一口吸盡南山城茶

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今回のライトアップ鑑賞に際し、皆様に楽しんでいただきたいものの一つとして、喫茶をご用意しております。「陰翳礼賛」の精神を考えると、やはり羊羹は欠かせない存在です。

谷崎潤一郎も『陰翳礼賛』の中で、次のように記しています。

かつて漱石先生は『草枕』の中で羊羹の色を賛美しておられたことがあったが、そういえばあの色などはやはり瞑想的でないか。玉（ぎょく）のように半透明に曇った肌が、奥の方まで日の光を吸い取って夢みるごときほの明るさを含んでいる感じ、あの色あいの深さ、複雑さは、西洋の菓子には絶対に見られない。クリームなどはあれに比べると何という浅はかさ、単純さであろう。

だが、その羊羹の色合いも、あれを塗り物の菓子器に入れて、肌の色が辛うじて見分けられる暗がりへ沈めると、ひとしお瞑想的になる。人はあの冷たく滑らかなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一個の甘い塊になって舌の先で融けるを感じ、ほんとうはそう旨くない羊羹でも、味に異様な深みが添わるように思う。

この羊羹とともにお楽しみいただくお抹茶は、南山城の老舗・福寿園のものを使用いたします。深い闇の中に身を委ねるような瞑想のひとときを、喫茶の場でもご提案できればと考えています。

また、禅の言葉に次のようなものがあります。

「一口吸盡西江水」

これは、龐居士が馬祖道一禅師に「万法と与しない独立自存の人とはどのような人か」と尋ねた際、馬祖が「お前が西江の水を一口で飲み尽くしたら、それを教えてやろう」と答えた故事に由来します。これは、禅における絶対的な主体性の確立を示唆しており、他に依存しない完全な自立を意味します。偏りなく全てを受け入れ、余計な執着を離れ、ありのままを受け入れることで、真の価値が見いだされることを示しています。

どうぞ、お抹茶を一口含み、この夜をまるごと味わっていただければ幸いです。