支援総額
目標金額 610,000円
- 支援者
- 61人
- 募集終了日
- 2015年11月27日
「ひまわり」映画主題歌 作曲:ヘンリー・マンシーニ
※終了まで30日となりました、このまま何もせずに待つのも芸がないので「歌と体操のサロン」で体験したエピソードを、鍵となった音楽と共に書き記してみたいと思います
2011年の夏、被災地となった三陸沿岸の各地に設置された学校の体育館や公民館などの避難所は、そこに住む人々の仮設住宅への転居や内陸への避難などで徐々に規模が縮小され、閉鎖が相次ぎました。私は宮古市にある小学校の体育館と、大槌町の数カ所の避難所、そして山田町にある廃業したホテルに避難していた障害者施設の皆さんの元に毎週末訪れていましたが、全て「もう、これでお終いです。ありがとうございました」と打ち切りになりました。
さて、どうするか。4月からずっと通い続けてきた片道100kmの海辺の町は、既に私(と、一緒に通っていたアシスタントなすちゃん、弟子のY、現地の音楽療法士Mさん)にとって生活の一部となっていました。打ち切りになったから、もう関与しなくても良いですよ‥といわれても、なかなか気持ちの踏ん切りはつきませんでした。避難所から出たあと、彼らはどうなるのだろうか。一緒に歌を歌い、話をした彼らの行く末を見届けたい、という気持ちが募りました。
私がとても気になる避難所住民の一人に、宮古市の体育館で何度も「歌と体操のサロン」に参加してくれた50代の男性がいました。脳卒中の後遺症で半身に障害のある彼はいつもニット帽をかぶって、感染予防のためのマスクをしていました。初対面の時には、杖をつきながら興味深そうにキーボードを眺めた後、私に向かって
「好きな音楽、何でもリクエストしていいの?」
と聞きました。
「是非どうぞ、懐メロやスタンダードの楽譜も持ってきていますから大丈夫です」
と私は言いました。
「じゃあ」
彼は一呼吸おいてから
「バッハの小フーガト短調」
と言いました。
音楽療法士として働き始めてから20数年目にして、私は二の句が継げないほど固まってしまいました。午前10時過ぎの体育館は、家の片付けで人が殆ど出払っていて、残ったのはニット帽の彼と体の不自由なお年寄り、そして子どもたち。全員が沈黙のまま、数秒が過ぎ、私はやっと口を開いて
「‥すいません、次回までの宿題にさせてください」
と平謝りしました。
暗譜、しかもうろ覚えで弾くにはバッハは荷が重すぎました。
これがニット帽の彼との鮮烈な記憶を伴った出会いでした。
それから毎週末の土曜日の午前、彼は毎回すごいリクエストをまるで一休さんに無理難題を投げつける将軍様のように私にぶつけてきました。コンチネンタル・タンゴ、スタンダードジャズ、オペラのアリア。主に西洋の音楽ばかりです。避難所ではお年寄りの相手が多いだろうから、得意な懐メロを持っていけば良いだろうと目論んでいた私の甘い考えは、彼からの怒涛の無茶振りにより粉々に砕け散りました。こちらが狼狽すればするほど、彼は愉快な気分になるようで、徐々に気を許して自らの半生を語るようになってくれました。
「若い頃はね、宮古市にもたくさんの映画館があって、良く通ったものです。私はモダンな洋画が大好きだったので、それらの主題歌のレコードもたくさん持ってました。残念ながら今回の津波で、全部持っていかれましたけどね」
「私も洋画、結構見てますよ。例えば、どんなのがお好きですか?」
ようやく自分との接点が出来そうだと思い、私は身を乗り出して聞きました。
「そうだな‥一番好きなのは、ソフィアローレンが出ていた“ひまわり”かな」
私はキーボードに向かい、単旋律に簡単な和声をつけて、主題歌を弾き始めました。
「確か、こういう音楽でしたよね?」
「そうだね、似ているね。完璧ではないけど」
うーむ、相変わらず厳しい。何度か繰り返して、和声のボイシングや副旋律なども工夫して、アレンジを加えていきました。
「だんだん上手になってきたよ、さすがに音大出ているねキミ」
映画「ひまわり」は第2次世界大戦下でソフィアローレン演じる縫い子の娘が、マルチェロマストロヤンニ演じる夫が消息を絶ったソ連へ写真を片手に探しに行き、現地で残酷な現実をつきつけられる悲恋の話です。ヘンリー・マンシーニの作曲した音楽は、その悲しいストーリーと共に世界中で愛されました。
「この映画を見た頃はまだ青年だったけど、夢も希望もいっぱいあった。今はもう老いてしまって、しかもたった一人で何もかもなくしてしまった。この音楽を聞くと、複雑な気持ちになるよ。懐かしいやら、悲しいやら」
彼はそのままうつむいて、押し黙ってしまいました。私は鍵盤から手を離して、じっと彼が再び語り出すのを待ちました。
「‥ありがとう、また来週楽しみに待っているよ」
この日はこれで活動が終わってしまい、私はダンボールの衝立で囲まれた自分の寝床へ戻る彼の背中を見送り、帰り支度をしました。
そして夏のある日、彼が避難所で最後の一人となり、ようやく転居する仮設住宅が決まったと知らせがきました。引っ越しの手伝いに行きますよ、と申し出たのですが、丁重に断られました。
避難所の訪問は宮古市の保健センターから人づてで許可をとっていたのですが、その後パイプが途切れてしまい(災害後の混乱期だったため)、もう打つては無いかと諦めかけていたのですが、思い切って社会福祉協議会にアポ無しで押しかけて、偶然見かけた名前の知っている職員さんに
「仮設住宅に入っている人を対象とした音楽療法をやりたいのですが、相談にのってくれませんか」
と図々しくお願いをしてみました。彼女は即答せず、何週間か音信不通でしたが、何とか上部の許可を取り付けてくれて、私にどこの仮設に行きたいのかと電話をくれました。私は迷わず、ニット帽の彼のもとへ訪問したいとの旨を告げ、彼の住む仮設団地での音楽療法のコーディネートをお願いしました。
しかし残念ながら、ニット帽の彼は心機一転、仮設での再出発をしたいので、避難所時代のことは引きずりたくない‥とのことで拒絶されました。
私の仮設住宅での活動は、こうやって出鼻をくじかれたのですが、捨てる神あれば拾う神あり‥前述の社協職員さんは色々と便宜を図ってくれて、他の数カ所の仮設団地で活動が出来るようにしてくれました。
その後、ニット帽の彼と再開することはありませんでした。
リターン
3,000円

①お礼状(ポストカード)
- 申込数
- 34
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2016年2月
10,000円

①お礼状(ポストカード)
②写真集1冊
③当法人ホームページへお名前の記載
(掲載を希望されない場合はご連絡下さい)
- 申込数
- 20
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2016年2月
3,000円

①お礼状(ポストカード)
- 申込数
- 34
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2016年2月
10,000円

①お礼状(ポストカード)
②写真集1冊
③当法人ホームページへお名前の記載
(掲載を希望されない場合はご連絡下さい)
- 申込数
- 20
- 在庫数
- 制限なし
- 発送完了予定月
- 2016年2月

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