前回、紹介した「朝日新聞の記事」に取り上げていただきましたが、同じように、この「古事記」の内部上演の一つを観られた方(男性/50代/兼業漁師)が、今回、ご自分の感想を送ってくださいました。ここに転載させていただきます。

 

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平和を願う詩的音楽儀式劇「古事記~天と地といのちの架け橋~」をみて

神さまたちの祈り ~●と■が、○と□に~

 

梅雨入りの蒸し暑い日だった。下北沢の劇場で、東京ノーヴィ・レパートリーシアターの舞台をみた。ロシア生まれのアニシモフ芸術監督の演出だ。監督は2011年東日本大震災と原発事故をきっかけに、月に一度日本の神話『古事記』を基にした作品を上演している。自然と人間の調和、復興がテーマである。普段は観客を入れない。監督と劇団員による〈祈りの儀式〉であった。

芸術監督のアニシモフさんは、2000年母国ロシアから日本へ招かれ、演技指導を続けている。2011年東日本大震災と原発事故が起きた。旧ソ連のチェルノブイリが頭によぎる。他人ごとではない。演劇は何ができるか。祈りの舞台を考えた。イザナギやイザナミの神話にたどり着く。国生みの物語は人間と自然の交わりを描き、壊れた自然と人間の均衡を戻す。

2018年秋、当劇団はロシアのノヴゴロド市とモスクワ市より、「古事記~天と地といのちの架け橋~」を正式招聘された。平和を願う「詩的音楽儀式劇」巡礼の旅が続く。

 

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開演前、私は舞台裏で役作り中の神さまたちに会った。ストレッチをしたり、衣装の見直しをしたり、談笑したり。思い思いの時間を過ごしていた。笛、太鼓、鐘、声明とともに、国生みの劇が始まった。白装束の神々、約30人が胡坐をしている。世の中にはいろいろな神さまがいるものだ。両耳に巻き髪を結んだ神、ぼさぼさ頭の神、つるつる頭の神、むずむず足を揉んでいる神、ひとり笑いをする神、瞑想中でどこかへ魂が抜けているような神…。ひとりが踊りだす。また別の神が立ち上がる。おもいおもいの祈りが続く。

しばらくすると、太陽の神アマテラスが岩屋に隠れた。会場は真っ暗になった。神さまは各々が懐から手鏡●をとりだす。薄暗い舞台の上で光を探しはじめる。●は光を拾い○になる。舞台に動きが湧き出てくる。天岩戸御開帳のシーンへ。神々の手鏡〇から、光の帯がまるでサーチライトのように縦横無尽に交差する。「まぶしい!」いたずら心旺盛な神様が、私の眼を攻めてきた。

舞台が終った。帰り道、私は地下鉄構内で電車を待っていた。ホームの通勤客や学生、約30人がホームでスマホ■□を握っていた。液晶画面■□を覗きこむ姿は、まるで神さまにそっくりだった。

 

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年の瀬、私は神奈川の大山阿夫利神社へお参りに行く。大漁祈願、地引漁師の大山詣を続けている。親方と先輩漁師と山道の石段を上る。下社の神殿には大きな丸い鏡がある。お参りのあとに鏡を覗き込むのがいつもの楽しみだ。山の緑や下界の街並みが見える。自分の顔が映り込む、どきりとする。帰り道、茶店に寄る。炬燵に入って熱燗に、味噌おでん、湯豆腐。親方にうながされ、私は木遣を唄う。

 

〽さあて 西行の坊さんが ある山中を 通るとき

梅の古木に腰を掛け 下みち はるかにながむれば

猪 一頭 通るべし ししならば 十六通るべし

一つ通るは 九九のあまりだよ

 

 

(男性/50代/兼業漁師)

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