両吟集「カイエ」

3分の2がすぎたところで、85パーセント達成。ありがとうございます。希望があります。

クラファン成立して、歌集が出せる運びになったら、あわせて、両吟の未発表分を冊子にまとめたいと思います。タイトルは「カイエ」。一番最後の両吟のタイトルでした。雑記帳という意味。

タイトルはすべて蝦名さんが考えていました。考えつかないと、「せーの！」とか、適当に置いていることもあったけれど、亡くなるすこし前まで「タイトルを変えたい」とか言ってきて、心をかけていました。
なぜ、そのタイトルなのか、私はわかりません。意味ぐらいは調べたけれど、理由を聞いたことはなかった気がします。蝦名さんが決めたんならそれでいいって思ってました。

 

「カイエ」は、6巻360首あります。

　　キアロスクーロ（起首2016.10.7 ～満尾2017.3.13）

　　ワルツィング・マチルダ（起首2017.4.3 ～満尾2017.9.26）

        ロイター通信（起首2016.9.27 ～満尾2018.4.6）

　　さっきの黒い馬（起首2018.6.12 ～満尾2018.12.15）

　　ホレイシオ（起首2019.2.3 ～満尾2019.9.24）

        カイエ（起首2019.10.16 ～満尾2020.9.16）

 

両吟からすこし、蝦名さんの歌を紹介します。いくつかは「クアドラプル　プレイ」に、いくつかは「ニューヨークの唇」に残るけれど、ここでは、たぶん、ここでしか残らない歌たちを。

 

　　ダコタから歩いてきたとしあわせが帽子をぬいで水をほしがる　　

　　記憶とはあなたを思い出すためのしゃもじのようなはかなげな機器

　　かろうじてつながるかすがいを持てど何につながるかはわからない

　　世の中でもっとも汚れた涙拭き買い替えもせず洗濯もせず

　　人形を運ぶ群れ感情を運ぶ群れ叫びを造る工場

　　地球にはもうもどれずや安方と善知鳥と呼ばう宇宙船二羽

　　うしろまえのシャツ直してもうしろまえ誰かがいたずらしているのだな

 

最後の「カイエ」の一巻が長い時間がかかっているのは、蝦名さんが、そのころは坐骨神経痛と思っていた痛みと、闘わなければならなかったからでした。私のほうも、そのころ身近な人の死が相次いでいました。

 

　　わたしからなにかが抜けた夜明けまえ半白猫が国道をわたる

 

蝦名さんのこの歌を2020年の春頃に受け取ったとき、何かいいようのない不安な胸騒ぎがしたのを、思い出します。このあと、9月に両吟を終えたあと、蝦名さんの痛みが、癌の転移によるものとわかったのでした。

両吟は先攻後攻交代しながら続いていました。「カイエ」の最後は野樹の歌で終わっています。

「次、蝦名さんから」

永遠に言えない言葉になりました。

 

ああ、「カイエ」にはこんな歌もあります。

　　花は会う小説家が追いつけない速さで消えた主人公と