新型コロナウイルス|広島大学発の技術で、中和抗体実用化を目指す研究
寄付総額
目標金額 4,000,000円
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- 募集終了日
- 2021年9月10日
ワクチン接種者におけるオミクロン株中和抗体の暫定評価結果
ワクチン接種者の血清に含まれるオミクロン株を無力化する中和抗体について暫定評価結果を報告する。
【本研究のポイント】
・ ファイザー製ワクチン接種者の血清中ウイルス中和活性は、デルタ株に対してオミクロン株では約4〜8倍の低下を認めた。特に2回目接種から半年以上経過している場合にはオミクロン株に対する中和効果は極めて低いものと考えられた。
・ ワクチン3回目のブースター接種により、ワクチン2回目接種後に従来の新型コロナウイルス株に対して得られるのと同程度までオミクロン株に対する中和効果が回復することが予想された。
・ 自然感染後にワクチン接種を2回行った場合では、デルタ株だけでなくオミクロン株に対しても極めて高い中和抗体を得られることが示唆された。
【背景】
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株は、感染に必要なスパイク蛋白質に30個以上の変異を有する新規の変異株です。現在世界中で感染が拡大しており、国内においても市中感染が始まり感染拡大することが懸念されています。オミクロン株にはこれまでにない多くの変異がスパイク蛋白質に認められることから、ワクチンの効果が大きく低下することが懸念されています。一方、ワクチン3回目の接種によりファイザー製では25倍の上昇、モデルナ製では37倍の上昇がオミクロン株に対して認められたと発表されています。
【研究の内容】
広島大学大学院医系科学研究科・免疫学 保田 朋波流 教授、河野 洋平 准教授は、新型コロナウイルスに対するファイザー製ワクチンを接種した日本人女性(48歳から62歳、計4人)を対象として接種後2週間後と半年後に血液を採取し、血清中に含まれる中和抗体の分析を行いました。中和抗体価はデルタ株もしくはオミクロン株の偽ウイルスを用い、ヒト細胞にそれらが感染するのを阻止する能力を血清の希釈倍率に対して評価する方法で実施しました。その結果、オミクロン株ではデルタ株に対してワクチン接種から2週間後で7.7倍、半年後で3.7倍の低下が生じることが明らかになりました。特に2回目のワクチン接種から半年以上が経過している場合、オミクロン株に対する抗体の中和能は極めて低い状態にあると考えられました。
またファイザー社から発表されているワクチン3回目接種後のオミクロン株に対する中和抗体の上昇率から、オミクロン株に対する中和抗体価の上昇範囲を推定しました。その結果ワクチン3回目の接種により、ワクチン2回目接種後に従来の新型コロナウイルス株に対して得られるのと同程度までオミクロン株に対する中和効果が回復することが予想されました。
一方、自然感染後にワクチン接種を2回行った場合では、多数のウイルス変異に対して極めて高い中和抗体が獲得されることが海外から報告されています。このようにして得られる強い免疫はハイブリッド免疫と呼ばれています。そこで自然感染後にワクチン接種を2回行った方から血液を採取して中和抗体の評価を行ったところ、デルタ株だけでなくオミクロン株に対しても非常に高いレベルで中和抗体が得られていることが明らかになりました。
【今後の展開】
新型コロナウイルス・オミクロン株は感染スピードが速く、またスパイク蛋白質に多数の変異を有していることからワクチン接種で得られる抗体を回避しやすいことが推測されていました。暫定結果ではありますが、今回の結果から後者について正しいことが裏付けられました。またハイブリッド免疫を有している方の血液にはオミクロン株に対しても非常に強い中和抗体が作られていることが確認されたことで、既存のワクチンであっても高度な変異を有した変異株に対し十分に防御効果を有する液性免疫を誘導しうるものと考えられました。今後は新たな変異ウイルスに対して安定して防御効果の高い免疫を得るためのワクチンの開発や、ハイブリッド免疫を獲得した方の血液から中和抗体を作成するなどにより感染者の重症化を予防・阻止する中和抗体治療薬の開発につなげていくことが重要であると考えています。
【用語解説】
中和抗体 新型コロナウイルスに感染すると、体内ではウイルスに結合する様々な抗体がつくられます。そのような抗体はウイルスの増殖を抑制し排除する効果があり、感染症の予防や回復に重要な働きをします。抗体がもつ機能の中でもウイルスに結合して細胞に侵入するのを妨害する効果を「中和」と呼び、ウイルス感染によって体内につくられた中和抗体がウイルスを無力化することで感染者の重症化が抑制され回復が早まります。
オミクロン株 新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の原因ウイルスであるSARSコロナウイルス2 (SARS-CoV-2)の変異株の一つ。オミクロン株は感染に必要なスパイク蛋白質に30個以上の変異を有する新規の変異株である。感染スピードが非常に速く、スパイク蛋白質に存在する多数の変異によってワクチン接種で得られる抗体による中和を回避しやすいのではないかと考えられています。
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