支援総額
目標金額 1,100,000円
- 支援者
- 235人
- 募集終了日
- 2020年11月5日
まると私(4)リハビリ~国リハ編~
2017年10月、私は国立障害者リハビリテーションセンター(以下、国リハ)に移って来ました。施設はとてもきれいでした。
自分がいちばん何にもできない
「C4・不全(麻痺)」〔注〕というのが私の障害の程度です。首は動かせましたが、肩から下の上肢(両腕・両手)と下肢(両足)は麻痺していました。体幹は幸いに機能が残っていたようです。
「C4」は頸髄損傷のレベルとして重度です。リハビリを行ってもできるようになる動作はかなり限られ、生活のあらゆる場面での介助が必要とされています。千葉大病院や千葉リハビリテーションセンターで、そうした説明を受けていたと思います。しかし、私は自分のレベルを「C4」と認識していませんでした。だから、国リハで「おたくはいくつ。私はC××」と何人から言われたときに答えられませんでした。そのことは認めたくない気持ちがあったのです。自分がC4であることはとてもショックでした。
訓練中の人たちを観察すると、いろんな人がいました。
手が利かなくても洗顔から着替えまでなんでもこなしている人や、廊下をすごいスピードで走り抜ける人、いつも同じところでじっと廊下の窓の外を眺めている人。いろいろでした。
よく見ると、私はこの人たちの中でも状態が悪いほうであるらしいとわかりました。
たとえば移動です。食堂に行くのにはエレベーターに乗り、部屋がある2階から1階まで降りて行かねばなりません。当時の私は胸のあたりのエレベーターのボタンが押せませんでした。腕の力もまだ弱く、エレベーターホールまで行くのも一苦労。エレベーター前のナースステーションで人を呼び、行き先ボタンを押してもらって下に降りました。
また、体育館までは1キロあり、最初の1か月はリハビリテーション体育のアシスタントの先生が付きました。途中にある長~い長~い廊下は傾斜もあって、トレーニングに持ってこいの場所でした。アシスタントの先生は見守ってくれているだけで、手を出すことなどありません。
それでもしばらくして、私はエレベーターのボタンも自分で押せるようになり、食堂や体育館へも短い時間で行けるようになったのです。
トレーニングに明け暮れる日々
私の1日は次のようでした。
平日は理学療法士(PT)、作業療法士(OT)を相手にトレーニングに励み、空き時間は体育やOTのメニューを自主練です。4時~5時はジムを解放してくれていたので、私にできる機械をセットしてもらったり、車椅子のランニング用のローラーを漕いだりしました。
天気さえよければその後も外に出て、車椅子で敷地内を1周(おそらく1キロ弱)しましたし、雨の日は先ほどの体育館に行くまでの長~い廊下を行ったり来たりしました。スマホに入れた、今どきの音楽を鳴らしながら。6時30分の夕飯まで、じっとしていることはありませんでした。
さらに夕飯後も季節の良いとき(夏)は夜練と称して、また敷地内をぐるっと1周します。若い子たちは何周もしていて、タイムを測ったりしていました。
休日はトレーニングもお休みです。土日には絵を一枚必ず描くと決めて、何かを描きました。ふたり部屋をひとりで使っていたので快適でした。空いた空間はアトリエです。絵はモチーフに困りました。千葉リハでは見舞客がモチーフになりそうなものをいろいろもってきてくれましたが、所沢までやってくる人はそういません。季節の草花や敷地内の木から落ちた葉っぱやザクロ、鳩など描きました。ある日、青い柿がなっているのを見つけました。あの柿を描きたいと思い、その前でたたずんでいると、スーパーの袋を持ったおじさんが通りかかりました。事情を話すと、洋服を脱ぎそれに引っ掛けて取ってくれました。職員の方だと思い、お礼を言うと病院の患者だったなんてこともありました。
Fくんとあんまん
私は自分より状態が悪いけど、すごくガンバっているFくんを師匠と呼び、彼がやっていることを真似しました。彼は私の何倍もトレーニングをしていました。
ある晴れた冬の日、まずは最寄りの航空公園前駅まで行ってみたいと思い、彼とそのほか2人にお願いすると快く承諾してくれました。いざ車椅子4台で行ってみると、歩道の傾きが辛く、なかなか進みません。遅れる私をFくんたちは嫌な顔ひとつせず、少し行っては待ってくれ、走りやすいところを教えてくれました。やっとの思いで駅にたどり着きました。
コンビニで、あんまんを買いました。ところが、食べようとしたら落っことしてしまい、やっと拾って砂だらけのあんまんを食べた日のことはいつまでも忘れられません。
他の人たちの話を聞くと、休日は新所沢のパルコに遊びに行ったり、お酒を飲みにも行ったりしているらしい。いいなー私も行きたい。
それから1年かけて、新所沢のパルコ、居酒屋やラーメン屋はもちろん、電車に乗って所沢まで行けるようになりました。いつも何台もの車椅子を連ねて行く姿に、未来を明るく照らしてくれる尊いものを感じていました。
夜の消灯は10時でしたが、ひとりで車椅子からベッドへ移ること(トランスファー)のできない人は、8時には部屋にいて介護士を待っていなければなりません。自由に外で飲んだり、夜散歩したりするには、ひとりでトランスファーできるようになる必要がありました。
私の場合、それは当初とても難しいことでした。「完全麻痺」の人にはベッド移乗の仕方のマニュアルがあるものの、私のような「不全麻痺」は人によって状態が違い、マニュアルがないのことでした。PT泣かせと言われました。
でも、くる日もくる日もトレーニングに励み、ついにひとりでトランスファーできるようになったのです。
うちへ帰りたい
夏になると、部屋に新しい人が来ました。
40代くらいの彼女は最初隣の部屋にいたのですが、隣の部屋の住人は若い子でエアコンの温度がすごく低く設定してあり、折り合いがつかず私の部屋へ引っ越すことになったのです。自由に絵を描いていた空間はなくなりました。
その人は、まだ自分の現状を受け止め切れていないようでした。いつも自分はダメだとネガティブなことばかり言いました。最初は励ましていたけれど、だんだんバカらしくなりました。その人は私よりずっと状態がよく、どんどんいろんなことができるようになりました。私の心はすさんでいきました。
今置かれた状況で自分にできることを精一杯やるしかない。そう思い返し、いっそうトレーニングと絵を描くことに励みました。
夏が過ぎ秋風が吹く頃、日の暮れるのが早くなると、みんなで呑みに出かける話も少なくなりました。私はお酒を飲めませんが、その場の雰囲気はとても好きでした。
夕飯のあと、暗くなった空を見上げて、私は家に帰りたいと思うようになりました。目標としていたトランスファーができるようになりましたし、箸で食事もできるようにもなりました。箸を使うというのは私のこだわりでした。ただ、歩く練習はあまりさせてもらえず残念でした。
10月、国リハで「リハ並木祭」がありました。私は、オーケストラをバックに歌を唄うイベントに応募することにしました。こんな機会は二度とないと思ったからです。歌は怪我をする前、教会で5、6年ほど習っていました。これはあとの回のお話になりますが、その教会の歌の教室で絵本教室を知り絵本を描くようになったのです。
家族も来ないのに、自転車仲間がわざわざ千葉から聞きに来てくれました。結果は案の定、高音が出ないし息も続かなくて散々です。でも、私は満足でした。
2018年10月、所沢での1年間のリハビリ生活を終えて我が家に戻りました。
*注 脊椎(背骨)の中には、脊髄と呼ばれる筋肉や感覚を司る神経が通っている。脊髄は頸髄・胸髄・腰髄・仙髄・尾髄に分かれる。頸髄から尾髄までは全部で31の節(髄節)で構成され、頸髄は8つ、胸髄は12、腰髄は5つ、仙髄は5つ、尾髄は1つに分けられる。これらには頭側から順番に番号がつけられている。1つひとつの節からは神経が出ており、内臓や筋肉や皮膚につながっている。
「C4」とは頸髄(首の部分)の上から4番目の節の損傷を意味する。頸髄には手指や腕を司る神経があるのでその損傷により両手が利かなくることのほか、足・体幹・呼吸(補助)筋にも運動障害が生じることになる。
また、損傷の度合いにより「完全麻痺」と「不全麻痺」に分けられる。「完全麻痺」とは、神経が完全に切れてしまい、損傷部位から下の運動機能や感覚を全く失った状態である。「不全麻痺」とは、部分的に機能が残存する状態を言う。
(参考)「第1章 脊髄とは」『脊損ヘルスケア・基礎編』NPO法人日本せきずい基金、2005
『別府重度障害者センターでの訓練生活と効果』別府重度障害者センター、2015
リターン
3,000円
お気持ちコース
■サンクスメール
■自分で印刷できる「まる」のオリジナル電子ポストカード(1枚)
- 支援者
- 12人
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2020年12月
5,000円
絵本『まる』+名入れ
■出版された『まる』1冊をお送りいたします。
■希望者には、巻末に支援者としてお名前を入れさせていただきます。
『まる』を書店売りする場合も、応援してくださった方のお名前入りで発売いたします。
- 支援者
- 95人
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2020年12月
6,000円
絵本『まる』+オリジナルポストカード(5枚) +名入れ
■描き下ろし2枚を含めた、オリジナルポストカード(5枚)
+
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■出版された『まる』1冊
■希望者には、巻末に支援者としてお名前を入れさせていただきます。
『まる』を書店売りする場合も、応援してくださった方のお名前入りで発売いたします。
- 支援者
- 74人
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2020年12月
10,000円
出版お祝いコース
■サンクスメール
■自分で印刷できる「まる」のオリジナル電子ポストカード(1枚)
■希望者には、巻末に支援者としてお名前を入れさせていただきます。
『まる』を書店売りする場合も、応援してくださった方のお名前入りで発売いたします。
- 支援者
- 46人
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2020年12月
30,000円
出版お祝いコース
■サンクスメール
■自分で印刷できる「まる」のオリジナル電子ポストカード(1枚)
■希望者には、巻末に支援者としてお名前を入れさせていただきます。
『まる』を書店売りする場合も、応援してくださった方のお名前入りで発売いたします。
- 支援者
- 7人
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2020年12月
50,000円
出版お祝いコース
■サンクスメール
■自分で印刷できる「まる」のオリジナル電子ポストカード(1枚)
■希望者には、巻末に支援者としてお名前を入れさせていただきます。
『まる』を書店売りする場合も、応援してくださった方のお名前入りで発売いたします。
- 支援者
- 7人
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2020年12月