【取材記】野生の命と向き合う人

「地美恵」宇田川保さんについて

 

 

取材を通して主演者の方々の印象や活動の様子を、

私、細田から少しずつお伝えさせていただきます。

今日は「ジビエ職人」宇田川保さんのお話です。

 

 

私にとって宇田川さんは、

いつも優しいおじいちゃんのような存在です。

お会いするたびに「息子にしてください」と言いたくなるほど。

少しシャイで、取材や撮影のときは「またカメラか〜」

なんて照れながら笑われるのですが、

いざ話し始めると、その言葉のひとつひとつが深く、

どこまでもまっすぐ。

食や命に向き合ってきた長い年月が、静かに滲み出ています。

 

最初に出会ったのは、江府町の70周年記念誌の取材のときでした。

「今度バーベキュー食わしてやるよ！」と言われ、

取材チーム全員でお邪魔しました。出てきたのは猪肉と鹿肉。

それまで私は“ジビエ＝臭い”というイメージを持っていたのですが、

そんな思い込みは一瞬で消えました。

まったく臭みがなく、驚くほど美味しい。

奥様が作られた無農薬野菜の佃煮も絶品で、

野菜はもちろん、お米まで宇田川さんがご自身で育てたものでした。

「夫婦そろって自然体のこだわり」という言葉がぴったりでした。

 

 

今回の『奥大山 自然共生リアリズム』の取材では、

一年を通して何度も宇田川さんの現場に立ち会うことができました。

鹿の処理現場にも同行しましたが、動物好きの私にとっては、
目の前の出来事を受け止めるのに少し時間がかかりました。
それでも、「自然と共に生きる」ということは、

誰かが命と向き合うということ。
その重みを、宇田川さんの背中から強く感じました。

 

宇田川さんは、40年以上にわたって大山ハムで肉の選別や製造に携わってこられた方です。

世界40カ国を巡り、本場ドイツの技術を学び、肉の“生きた品質”を見極める目を養われました。

その経験を生かし、退職後に立ち上げたのが、野生動物処理施設「奥大山 地美恵（じびえ）」です。

駆除された野生動物の命を無駄にせず、食として生かす。

その想いが、多くの人々の共感を呼び、この小さな町に“命の循環”を生み出しています。

 

「殺したくて殺すわけじゃない。苦しませたくないだけだ」

そう言って宇田川さんは、罠にかかった鹿や猪の心臓を正確に、たった一突きで仕留めます。

血を抜く速さ、処理の正確さ、すべてが命への敬意から生まれた技。

このスピードで処理できる人は全国でもほとんどいないと言われています。

そして作業のあとには、必ず獣魂碑に線香をあげ、手を合わせる。

その姿に、宇田川さんの優しさと覚悟の両方を感じます。

 

今は、次の世代への指導にも力を注がれています。

若い仲間たちに技術を伝え、この取り組みを続けていこうとされています。

ただ、「心臓をひと突き」は弟子たちにとって、まだ到底真似できる領域ではないそうです。

それほどまでに、経験と覚悟が凝縮された技なのだと思います。

 

宇田川さんのお話を聞いて、「食べる」という行為の奥にある“命の責任”をあらためて感じました。

もちろん、すぐに食のあり方を変えることは難しいかもしれません。

でも、知っておくこと、そして心に留めておくこと——それだけでも意味がある。

自然の中で人がどう生きるのか。

宇田川さんは、その問いに静かに、確かな答えを示してくれているように思います。

 

この取材を通して感じたことのすべてを、

写真と文章に込めて『奥大山 自然共生リアリズム』でお伝えします。

ぜひ、宇田川さんの生き方に触れてみてください。

 

奥大山Re:Connect　細田彰洋

 

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