医療生協と賀川豊彦について

９月１日より開始した「賀川豊彦記念松沢資料館　常設展示図録作成プロジェクト」ですが、９月２５日に達成することが出来ました。多くのご支援をいただき誠にありがとうございました。クラウドファンディングの募集期間は１０月１４日（火）２３時までとなっており、現在「ネクストゴール」を設定しております。ネクストゴールは達成しなくても失敗とはなりませんが、引き続き図録作成のための諸費用として大切に活用させていただきますので、よろしくお願いいたします。

９月３０日（火）に、医療生協さいたま生活協同組合様の団体研修がありました。２０２５年は国際協同組合年で、今年は各地域生協、職域生協、大学生協の方々がお越しになりましたが、医療生協の方が来館されるのは今年初めてでした。お忙しい中お越しいただき誠にありがとうございました。

医療生協と賀川豊彦の歴史には、非常にドラマチックな逸話がございます。昭和初期の農村において、高額の医療費は農村社会を圧迫し、「医療地獄」という状況を生み出しました。賀川はまず東京に医療組合病院を設立することによって地方にも波及すると考え、国際連盟の事務次長を務めたこともある新渡戸稲造を初代組合長として（賀川は専務理事）、１９３１年に「東京医療利用組合」設立認可の申請書を東京府知事に提出しました。当時の東京府知事・藤沼庄平は第一高等学校時代の新渡戸の教え子であり医療組合運動にも理解がありましたが、医師会からの猛反対により東京医療利用組合はなかなか認可されませんでした。しかし１９３２年５月、「五・一五事件」が発生したことにより藤沼は警視総監に転任することとなり、東京府知事としての最後の日に認可の決済をしたことで、ついに東京医療利用組合は認可されました。東京医療利用組合は現在も「東京医療生活協同組合　新渡戸記念中野総合病院」として、中野区を拠点に地域医療を行っております。東京医療利用組合の発起人の一人である根岸元治は、新警視総監の藤沼に対して感謝の礼状を送ったところ、藤沼は「正しき者遂に勝利を可得候」と書いた返書を送りました。この書面は現在も新渡戸記念中野総合病院で大切に保管されております。

※写真は東京医療利用組合設立総会の様子。立って挨拶しているのが新渡戸稲造、写真中央に賀川豊彦。