世界のクマ研究最前線｜クマが生きられる環境を未来に残したい

私たちはヒグマがどのような場所を利用しているか知るために、ヒグマを捕獲しGPS首輪を付けて移動行動データを集めています。2021年10月8日、北大中川研究林で若いオスが捕獲されました。肩に白い斑紋があったので“ケンシロウ”という名前を付けました。首輪は翌年7月に脱落してしまいましたが、10月から冬眠、冬眠明けから7月までの間のケンシロウの行動を追跡することができました。ケンシロウは冬眠期以外の4か月の間に、中川町・遠別町・天塩町・初山別村・音威子府村・美深町の7町村を含む1,352km²という広大な地域を動き回りました。この広さは札幌市の面積1,121 km²よりもはるかに広く、この間に移動した距離は全長624㎞に及びました。その間、ケンシロウは主に森林内の林縁近くを移動していましたが、４回だけ開けた農地を横断しました。その距離はすべて2.5㎞以内で、横断した時刻はすべて夜の20時～22時の間でした。これは、ケンシロウが人に目撃されるのを極力避けていたことを示しています。移動中に何度も農地を眺めているかと思いますが、農地内にとどまったのは4か月の間に一度だけで、夜中の22時から翌日明朝の4時までの6時間だけでした。さらに、ケンシロウが冬眠した場所は、交通量の多い国道から最も離れた山地の中でした。以上のことから、この若いオスは人里近くの森林内を長距離移動しながらも、人目を避けて用心深く行動していることがわかりました。このようにGPS首輪を装着して得られたデータは、クマが森林・農地・道路をどのように見ているのか、人目を避けるためにどのように知恵を絞っているかを私たちに教えてくれます。首輪が外れた今では、ケンシロウがどうしているかわかりませんが、立派なオスになるまで無事に生き残ってくれることを祈るばかりです。