卒論のテーマを覚えていますか

　「トイビト」は、元々「ロンブン」というサービスになる予定でした。仕事でお会いしたいろいろな研究者の方から、学生の研究や卒論の中にも面白いものがあるのに、現状ではごく限られた人の目にしか触れていないとお聞きし、だったらそんな論文がアップできるサイトをつくればいいのではないかと思ったのです。

　その頃から私は、学問が研究者や大学生だけのするものになっている状況に違和感を覚えるようになり、大学を出た後も学問の世界とつながれる場がつくれないかと考えるようになりました。とはいえ、社会人になった人たちが学生時代の論文をアップするだけのサイトというのは、どんな人がどういう文脈で参加するのかイマイチよくわかりませんし、そこからどういうつながりや広がりが生まれるのかも見えてきません。

　そこでまずは、学問の世界や学術研究を少しでも身近に感じられるWebメディアをつくろうと思ってできたのが現在の「トイビト」です。しかし、この「社会人も参加できる学問の場」というアイデアはずっと温めていました。それを形にしようとしているのが、今回の「アカデミックSNS」というわけです。

　このリニューアルによって全国の研究者の方たちが記事を投稿できるようになるというのは既に書いた通りですが、研究者ではないユーザーの方も「ノート」を作成することで、「トイビト」に参加していただくことができます。このノートは記事の抜粋やコメントを保存するだけではなく、自分自身の「問い」やそれについての考えをまとめる「学問ブログ」のようにも使用することができます――記事とノートで異なるのは更新時の表示範です。記事が更新時にトップページに表示されるのに対し、ノートはフォロワーのタイムラインのみに表示されます――。また、著作権の問題がクリアになっていれば、過去に書いた卒論や修論をPDF等でアップすることもできます。

　研究者と一般市民を隔てている壁を取り除きたい、というのが私の願いです。しかしそれは、この両者の違いを無くしたいということでは決してありません。研究者になるには――私のような素人には思いもつかない――厳しい訓練と、長い研鑽の日々があったことだろうと思います。私はそれに深い敬意と憧憬の念を抱いています。ただ、専門家が専門家の中だけにとどまっていては、その知性が世の中に伝播していくことはありません。同様に、私を含めた一般市民も、目の前の利害得失ばかりにこだわっていては、この社会を変えていくことは困難でしょう。それぞれの専門領域や属性の違いはありがらも、この場ではその枠を少しはみだし、誰もが「トイビト」として、虚心に問い、学び、考える。そんな場が実現することを切に願っています。