斉藤章佳先生から応援メッセージをいただきました

　私は、厚生労働省が主催する小中高校生向けの薬物乱用防止教室の講座を年10回ほど行っています。

　学校の先生からはいつも「薬物の怖さを教えてください」と要望されますが、授業を聞いている生徒たちには、身近に薬物があるという実感はほとんどありません。日本では、大人であっても報道で薬物を知っているだけで、リアルに実感を持っている人は少ないでしょう。なぜなら、生涯で違法薬物を使用する日本人はわずか2.7%に過ぎないからです。

 

　私は、薬物乱用防止教室では最初の10分くらい痴漢犯罪についての情報も伝えています。そうすると、女子生徒がうなずきながら聞いてくれます。性被害にあっていたり、被害にあう可能性を日常的に感じているからでしょう。

 

　男子生徒で加害者や被害者になっている人はごく少数ですが、多くの生徒が痴漢の実態を初めて知って驚きます。同じクラスで学んでいる女子生徒がこんなにひどい現実にさらされていると言うことにショックを受けます。

 

　生徒たち反応から、小中高生ですでに男性と女性では見ている現実が違うということがわかります。性暴力に関しては男女の認識の差が大きいのですが、こうして痴漢の実態を伝えることでお互いの見ている世界を近づけることができると私は感じています。

 

　早い段階で男子の認識を変えるチャンスなのです。本来でしたら、しっかり60分使って、痴漢や盗撮の実態や、その被害が与える影響について伝える授業をしていくことが重要だと考えています。

 

　痴漢抑止バッジについては、活動の当初から注目していました。前述の薬物乱用防止教室で痴漢犯罪について話す時にも、痴漢抑止バッジの実物を生徒の皆さんに手に取って見てもらっています。もちろん、痴漢抑止バッジを知らない子が大半です。

 

　痴漢抑止バッジをカバンにつけるだけで、痴漢にあいにくくなるのは自分自身を守る方法があるという新たな発見が生まれます。

 

　このバッジが毎年、学生を対象にしたデザインコンテストでデザインを募集していることや、審査の過程に中高生が関わっていることを伝えると、非常に興味を示してくれます。自分たちと同年代の人が作っているというのが驚きを持って受け止められます。

 

　実は、痴漢に対してなんとかしたいと思いながら、どうしていいかわからない。みんなが被害に遭っているから、自分も我慢しなくてはいけない。仕方がないと諦めている子が多いのです。

 

　痴漢抑止バッジは、痴漢に対して「NO！」の意思表示ができると知り、「自分も嫌だと言っていい」「私は痴漢されるべきではない」と理解することにつながります。それが、ゆくゆくは女性の生きづらさの解決につながっていきます。

 

　薬物の話に戻っていうと、アメリカでは人口の約48%が生涯に違法薬物に触れる機会があると言われています。

　そのため薬物の依存症の知識を小学校から教えています。違法薬物が身近にあるからです。依存症になったらどうしたらいいのか？ を小学校の時から教えています。

 

　日本でもこれだけ子どもが性暴力にあっている中で、痴漢問題を含め性暴力に対して何も子どもに教えていないというのは非常に問題があると思います。本来でしたら、普通に学校の授業で痴漢や性暴力についての知識を学ぶのが当たり前になってほしいと思っています。

 

　痴漢犯罪の加害者も被害者も声を上げづらい社会になっているのは、正しい性教育を受けていないのが一因だと考えています。

 

　今回のプロジェクトを通じて、１校でも多くに痴漢抑止バッジ痴漢犯罪防犯講座セットを届けていきたいと、私も力を尽くしていくつもりでいます。

 

大船榎本クリニック精神保健福祉部長・精神保健福祉士・社会福祉士

斉藤章佳氏