シリア内戦から10年。農家の人たちの復興への一歩を支えたい！

「プロジェクト概要」で、シリアが現在、食糧不足の状況にあるとお伝えしましたが、今回の記事では、もう少し詳しくその状況をお伝えします。

2011年に始まったシリア内戦は、2019年頃からは徐々に収まり、生活再建の兆しが見えてきたかと思われました。

しかし、2020年6月に米国政府が発令したシーザー・シリア市民保護法によって、シリアに対する経済制裁が厳しくなり、さらに新型コロナウイルスの感染拡大で、貿易や国内の物資移動が制約され、2021年にはシリア国内の経済状況は著しく悪化してしまいました。

シリアポンドの貨幣価値は、2021年7月時点で、2020年9月と比較して78%下がり、物価上昇が著しく、国際連合世界食糧計画（WFP）の統計によると、一般的な5人家族が1か月に最低限必要な食糧を得るために必要な金額は、2020年1月が37,556シリアポンド（SYP）（約53ドル）だったのに対し、2021年の1月では121,066SYP（約96ドル）と3倍（ドルで2倍）になりました。

さらに、人道支援を必要とする人の数は1,340万人となり、2020年度より21％も増えています。新型コロナウイルスの影響もあり、失業率は約50%まで上昇し、人口の90%以上が貧困ライン以下の暮らしをしています。

このためシリアにおいて安定して食糧を確保できない人が、2019年末には790万人だったのが、2020年度末までには1,240万人となり、3年間で約50%も増加しました。

シリア人の食糧事情は過去3年間継続して悪化していて、人口の約70%を占める約1,420万人が食糧もしくは農業支援を必要としています。ことに脆弱性の高い女性世帯、帰還民、障がい者のいる世帯、高齢者世帯は、極めて厳しい状況にあります。

農業に関しては、シリアにおける経済危機と新型コロナウイルス感染拡大の影響により輸入が規制され、種や肥料がシリア国内で不足し、価格の上昇が続いています。

さらに新型コロナウイルス感染拡大は、種や肥料等のサプライチェーンにも影響を及ぼしています。政府は、種や肥料等の値段の上昇を懸念し、補助金を出していますが、零細農家にとって家畜の飼料、良質の肥料や種子などの農業用資材の入手は依然として困難です。

このために農業が続けられない、あるいは生産量が著しく減少した農家があり、シリア国内における食糧生産に影響が出ています。特にシリアで食事の中心となっている小麦の生産不足が深刻で、シリアの主食のパン屋の前には毎日長蛇の列ができています。

政府は小麦をはじめ農業全体の生産力増加を計画していて、2020年度は小麦の生産がやや改善され、シリア全土で約280万トンの小麦の収穫がありました。ただこれは、内戦前の約400万トンの収穫にはるかに及ばない状況です。

2021年度の小麦の収穫は5月に始まりましたが、冬の降水量不足と、それに伴う乾燥で畑の火災が頻発したため、生産量の減少が懸念されています。

シリアでは、例え食糧問題が解決したとしても、インフラがまだ完全に回復していないため、食糧の保存が難しいという問題もあります。

ホムス県はシリアでも電気の状況が特にひどく、電気がない村もあったり、電気があっても6時間停電したあとに、1時間電気がつき、そのあとにまた6時間停電したりという状況で、せっかく買った野菜も冷蔵庫に入れて保存することができません。

パルシックでは、それぞれの村の人たちからの聞き取りや話し合いを持ち、できる最大限の生活支援を一つずつ行っていこうと考えています。