熊本に笑顔を！アトリエ花習舎でちっちゃな演劇祭を開催したい！

実行委員の河野です。

このページをご覧いただき、ありがとうございます。

私の本分は演出家としての仕事です。
時折見失いそうにもなりますが、そうした目線からこの３ヶ月の出来事を考えていました。

職業柄、「演劇は本当に生活に必要か？」という自問と常に共にいます。

演劇という存在は、まったくお腹の足しになりません。
翻ってこう言っては元も子もないのですが、
演劇人、例えば俳優という存在は、
地震直後、力仕事をするとか自分よりも身体的な弱者をサポートするくらいしか存在価値がありません、と言うと言い過ぎでしょうか。
即座に大きな公共の財源を動かせる地位にいるわけではなく、
広く供給できる食物を生産しているわけでもない。
極限状態において、まったく他人の腹の足しにならない存在であることを実感しました。
せいぜい知人に水を運ぶとか、何時間もコンビニに並んで限りある食料を確保するとか、
なんかそんなことしか出来なかったように思い返します。
（もっとも、地域にはアマチュアの演劇人もいらっしゃるので、本職の方で多大な尽力をなさっている方も多数いらっしゃることは付け加えておかねばなりません）

けだし、俳優は極限時に無力です。

本震からひと月ふた月と経った頃でしょうか。

ボランティアで深夜にテント泊や車中泊をなさっている方々を訪問する活動に参加していたときのことです。
天災に対して、人はどうすることも出来ない怒りや悲しみを心に溜め込むしかありません。
あるいはその気持ちは、進まない復興への苛つきから、政治・自治体への批判や周囲の避難者への不満などに形を変えて発散されていきます。

…そうです、その時ふと気付いたのですが、
「発散されて」いたのですね、きっと。
我々の訪問を楽しみにしてくださっている場面に遭遇することが増えていきました。
そして、そうした雑談のようなものの中に、今本当に困っていることは何か？言い出しにくいけど相談したいことは何か？などの重要な情報があるわけです。情報が聞き出せると、次のステップの支援を進めることができます。

私はすぐに、従事する他のボランティアスタッフと俳優との差を感じるようになりました。
どちらが優れているということではありませんが、特性といったらいいのでしょうか。

俳優は、自分とは別の人間の人生を生きる職業です。
また、多くの人に愛されるための術を持っています。
避難者と仲良くなり、自分のことのように寄り添って相手の話に耳を傾ける。
時には一緒に笑い、泣き、喜びに手を取り合うことだってある。
だからなのでしょうか、訪問先の避難者から大切な情報を聞き出すスピードが速いのです。
「これは、俳優に向いている支援活動だ」と感じたのを覚えています。

俳優は、腹の足しにはならないが、やはりなくてはならない存在です。
熊本にも、演劇を志す若い才能がいます。
彼らもまだ、元の生活には戻ることのできてない中で、
俳優を志す自分の存在価値を見失って欲しくはありません。

私は、こうなって初めて感じたことですし、ひょっとしたら伝わりにくいかもしれません。
あるいは、花習舎は比較的被害の大きい東区にあるために、私が眼に見えている「世界の中の、ごく一部分の話」に戦いているにすぎないのかもしれません。
それでも「あぁ、若い人が俳優を志せなくなるかもしれない」という果てしない不安感を
ただただこうして伝えることしか出来ません。
私の不安は杞憂に終わることを望んでいます。
いえ、天命に任せているだけではいけません。自分ができることを少しでも。
熊本の俳優の居場所がひとつ、多く在り続けられますように。
この演劇祭が、そのきっかけのひとつとなりますように。

皆様のご支援に勇気をいただいています。
必ず、熊本の俳優がみなさんのお役に立てるときが来ますので。
どうか最後まで、よろしくお願いいたします。

カシューナッツ12帖演劇祭実行委員　河野ミチユキ