初めてのチャレンジであったクラウドファンディングは、5月16日23時2154000円という当初の目標を上回るご支援により終了いたしました。

 

2か月という時間は長いようで短いしかし深い経験をさせていただいた時間でした。

 

ひとえに皆さまの旧東木屋酒造場への深い思い入れや唐津の町並みを懐かしく思う温かさ、日本各地で消滅しつつある歴史的建造物のある景観を少しでも良い形で残したいという強い思いを寄せていただいたおかげです。

 

本来ならばご支援いただいた皆さまのお宅に伺ってお礼をすべきところですが、まずはずっと皆さまにともに走っていただいたこのReadyforのサイトにてお礼を申し上げさせてください。

 

東木屋を少しでも良い形で残したい。そのための調査と修繕のための資金を何とかしたいという気持ちで始めたことでしたが、終わってみますと、私たちの手に残ったのは資金よりも遥かに大きなもの。皆さまの温かな応援の力でした。

 

温かな手が次々と差し伸べられ、古い町家が良い形で残され、活かされた町並みを残したいという思いは、私たちだけのものではなかったということを実感しました。

 

皆さまにはもしかしたら失礼な言い方かもしれませんが、大切な仲間を得たと思えるような得難い経験でした。

 

6月22日、佐賀県教育庁文化財課の小野将史さんと大橋正浩さん、唐津市教育委員会の生涯学習文化財課の岩尾峯希さん、米倉美和子さんにお会いすることができました。

 

登録文化財にとお願いしていた宮島醤油以外にも数棟お時間の許す中でご覧いただけるということで、草伝社とともに、懸案の旧東木屋酒造場をまわることができました。

 

NPOからつヘリテージ機構からは無津呂(安河内)進と菊池(松田)郁夫、三岳晉、菊池典子が同行しました。

 

ヘリテージマネージャー養成講座では私たちの恩師でもあった小野さんに東木屋について「上方(かみがた)の雰囲気が色濃く残る良い建物ですね。妻入の建物が多い佐賀県には珍しく、平入であることは、特徴的です。迫力がある外観でありながら意外と奥が深くはないことも、かえっていい。唐津くんちの曳山が通る旧唐津街道の景観を守る意味でも素晴らしい建物です」といっていただけたことは本当にうれしいことでした。

 

「上方の」といわれた時に、そうか関西の特徴が残っていたのかと堺からやってきた人びとの中にいたであろう上方の大工棟梁たちの姿をはるか垣間見た気がしました。

 

小野さんは塩田津の重要伝統的建造物群保存地区の選定の折に尽力された方でもあり、石見銀山では大森の町並みの保存にも尽力された方でもあります。

 

「大森の熊谷家住宅の保存修理の際は『家の女たち』という団体が立ち上がりました。ときどき雑もの茶会というのが開かれましてね。それぞれ思い思いに抹茶茶碗を持ち寄ってその器にまつわるお話をします。自分の持ってきたものをどなたが使うかはわからないし、どなたのお茶碗が自分の所にくるのかがわからないというのが面白い。そういう催しも楽しいものでした」

 

雑もの茶会! 

 

お茶の嗜みがないものでも気楽に楽しめる、そういう器の味わい方なら敷居も低く、誰もが少しずつ唐津焼に誘い込まれそうです。

 

雨の降る中、上野さんとも言葉を交わす姿を拝見しながら日本各地を丁寧に味わっておられる姿に教えられることばかりでした。

 

小野さんと一緒にお運びいただいた大橋さんは岐阜の養老町のご出身だとか。長野、岐阜、愛知、三重で長く民家再生の仕事をさせていただいた者としては懐かしい心持ちでした。

岐阜は歴史ある町並みの保存に熱心なところが多いために有為の人材が輩出されるのかと思いを新たにしました。

 

東木屋の精米所で杜氏の井上満さんに教えていただいた精米機のお米を入れる口を岩尾さんに伝えたらきらきらとした笑顔になり「米倉さんには僕が教えますよ」とはずんだ声で言われたのはとてもうれしいことでした。

 

呼子の鯨組中尾家住宅で酒造関係の道具の展示を考えていたときには見当たらなかった道具類が散見できたことを喜んでいらっしゃったようでした。高取邸にもかかわってこられたらしく、文化財への思い入れの深さがうかがい知れます。

 

米倉さんも建物ばかりでなく一つ一つの道具を丁寧に見ておられ、東木屋の逗子二階を見上げて空間そのものをゆっくり味わっておられるようでした。

 

佐賀県の中でも唐津市の範囲はとても広く、しかも手つかずの歴史的建造物はたくさんあります。私たちはこれから無数のひとつひとつの建物と出会うことでしょう。建物の物語ること。そしてそこにいた人びと。それは少し気の遠くなるような遥かな道のり……しかしまたわくわくするような宝物さがし。

 

梅雨の日の東木屋は、薄暗く、それでも燕の出入りする小さなガラスの穴は今もあり。それはまた希望が射しこむ小さな入り口のようにも見えるのでした。

 

7月の初めごろに所有者の方たちも交えて、今ある部屋や逗子二階に置かれているものの整理について話し合います。いくつかの旧家から出される予定の什器や物品の保管場所についても市の職員の方に相談したいと考えています。ゆっくりと、しかし確かに動いています。皆さまが力強く開いてくださった扉の向こうの未来へ。

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