黄蜀葵 トロロアオイ

東京藝術大学大学美術館では、現在、「雪村-奇想の誕生」という展覧会を開催しています(5月21日まで)。

雪村(せっそん)は、戦国時代に、茨城に生まれ、関東各地や福島で、絵を描いた禅僧です。

今でこそ知名度はさほど高くありませんが、江戸時代にも幕末明治の頃にも雪村の、ユーモラスでユニークな絵に魅了された画家たちがたくさんいました。

尾形光琳もそのひとりで、会場では、光琳が雪村にインスパイアされて描いたのではないか、と思われる作品も一緒にご鑑賞いただけます。

 

さて、そんな雪村の作品に黄蜀葵(とろろあおい)を描いたものがあります。

《鶺鴒図》というタイトルで出品されていますが、画面にどんと描かれるのは黄蜀葵で、枝先のつぼみに、鶺鴒がちょん、と乗っています。

雪村の作品のなかでもちょっと珍しい、しっかりと彩色された花鳥画で、小画面ながら、水墨画の掛け軸の並ぶ展示ケースをぴりりと引き締めています。

そんな《鶺鴒図》を見て、是真の《千種之間天井綴織下図》にも黄蜀葵の図があったのを思い出しました。

 

今日は是真と雪村、二枚の黄蜀葵を見比べてみましょう。

 

柴田是真《千種之間天井綴織下図》のうち、黄蜀葵 

 

是真の 黄蜀葵は、茎が二本交差して、円形を形作っています。

細い方の茎の先につぼみが三つ。太い方の茎の先に開いた花と閉じかけの花がひとつずつ、それにつぼみが四つついています。

伸びやかな墨の線で、葉と花びらが躍動的に描き出され、繊細な黄色のグラデーションが花びらの柔らかさを表します。

 

雪村《鶺鴒図》 

 

雪村の黄蜀葵は、画面の枠外から茎が一本伸びてくる、中国の伝統的なスタイルのひとつにのっとったかたちをしています。

横方向から描かれた花は、花びらのフリルが多く、白い絵の具がハイライトの役割をはたして、触りたくなるような、しっとりとした花びらの柔らかさが描きだされます。

 

こうして二枚の黄蜀葵を見てみると、大変よく似ていますが、異なる部分もあります。

まず第一に、是真の花がほぼ真正面からとらえられているのに対し、雪村の花は、横向きに描かれ、また一部が葉に隠されていること。

第二に、是真の葉の色は様々な濃度の緑が使われているのに対し、雪村の葉の色はおおむね一色の緑であること、があげられます。

 

是真が花をほぼ真正面からとらえ、画面の最前面に置いたのは、花の美しさと構図のデザイン的な洗練を目指したからでしょう。

また多様な緑色で葉を描いたのは、画面内に奥行きを感じさせることを意識したからでしょう。よく見ると、太い方の茎は、いったん奥方向へぐっと伸びて行って、画面の上部でまた手前側に戻ってきているのがわかります。

明るい緑色の葉は奥に、濃い緑色の葉は手前に、というふうに茎の動きと葉の色は連動しているのです。

 

是真のデザインセンスと的確に現実をとらえる目。

魅力に満ちた作品を次回もまたご紹介します。

 

 

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