリーな企画」との評価を得ました。
何よりの収穫は、多くの若者たちが「ヒバクシャの声」に真剣に耳を傾け、自分の頭で考え、「核廃絶は夢ではない」との思いを新たにしたことではないかと思います。改めてご支援いただいたみなさまお一人おひとりに感謝申し上げます。
多くの若者が「被爆体験」に耳を傾け、心を揺さぶられました。
以下に今回の「若者に被爆体験を語り継ぐプロジェクト」の実施結果を詳細にご報告いたします。
【実施日時・会場】
①関西講演会:2018年1月19日(金)午後1時45分~3時45分 京都外国語大学・森田記念講堂
②関西ワークショップ:1月20日(土)午前10時~午後5時 同大学4号館432教室
③関東講演会:1月26日(金)午後7時~9時 東京・文京シビックホール小ホール
④関東ワークショップ:1月27日(土)午前10時~午後5時 横浜国立大学教育7号館202号室
【各会場の登壇者(出演者)】 *敬称略
関西講演会: キャサリン・サリバン/原田美智子(長崎在住の被爆者)
関西ワークショップ: キャサリン・サリバン/花垣ルミ(京都在住の被爆者)
関東講演会: キャサリン・サリバン/川崎哲(ピースボート代表)/山田玲子(東京在住の被爆者)
関東ワークショップ: キャサリン・サリバン/山田玲子(東京在住の被爆者)/笹森恵子(在米被爆者=一時参加)
いずれも参加費無料で実施しました。講演会は事前申し込み不要、ワークショップは予約制(定員30名)とし、どの会場も「通訳付き」で行いました。
【各イベントの概要と様子】
▽関西講演会=
1月19日、京都外大の森田記念講堂で開かれました。座席数800に対し、約420席が埋まり、聴衆の約半分を大学附属の京都外大西高校・国際文化コースの1年~3年生が占めたことが特に目を引きました。
サリバンさんは冒頭から現代の核兵器をめぐる国際社会の緊迫した情勢を取り上げ、「この問題を他人事と考えないでほしい」と聴衆に訴えかけました。「核保有国や核の傘で平和を守れると思い込んでいる政治家らは『核問題は複雑で難しい』と見せかけ、私たちに対して『専門家に任せておけ』と語りかける。市民を侮辱している」と問題提起しました。
聴衆に向け「目をつむって、あなたが愛する人のこと、愛するもの、大事なものを思い浮かべてください」と短い瞑想を勧め、「核兵器は、愛する人、愛するものを一瞬にして破壊し殺し尽くすのです」と訴え、参加者一人ひとりに「核問題」を「私の課題」として考える大切さを実感させてくれました。
聴衆が耳をそばだてたのは、「BBデモ」と呼ばれる、小さなベアリング玉を使ったデモンストレーションでした。第2次世界大戦では、最末期には広島、長崎の原子爆弾まで投入されましたが、通常兵器や弾薬など使用されたすべての火力は3メガトンに相当するとされます。その総火力を1粒のベアリング玉に見立て、金属製のお盆にコツンと落とします。
では現在、世界9か国が保有する推定1万5千発の核弾頭の火力の総量はどうか。ビニール袋からジャラジャラと吐き出される球の音を、目をつむって聴く。いつ果てるとも知れぬ、その音は、何と1100個だといいます。彼女はこうして、わかりやすく「核時代の狂気」を語ります。
「ひとたび核戦争となれば、放射能のチリが地球を覆い、『核の冬』で飢饉が起きる」。それらの現象はすべて広島・長崎の原子爆弾が生み出した地獄模様が証明済みのできごとであり、だからこそ私たちは、被爆者の、証言者としての語りに耳をかたむけなければならないのだ、というわけです。
講演会には、長崎県から派遣された被爆者、原田美智子さんが、祖父や両親など家族4人が放射能症などで次々に死んでいった様子を語り、サリバンさんの問題提起が絵空事ではないことを明快に示しました。
聴衆とのやり取りを重視するサリバンさんは、BBデモのあとなど2回にわたり、会場に感想を求めましたが、3人の京都外大生が発言するなど、若い世代が積極性を見せました。
▽関東講演会=
文京シビックホール小ホール(東京都文京区)で開かれ、約130席が埋まりました。クラウド・ファンディングでご支援いただいた方々にご来聴いただきやすい金曜夜の1月26日に実施。その結果、会社員や年配者の姿が比較的多かった一方で、横浜国大、筑波大を中心とした留学生を含む大学生、大学院生の参加や、横浜から駆けつけてくれた中学生の姿もありました。
サリバンさんは北朝鮮の核・ミサイル危機の高まりから、講演会直前の1月22日には会場のある東京都文京区でも行われたJアラートに伴う避難訓練に触れ、「万一、核兵器が使われたら、甚大な被害や放射能汚染に見舞われる。訓練は不安をあおっているに過ぎない」と冷静に事態を直視する必要性を訴えました。
年明け早々、ハワイで弾道ミサイル飛来の誤報が発信され、住民が恐怖におののいた出来事を取り上げ、「ハワイに住む私の友人に連絡したら、『警報撤回までの約38分間、子供たちは泣き叫び、住民たちは恐怖におびえた』と話してくれた」といいます。その上で、サリバンさんは国民が自らの頭で考え、判断することが重要で、訓練実施は「知性への冒涜」と指摘しました。
その後、広島で被爆した山田玲子さんが登壇、11歳の時の自らの被爆体験を証言。自分が通っていた学校の校庭に無数の遺体が集められ、屋外で荼毘に付された出来事を当時の様子を描いた絵をスクリーンに上映しながら、「あれは人の死に方ではない」と語りました。また、食糧難の時代、その校庭に植えたイモを掘り出す時、人骨がいくつも出てきたと明かし、「そのイモはとても食べられなかった」と振り返りました。
また、サリバンさんの友人で、ノーベル平和賞を受賞した国際NGO「ICAN」の国際運営委員に日本人としてただ1人名を連ねるNGO「ピースボート」共同代表、川崎 哲さんも登壇、核兵器禁止条約採択後の署名・批准の現状などについて解説しました。
質疑の時間では、配布された用紙に会場から多数の質問が寄せられ、サリバンさん、山田さん、川崎さんが丁寧に答えました。会場で配布されたアンケートには「核兵器廃絶に向け、自分たちにもできることがあると気付いた」「核抑止力は神話だとわかった」などの感想が寄せられました。
▽関西と関東のワークショップ=
1月20日は京都外国語大学の教室で開催、定員30人を超える35人が参加しました。27日は横浜国立大学の教室でも開催、やはり定員を超える45人が参加、盛況でした。
いずれも午前10時から午後5時まで、途中1時間の昼休みをはさみ、延々7時間のワークショップでしたが、参加者の多くが時間を忘れるほど趣向を凝らした充実した内容でした。取材に訪れた新聞記者も、イベント運営の大学スタッフも、「仕事をわきに置いて、参加者になって」とサリバンさんに促され、汗をかきました。
ワークショップの内容はいずれも、「『核時代の狂気』による悲劇を避けるため、何をすればいいのか」が主テーマでした。その概要は以下のようなものでした。
*広島、長崎の原爆を含む第二次世界大戦で使用された総量3メガトンの火力にベアリング玉1個をみたて、地球上に存在する約1万5000発の核弾頭に相当する約1100個を金属製の容器に落とすデモンストレーション。不気味な金属音の持続に耐えるひととき。
*2人同士が向かい合って、3分間ずつ、片方が相手に一方的に自分の思いを述べ続ける鍛錬。「核兵器廃絶に向け、あなたにどんな支障もなく、どんなこともできる力があるとしたら、あなたは何をしますか」など根源を問う命題が次々と出される。相手は相槌は打つものの、質問は投げかけられない。「一方的な語り」を通して、自分の発想が狭くて、語りの材料の少ないことに気づくとともに、何かを改善しようとするときに手持ちの資源、力を過小評価しがちであることを発見させました。
*円陣の内側をJR新宿駅に見立てて、全員が厳しい目つきで大混雑の中を通り抜けていく。そのむなしさの体験。歩むスピードを落とし、緩やかなすれ違いの中で「おはよう」の声が生まれます。競争社会の、孤立した人間関係の問題を考えさせました。
*今度は、混雑の中でそれぞれがひそかに決めた2人の人物の動きに合わせて、常にその2人との間を等距離であるように移動を続けます。途中、だれかがすれ違いざまにポンと肩をたたくと、たたかれた人が5歩歩いてストップし、その場に座り込む。次々に座り込む人が増えて、流れがいつしか止まる。それは、人間社会が自分の意思で動いているように見えて、実は人間同士が決めたシステムが人間の動きを規制していることに気づこう、という試みでした。
*被爆者の証言の時間もありました。ウラニウムの採掘から原子力発電、そしてプルトニウムの発生、それを使った核兵器の生産という流れを図式化し、その全過程で放射能が漏れる危険性を抱えていることを確認し合う場面もありました。
*そして最後は、「金魚鉢」と称する多数の人間が関わる議論の場の作り方の実践に移りました。参加者が35人の場合なら、2つ多い37の椅子を、内側7席、外側30席の2重の輪に並べる。スタート時点で発言したい人5人が内側の席に座る。2席が空いている。この会議には①内側に座っている人のみが発言権を持っていて、外側の人は静かに議論の流れを見守る②内側は常に2つの空席を作っておかねばならない③だれかが移動中は、議論をストップする、という3つのルールで展開しました。京都外大でも、横浜国大でも、「被爆体験の継承のあり方」や「被爆体験を可視化する意味」などについて、1人ひとりの参加者が自分の意見や考えを次々と披露、活発な議論が続きました。
平和活動のリーダー養成を目指すサリバンさんから次々に新しいテーマが提示され、密度の濃い7時間でした。「平和教育の先生」になりたい、という大学生は、参加者同士の対話の機会の多い展開に、「こんな授業のやり方もあり、なんだな」と、顔をほてらせていました。笑いあり、驚きあり、学びありの、濃密な時間が過ぎて行きました。
【主催・共催・後援】
一連のイベントは以下の団体によって実施され、後援をいただきました。
主催団体=「若者に被爆体験を語り継ぐプロジェクト」(被爆者証言の世界化ネットワーク(NET-GTAS)/筑波大学ICR総合言語科学ラボ「記憶の継承と言語」プロジェクト/横浜国立大学教育人間科学部高橋弘司研究室の3者による連合体)
共催団体=学校法人・京都外国語大学(ただし、関西会場のみ。2017年度に「学園創立70周年」を迎えた京都外国語大学では、記念イベントと位置付けました)
後援団体=筑波大学/横浜国立大学/京都外国語大学(ただし、関東会場のみ) / (公財)広島平和文化センター/毎日新聞社/共同通信社/京都新聞/朝日新聞社京都総局/KBS京都
一連のイベントは多数のメディアに取り上げられました。
【広報活動とメディア掲載】
京都外大では、京都大学記者クラブに記事の告知と当日取材を要請、共同通信PRESSワイヤーを通じても地方紙やネット掲載を働きかけました。筑波大でも広報を通じ、地元記者クラブに働きかけたほか、横浜国大ではマスコミで働く複数の卒業生ルートを通じ、マスコミ関係者に取材依頼しました。一方で、独自のポスター、チラシを作製、関係大学の構内や会場内などで掲示、配布しました。
この結果、1月19日付け毎日新聞社会面に「ICAN連携の米女性 核廃絶の壁 被爆証言が破る」と大きく掲載されました。他にも、1月6日付け東京新聞横浜版「米国の平和活動家と広島の被爆者招く 27日、横国大で学習会▽同10日付け朝日新聞広島版「『なぜ、ヒバクシャを語り継ぐのか』米国の活動家が講演」▽同19日付け京都新聞朝刊「核廃絶『市民が行動を』 ICAN傘下、米のNGO代表 きょう京都外大で講演▽同24日毎日新聞夕刊「波のまにまに 胸に愛を置いてみれば=戸田栄」▽同27日朝日新聞朝刊京都版「『核兵器廃絶へ学生が行動を』右京で講演会」▽同31日毎日新聞京都版「<支局長からの手紙>センバツと平和集会」などで紹介されました。
また、共同通信の配信記事を載せた地方紙は、西日本新聞、中日新聞、神戸新聞、北海道新聞、高知新聞、秋田魁新聞、静岡新聞など多数にのぼりました。これに着目した読者がSNSを活用して情報を拡散した構図も見えました。
テレビ報道では、NHKBSが報道番組「キャッチ」で1月29日朝、「特集ワールドEYES」のコーナーで特集を組み、「被爆者の声を伝え、核なき世界を」と題し、サリバンさんのインタビューやこれまでの活動を詳しく紹介したことが目を引きました。
こうした流れの中で、日本記者クラブ(東京・内幸町)では1月25日、サリバンさんを招いて記者会見=写真上=が開かれました。サリバンさんは20人余りの記者やクラブ会員を前に、今後の核廃絶に向けた行動などについて語りました。会見動画は以下で見られます。https://www.youtube.com/watch?v=_2f0fJMK7IQ&feature=youtu.be
核廃絶の「夢」を実現するために
【今後の取り組みについて】
4つのイベント会場ではすべてビデオ映像の記録を残しました。すべてのイベント終了後には横浜国大にサリバンさんを迎え、学生らを中心に独占インタビューし、被爆体験の継承にあたって若者への期待を語ってもらいました。これらすべてを映像記録に残した背景には、「組織の歩みを記録に残す」という意味に加え、将来の「平和教育の教材作りに活かそう」という狙いがありました。
大学で、高校で、中学校で様々な平和教育が営まれていますが、多くの教師が原爆や核廃絶の問題をどう教えるかに悩んでいます。「この種の授業を実施し、被爆者証言を生徒に聞かせると多くの生徒は核廃絶に共鳴します。しかし、目前の核危機を念頭に、自らの命を守りたいという思いで核兵器を持つことに賛同する生徒も少なからず存在します。彼らの思いを無視できない。どう教えればよいのかいつも迷います」。京都外大でのワークショップである高校教師から、そんな切実な訴えも聞かれました。
今回の「若者に被爆体験を語り継ぐプロジェクト」の活動は当面、中核団体といえる「被爆者証言の世界化ネットワーク(略称・NET-GTAS)」が引き継ぎます。悩む教師を補佐する良い「平和教材」が作れないか、我々は模索を始めています。
「サリバンさんとの対話」イベントをきっかけに新たに生まれた人々とのつながりを大切にして、我々は一歩一歩着実に、「核兵器廃絶の夢」を追いかけて行きます。
「Never give up!(決してあきらめない!)」という被爆者の思いを胸に。
みなさんのさらなるご支援をお願いいたします。
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【収支報告】
皆様からご支援いただきました資金は、以下のように使用させていただきましたので、ご報告いたします。
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<収入の部>
READYFOR賛同金 3,169,000
READYFOR社手数料 -545,778
受入機関(筑波大)事務手数料 -316,900
計 2,306,322
<支出の部>
事前打合せのための出張旅費 151,060
講師K・サリバン氏旅費・謝金 575,800
それ以外の講師への旅費・謝金 111,800
サリバン氏随行・通訳等業務委託費 470,384
講演会・ワークショップにかかる実行委員旅費 197,100
広告宣伝及び当日配布用資料作成(ポスター・チラシ) 548,267
講演会会場及び設備使用料 66,700
講演会・ワークショップ映像撮影業務委託費 45,000
イベント準備・実行のための学生アルバイト代 121,320
イベントで使用する文房具等消耗品費 50,950
チラシ等送料 4,635
リターン作成のための消耗品費及び送料 15,000
計 2,358,016
収支計 -51,694
※支出の部の金額には一部計算途中のため概算額を含みます。最終的な収支状況
は追って後日ご報告いたします。
※取引先との関係上、全支出内容の詳細を明らかにすることはできません。
この点ご了承ください。
※クラウド・ファンディングのトップページ冒頭にあります「寄付総額」(予約分)3,179,000円のうち、未決済1口(1万円)があったため、実際の「賛同金総額」は3,169,000円となっております。
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上記に加え、長崎県から、当事業の実施に当たり関西講演会への講師派遣等、多大なご支援、ご協力を頂きましたことをご報告いたします。また、支出超過分は筑波大学および連携大学(横浜国立大学、京都外国語大学)の予算にて補填いたしました。
【ご支援いただきました皆様へのリターンご送付について】
本日、ご支援いただきました皆様にお礼のメールをお送りいたしました。
また、1万円以上ご支援いただきました皆様にはDVDをお送りいたしますが、ご送付にあたり、お詫びとご了承のお願いを申し上げます。DVDは2月中にご送付する旨、お知らせしておりました。しかしながら、DVD発送準備に予定より時間がかかり、3月1日、2日に発送を予定しております。お届けがお約束より遅くなりますこと、心よりお詫び申し上げます。どうぞご了承のほどお願い申し上げます。