秋作 いきもの日紀 No.3　～八ヶ岳山麓 ヤマネ棲む森～

標高3000mに届きそうな八ヶ岳の峰々の麓、標高1500ｍほどにある森。

 

カッコウの声がむこうからとどき、日本一小さな鳥、ミソサザイが、渓流のせせらぎに負けずとばかり、“ビチビチビチ”とでかい声で鳴いている。

 

6月2日。その森で一つ、一つ巣箱を見ながら、保護のための食性調査を行う。

１つの巣箱を見ると緑色のきれいな蘚苔類があった。

その間から背中に黒い筋のある小さなものが2本！　2頭のヤマネだ。

 

黒い糞も巣箱の壁にもちょこんとついている。

雄1頭と雌1頭のカップルであった。

 

 

僕の小学校教師のヤマネのテーマは「繁殖・性行動・妊娠期間・仔の成長・音声」で、これを論文とし、京都大学理学部に論文を提出し、博士をいただいた。

 

この10年以上の研究の中で観察したたくさんの交尾行動、仔の成長、音声は「ヤマネの不思議ページ」を1枚1枚を開くようなものであった。

 

八ヶ岳の今日の雄の個体の性器は、繁殖活動のピークを示していた。

 

指には、黒くなった“血まめ”のようなものがあった。

交尾行動では、発情した雌に複数の雄が集まり、雌をめぐり、闘争が起こる。

噛むこともあり、雄の尾や耳から出血することもある。

今日の雄の血まめは、その闘争が数日前にあったことを示していた。

雌の性器も繁殖活動のピークを示すものであった。

 

 

さらに、蘚苔類の巣の底には、3日間ほど前からの糞があった。

これは数日間、このカップルたちは、この巣を利用していることを推測させた。

 

　つまり、このヤマネたちは、新婚さんであった。

 

雌の妊娠期間は　約1ヶ月なので7月3日頃、この森では体重2グラムほどの赤ん坊が産まれるにちがいない。

 

ピンク色で、産毛で覆われたやわらいかい体。

お母さんを呼ぶその声は周波数32キロヘルツ程の超音波。

天敵フクロウには聞こえない高音だ。

 

　7月初旬、この森を歩みたいものだ。