彫刻家のつぶやき：「雨のラバーズ」で出逢ったおじいさんの話。

 

昨日、朝からモニュメントの設置で、何十人もの業者さんたちがそれぞれの持ち場で助けてくださって、ドキドキハラハラはあっても、大きな番狂わせはなく、無事に台座にのせることができた。皆さん、本当に心からありがとうございました。

 

11時半ごろから予報通りの雨が降り出して、その頃にはほとんどの業者さんがお帰りになり、あとは序幕までの目隠しにブルーシートをかけるため高所作業車を動かしてくださる会社の方が３人ぐらい現場に残った。私は設置作業で汚れた石肌を最後に磨き上げるため、雨の中、作業車の箱で空に上がった。

 

石磨き自体は水があると進みやすいけど、どんどん雨は酷くなっていった。でも傘なんてさしてたら仕事にならないから、こうなると、どんなに濡れたってひたすら磨くしかない。「イタリアの仲間たちがいたらな、、、」と一瞬だけ思った。全ての汚れが落とせたことを確認して、私は地上に降りた。そしてブルーシートをかけるように指示を出して、一息ついたら急にとても寒くなって、傘を預けていた母を探した。

 

母はアーバンプレイスの中で、雨宿りをしていた。

私はズブ濡れになっていた髪をタオルで拭きながら、ガラス越しに、シートをかける作業を見守っていた。

 

その私の後ろから、

 

「先生、あの石は、ビアンコ・カラーラですか？」

と声をかけるおじいさんがいた。

 

私は驚いて振り返って、

 

「そうです！！」と元気に答えた。

 

「まさかここで、ビアンコ・カラーラがお判りになる方と会えるなんて！」

と急に私のテンションがあがった。

 

おじいさんは、殆どの人がいなくなってしまったこんな時間まで、ずっと作業をご覧になっておられたようで、台座の御影石の名前や、私がどこで彫刻を学んで、この作品はイタリアのどこで制作をしてきたのかなど、次々とご質問になる。「一体どう言う方なのだろう？」と思いながらも、私は既にこのおじいさんが大好きになっていて（笑）それは、きっと私と同じでおじいさんも石が大好きな方なのかな、、、という気がしたから。

 

それからおじいさんは、ブルーシートのかかったラバーズを見ながら、

 

「この作品は『富山の最高のモニュメント』になりますね。本当に素晴らしいお仕事をされた。」

 

と何度も何度も言ってくださって握手してくださるので、

私はどんどん胸がいっぱいになって泣きそうになった。

 

さらにおじいさんは、

 

「寄付もさせていただいて、楽しみにしていたんですよ。」

 

とおっしゃっるので、もうびっくりして感激して、

今度は私が、何度も何度もお礼を言った。

 

知らない誰かが

どこかでラバーズを応援してくれて

楽しみに待っていてくれたなんて

本当になんて素敵なことなんだろうー。

 

初めてニューヨークでラバーズを設置したのは

綺麗な雲のつらなる晴れの日だった。

作業場にいた私を抱きしめて

「作ってくれてありがとう」と泣いた

見知らぬ白人女性のことを思い出した。

 

いつだって、こうやって、

ラバーズが繋いでくれる。

 

富山でもニューヨークでも。

これからも永遠に。

 

美奈子