「介護×デザイン」のチューニング

今回は、「介護×デザイン」のチューニングについて「感情環境デザイン」の視点からお話をさせていただきます。「尾道のおばあちゃんとわたくしホテル」の見どころのひとつは、介護とデザインのチューニングです。介護事業者が手掛けるホテル。ユニバーサルデザインとか、そういうカテゴリーに正しくおさまらない“何か”。心身がままならない方が、明日の気力につながるデザイン、希望に触れることができるデザインをどう生み出したらよいか。介護へ寄ると使いやすいが気持ちが萎え、デザインに寄ると使いにくいが気分が上がる…。多くの人が頭を悩ませる、コレ！です。笑。

私は、感情環境デザインを担当した杉本聡恵です。医療福祉の現場で企画運営や作業療法士として、20年近く取り組む中、体は動くのに心が動かず、動こうとしない方々に数多く出逢ってきました。どうやったら動きたくなるのか…。辿り着いたのは、「環境とケアの力の掛け合わせ」でした。感情環境デザインとは、その「心が動くための環境」を生み出すためのデザイン。本能である感情に働きかけ、自発的な行動へ繋げる環境デザインです。

この感情環境デザインに共鳴し、施主である株式会社ゆずの代表の川原さん、専務の堀田さんに繋いでくださったのが、企画プロデュース役、コミュニティ・デザイナーの内海さんです。川原さん、堀田さんは、もともと介護福祉の世界がもっと楽しく、おもしろく、身近であってほしいと願い、日々実践されている福祉人です。それってほんと、世の本質をあっさり見抜いていると思うのです。デザイン性の高い世界に住むのは介護が必要ない人。介護が必要になったら急に向こう岸の機能性だけの世界に・・・。そこを分けない世界こそ、心が生き続けるのではないか。そのような思想で繋がったゆずさん、内海さん、私が、このプロジェクトでまず悩んだのが、どんな建築家がよいかということでした。

私たちは、あえて店舗設計も得意とするハンクラデザインさんと福間優子建築設計事務所にお願いすることにしました。商業建築の観点が福祉建築にあると、訪れる人全てを喜ばせたい！という想いをより細部にまで染み込ませることができると考えたからです。そう、これがまず最初の介護とデザインのチューニングです！プロジェクトチームは、基本構想から備品調整に至るまで、介護とデザインのチューニングをこれでもかというほど練り直し、深めていきました。

例えば、洗面コーナー。車椅子の方が手洗いだけでなく洗顔までもしやすい洗面台、車椅子でも立っても見やすく、手が届く収納を兼ねた鏡、介護視点の機能を持ちつつ、バリアフリーの理屈を考える間を与えないほど、魅了される洗面コーナーがあったなら、気持ちが晴れやかになるかな。アメニティのお皿が持ちやすく洒落てたら、そんなお皿に薬や湿布を置きたくなって、色気のある暮らしにつながるのでは？などなど・・・

美しいデザインは、感情を揺さぶり、スッと人生を肯定してくれます。サマになる、格好いい私は、情けない気持ちを吹き飛ばし、明日への気力を高めてくれます。ホテルには美しさ以外にも、色んな切り口から感情に働きかける沢山の仕掛けがあります。ぜひ探しにいらしてくださいね。